食糧・バイオリファイナリー共用イネの開発

 持続的社会の構築に再生可能資源であるバイオマスの利用が期待されています。稲わらは米の生産に伴い毎年大量に(国内で800万トンほど)に生産されるバイオマスですが、そのほとんどが有効利用されず、漉き込みや焼却により処分されています。稲わらを含むセルロース系バイオマスは、糖に分解すれば発酵してバイオエネルギーとして利用したり、さらに重合して化成品として利用することができますが、糖化の困難さがそれを阻んでいます。私たちはさまざまな手法を用いて、稲わらの糖化性を向上させる研究に取り組んでいます。

 私たちは2つの方法で稲わらの糖化性の向上に取り組んでいます。

(1)老化期特異的セルラーゼ発現

 私たちは、イネの生育中にセルラーゼを発現させれば細胞壁が少し傷つき、そのような稲わらは糖化の際に糖化酵素が細胞壁内部まで行き届きやすくなり、効率的に糖に分解されるのではないかと考えました。そこで、恒常的に高発現するプロモーターを用いてセルラーゼを発現させたところ、稲わらの糖化性は期待通り向上しましたが、穂が正常に形成されず、不稔となってしまいました。恒常的に発現させるということは穂の形成時にも発現させるということで、その結果、穂が正常に形成されないのであれば、穂が形成された後に発現させれば、もう穂の異常は起こらないのではないかと考えました。そこで、恒常的に高発現するプロモーターの代わりに、老化期特異的に発現するプロモーターを用いてセルラーゼを発現させました。その結果、穂に異常を示さず、稲わらの糖化性を向上させることができました。

 現在、さらに糖化性を向上させるための研究を進めています。

(2)高糖化性遺伝子の同定と利用

 私たちは、稲わらの糖化性に品種間差があることを見出しました。コシヒカリの糖化性は低く、カサラス(実験によく使われるインディカの品種)の糖化性は高いことがわかりました(図1)。そこで、この差をもたらす遺伝子を見つけ出して、利用することを考えました。つまり、カサラスが持つ高糖化性遺伝子を見つけ出し、交配によりコシヒカリに導入すれば、米はコシヒカリで、稲わらの糖化性はカサラスのように高くなった稲を作出できるはずです。そのような遺伝子を探索したところ、第3染色体に葉の糖化性を向上させる遺伝子が存在することがわかりました。この遺伝子は茎の糖化性には影響を与えませんでした。

 現在、この遺伝子の同定を目指した研究を進めています。

図1、コシヒカリとカサラスの糖化性

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