研究紹介

 花粉は環境ストレスを受けやすく、たとえば、イネが冷害を受けて花粉が不稔になることはよく知られています。私たちは、花粉発達に関わる遺伝子の研究を行っています。また、花粉発達にはミトコンドリアが特に重要な役割を果たします。私たちはミトコンドリアの分化、遺伝子発現制御および核との相互作用について研究しています。核とミトコンドリアの相互作用により花粉が死滅する細胞質雄性不稔という現象が知られています。私たちはイネの細胞質雄性不稔/稔性回復システムの分子機構を植物環境適応という観点から研究しています。このシステムはハイブリッドライスの育種への応用も可能です。

Takatsuka et al (2021) Rice 14, 46

Toriyama (2021) Plant Biotechnol 38, 285-295 (review)


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 抗生物質の大量使用により多剤耐性菌が蔓延し、人の公衆衛生や畜産業の脅威となっています。抗生物質の代替薬として抗菌タンパク質の利用が期待されていますが、生産コストの高さがそれを拒んでいます。そこでイネを用いて抗菌タンパク質などの有用タンパク質を超低コストで生産する手法の開発を行っています。抗菌タンパク質を生産するイネは植物工場で生育させる必要がありますが、照明とそれに伴うエアコンの電気コストがかかってしまいます。私たちは電気コストを大幅に削減できる暗所でイネを発芽させ、有用タンパク質を生産する手法の開発に取り組んでいます。また、イネ振盪培養細胞を用いた生産手法の開発も行っています。


Watanabe et al (2022) Sci Rep 12, 7759


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 持続的社会の構築に再生可能資源であるバイオマスの利用が期待されています。稲わらは米の生産に伴い毎年大量に(国内で800万トンほど)に生産されるバイオマスですが、そのほとんどが有効利用されず、漉き込みや焼却により処分されています。稲わらを含むセルロース系バイオマスは、糖に分解すれば発酵してバイオエネルギーとして利用したり、さらに重合して化成品として利用することができますが、糖化の困難さがそれを阻んでいます。私たちはさまざまな手法を用いて、稲わらの糖化性を向上させる研究に取り組んでいます。

Abe et al (2016) Plant Biotechnol 33, 105-110

Furukawa et al (2014) Transgenic Res 23, 531-537


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 細胞培養によって工業的に農産物を生産する考え方は『細胞農業(Cellular Agriculture)』と呼ばれています。細胞を持つすべての生物は生産の対象となり、また細胞自体は生産工程における役割を担う可能性があります。細胞培養でできた食品は「細胞性食品」と呼ばれ、一般的に言われる培養肉・培養魚肉が該当します。私たちは植物培養細胞が持つ生産能力を最大化するとともに、動物細胞培養や微生物細胞培養への可能性を検討し、現代農業と連携しながら、持続可能な未来の農業の確立を目指します。

 こめ油はトコフェノール(ビタミンE)、トコトリエノール(スーパービタミンE ) などの機能性成分に富み、「健康油」として消費者の人気が高まっています。一方、こめ油は米ぬかから生産されますが、国内の米消費量の減少もあり、米ぬかの供給が追いついていません。そこで、こめ油含量の多いイネ品種開発のための基礎的な遺伝情報を明らかにすることを目指しています。将来、これらの情報を活用しておいしい米だけでなく、こめ油の生産にも適したイネ品種が開発されることを期待しています。