コラム #02

建築・転用

ブリコラージュ共和国を建国するにあたって、審査員がそれぞれブリコラージュだと思う作品を持ち寄ったという、作品選びのルールを作らなかった経緯がある。そのことが影響しているのか、現在(2022年5月)の段階では家具やプロダクト、芸術作品が多く、我々建築学科生のプロジェクトとしては建築作品が少ないように感じられる。持ち寄った少ない建築作品の中でも、そのほとんどはリノベーションの作品であった。リノベーションは元来「転用」という性質を持っているために、「リノベーションはすべてブリコラージュなのではないか?」という疑問が生じ、審査の議論がまとまらないことが多かった。


「彼の使う資材の世界は閉じている。そして『もちあわせ』、すなわちそのときそのとき限られた道具と材料の集合で何とかするというのがゲームの規則である。」

クロード・レヴィ = ストロース(1962)「野生の思考」みすず書房pp23


 これはブリコラージュの原義とも言える文章であり、ありあわせのモノを「転用」さえすればブリコラージュだと誤解を生む文章でもある。例えばリノベーション作品は

(既存躯体)+(新規材料)→(リノベーション作品)

というように、ありあわせである既存の材料を組み替えることを当たり前のように行うので、リノベーションにおける転用は一見ブリコラージュのように感じるのであるが、事例を挙げてよく観察すると、「過度な加工」を伴ったり「意味の変わらない転用」であったりと、ブリコラージュと言い切れないリノベーション作品が多くでてきて、リノベーションにおける「転用」は必ずしもブリコラージュとは限らないことに気づく。


そこで、今回のコラムでは建築やリノベーションにおける「転用」を用いた作品を、ブリコラージュと認定できる線引きはどのようにしたら可能か。我々の議論の結果を例を追って紹介したい。



 まず第一に、我々はブリコラージュを観察するときの見方のレベル(=フレーミング)を明確にする必要がある。


 例として、町屋のリノベーションをあげる。既存の壁、土間などが改修され、新しい壁になり土間は床になるとする。壁の場合は、既存の部材から新規の部材となるだけで特に読み替えはないが、一方で土間の方は、床板が付加されて上足の空間になるので、「室空間」の機能のレベルにおいて居間や寝室などに読み替えが起こることが考えられる。

(既存の土間)+(床板)→(居間)


 それとは別にモノ・部材のレベルの見方もある。例えばブリコラージュ共和国民である「T-HOUSE New Balance」(*1)は、蔵の骨組みを「転用」させた作品であるが、ブリコラージュが際立っているとして我々が評価したのは、その中でも柱の貫穴を用いたハンガーラックへの転用である。ここでは

(蔵の柱)+(貫穴)+(他の木材)→(ハンガーラック)

というように、モノ・部材のレベルでの意味の変換が取り出せる。


このように、室空間のレベルとモノ・部材のレベルを分けて考えるのは一つのポイントであり、場合によっては、「転用」がひとつの作品の中で複数のレベルに同時に存在することさえあるから、我々はどのレベルに着目するかを明快に決めた上で注意深く議論を始める必要がある。





 以上のレベルの整理の後にやっと審査に取り掛かるのであるが、前述の通りすべての「転用」がブリコラージュというわけではないので、我々は「転用」を精査するのに異なるレベルで共通の審査基準を作らなければならず、これがプロジェクトの難儀のひとつになっていた。


 しかし、今度も結果は単純で、以下の2項をみればよいという結論に落ち着いた。


 ・その「転用」は以前と異なった「配列」をつくっているか

 ・その「転用」の方法は新しいかどうか。


 「配列」とは、組み合わせのことである。ブリコラージュの手法として「転用」は建築に限らず日常的なもので、ブリコラージュの立体作品の多くは転用により成立している。精査の第一のポイントは、その「転用」において、「配列」変更による機能や意味の読み替えができているかどうかである。読み替えは程度問題ではなく、以前の体系における関係性から逸脱していることが重要である。平易に言えば、単に仕上げ材に古材を転用しておしゃれにリノベーションしただけで、室の構成や用途のレベルでも、部材の構成や使い方のレベルでも、以前と変わらないものは例え転用でもブリコラージュではない

 審査の第二のポイントは、コラム#1の「見立て」と全く同様で、建築ジャンルにおいてその「転用」の方法新規性を問うということ。建築の場合は、室の用途の変更や建材の再利用は頻繁にされることであるから、第一のポイントをクリアしたとしてもすべての配列変更をブリコラージュと認める訳にはいかない。たとえば、先にあげた町家の例のように、土間に床を貼って室の機能を変えるというやり方はあまりにありきたりで、ブリコラージュと認めるには芸がないといえる。



*1 【T-HOUSE New Balance】 

審査の事例をあげて補足していこうと思う。


 空間の「配列」の例としては、スキーマ建築計画の【Sayama Flat】(*2)をあげる。これは新たな要素を足すことなく、既存の状態から引く操作のみで改修し、nLDKの型を解体している。元々は3室あった住戸がワンルームの空間になり

(室A)+(室B)+(室C)→(大部屋)

という変換があり、この関係性の中で既存の(建具枠)と(襖)がまるで(オブジェ)のような存在感を出している。このような空間の「配列」の変更による制作行為は、ブリコラージュであると言える。


一方、空間の配列でもうひとつの例として、北山恒(architecture WORKSHOP)の【蒲郡園芸サポート施設】(*3)をあげる。これは

(ビニールハウス)→(ビニールハウス)

であり、ビニールハウスそのものにも変化や読み替えはなく、一見は全くブリコラージュでない。しかし、図面をよく観察すると、ビニールハウスとビニールハウスのが一本の通路となって正面広場に象徴的に繋げられていることが分かり、これはむしろビニールハウス同士の配置に焦点を当てたデザインであることに気づく。これはつまり、室の配列の編集による内部空間の変換でなく、建物の配列の編集による外部空間の変換ということだ。


 モノの「配列」の例としては、「T-HOUSE New Balance」をあげる。ハンガーラックに着目すると、蔵では貫穴によって木材と組み合わされていたが、SHOPでは貫穴はハンガーバーと結びついており、以前の体系の「配列」と異なっているためブリコラージュと言える。




上記の精査のポイントはコラム#1において『その「見立て」が新しいかどうか』という線引きに似ている。異なる点としては「見立て」は要素の読み替えを、主にビジュアルな要素の読み替えの新規性を求めたのに対し、「転用」はむしろ、ビジュアルには変わらなくても形態と用途の関係性の読み替えに新規性を求めるものではないだろうか。


断っておきたいのは、ブリコラージュには一定の構造と呼べるものが必要だが、それは既存の構造でも良くブリコラージュと認定できるものである。しかし、どうやらブリコラージュ共和国にとって体系間の要素の結び付け方(範列関係)の新規性は重要であり、入国するには我々を唸らせる新規性も必要なのかもしれないとだけ付け加えておきたい。

*2 【Sayama Flat】

築29年の集合住宅の住戸を低予算の中、引く手法により3LDK→1室空間に改修した作品。残された素材が新しい関係を作り出す。 

*3 【蒲郡園芸サポート施設】photo by DAICI ANO

既存温室,改修温室,新築温室・屋根架構,移築温室からなる園芸サポート施設。既存と新規の構築物を一筆書きの動線を描くように再構築。 


2022/5/13


審査委員 日下 真一


(明治大学建築史・建築論研室 博士前期課程2年)

引用、参考:

クロード・レヴィ=ストロース(1962)『野生の思考』(La Pensée sauvage) 大橋保夫 訳,みすず書房,pp23

*1―Schemata Architects「T-HOUSE New Balance」、http://schemata.jp/t-house-new-balance/

*2―Schemata Architects「Sayama Flat」、http://schemata.jp/sayama-flat/

*3北山恒「蒲郡園芸サポート施設」、https://archws.com/works/072/072.html