山のあなたの雲と幽霊  

福田尚代 個展

企画:表参道画廊+MUSEE F

会場:MUSEE F 

協力:小出由紀子事務所

会期:2018年10/15(月) ~ 10/27 

  雲のしらせ      

展示風景  ⇨ 

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本展では、《袖の涙》シリーズの新作を発表いたします。

《袖の涙》シリーズは、古くから和歌に詠まれてきたような、涙が沁み込み、ときに朽ちてゆく〈袖〉という媒体への共鳴から生まれました。(※)

拡張した身体であり、此岸と彼岸の境界でもある袖に触れつづける行為は、死者と遺された者との関わりに知覚をはたらかせる時間であったとも思われます。

新作では、幽霊という領域に一歩踏み込みました。衣類の袖を綿状にほぐすなかで、袖の涙から雲へ、雲から幽霊へと、修辞上の飛躍を彫刻的な手法で一息に体感することとなり、身体感覚に潜む無意識のゆくえに驚いています。

日々の生活では幽霊を信じていないにもかかわらず、制作に没頭する別の空間では圧倒的に存在してしまう、そんな美術の術についても、あらためて考えさせられます。

また、子供の頃に、遊戯や読書に親しみながら夢想していた〈アズキと幽霊〉〈ソラマメと虚構〉をめぐる物語も、ようやくささやかなかたちになろうとしています。ご高覧いただければ幸いです。

展覧会タイトルに含まれる〈山のあなた〉は、カール・ブッセの詩から引いています。幼い頃、この言葉を誤読したことにより〈彼方〉と〈貴方〉が混ざりあい、山のように遠く巨大でありながらも実体のつかめない、謎めいた存在と出逢ったのです。言葉の不思議さを味わわせてくれたこの響きには、あなたとわたしとなにものかが互いに乗り移り、遠大と極小が入れ子となった幽谷が見えないでしょうか。


 2018年8月 福田尚代(美術家)


(※)同シリーズには、袖に見立てたハンカチにオイルパステルを塗り込めた《袖の涙、あるいは塵をふりつもらせるための場所》、古いハンカチを用いて小さな袖を縫う《袖の涙》等があり、「Reflection:返礼—榎倉康二へ」展(2015年)にて展示されました。


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福田尚代

《氷山》

2018年 

ほぐされた衣類の袖、軟膏のふた 

12×12×13㎜



福田尚代

《Dear Fairy & Fiction :Life Saver》

2018年 

毛糸、刺繍糸、ハンカチ 

サイズ可変  



福田尚代

《山のあなたの雲と幽霊》

2018年 

ほぐされた衣類の袖 

サイズ可変 



福田尚代

《世界をつなぎとめる糸》

2018年 

脱色されたハンカチに刺繍 

サイズ可変 



福田尚代

《精霊》

2018年 

編み棒に彫刻 

150㎜ 



福田尚代

《100枚の毛布》

2018年 

アズキとソラマメで染めたハンカチ、貝ボタン 

85×85×90㎜ 



福田尚代

《わたしたち、言葉になって帰ってくる》

2018年 

コラージュ(部分)