コラム #01

「見立て」というブリコラージュ

 ブリコラージュにおける意味の変換を成立させる性質としてもっとも頻出するのが、《形態》の類似である。その中でも特に、視覚における形態的の類似、つまり見た目の類似によって、あるものを他のものになぞらえるような行為を、日本では「見立て」と呼んでいる。「見立て」は日本の芸術では古くから認められている手法のひとつであり、庭園、茶室、生花、短歌(詩歌)など複数のジャンルで共有されている。庭園であれば、白砂で海を見立て、石で島や山を見立てる。茶室であれは、千利休が、水筒のひょうたんを花入に、船の潜り口をにじり口に見立て、これらの総合によって独自の美意識を生んだのは有名である。

*1 【足立美術館庭園】 

 日本における「見立て」では、ある主題に対し、ある新しい見立てが一度成立すると、同じ見立てがその後も別の作者によって繰り返されて、やがて方法が定着し、方法がジャンルの定石になることがしばしばある。これは、ある主題に対しある新しい意味(イメージ)が定着したことと同義であるため、いわゆる、メタファーの定着である。日本ではこのような見立ての繰り返しによって、メタファーの連鎖をつくり、言葉を豊かにしてきたと言えるだろう。例えば、庭園を例にして、建築家の磯崎新は以下のように語っている、

「(略)…たとえば庭園の構成要素のひとつでもある富士山のかたちをとりだしてみよう。富士山は聖山とされた。それは日本における須弥吸であった。天空にむかってもりあがっていく形状は、ここに天と地が交合する宇宙軸があると信じられた。富士山に須弥山が転移したように、日本各地で同様な形態をした山が、同じく聖山とみとめられ、土地の名称をかぶせて、近江富士、豊後富士などと呼ばれている。これは庭園にとりいれられ、三角状の築山が、水前寺公園の庭園のように、富士を模してつくられる。さらに抽象化して、慈照寺銀閣庭園の円錐台の盛砂が、やはり、富士を模していると解されている。富士山は図形化された須弥山のように垂直に切りたっていずに、むしろなだらかにすそが広がっている。この形状は、扇面を連想させる。そこで、末広がりして、後世が繁栄するという幸運のシンボルともされる。そして文字の「八」 が、そのまま代用されることもある。これも形態的な連想である。」

磯崎 新(1990)「見立ての手法」『見立ての手法―日本的空間の読解』 鹿島出版会,pp125-126


 さて、このような「見立て」のうち、特に日本庭園というジャンルでは、ほとんどの場合、ブリコラージュが成立していると言える。なぜなら、石や植物などの限られた事物の組み合わせによって、自然界を模倣したひとつの構造をつくっているのだから。しかし、このことは我々、ブリコラージュ作品を精査する審査委員会にとっては不都合であった。日本庭園なら全部合格。そんな大雑把な審査はとてもできない。そこらの庭園と芸術家のブリコラージュ作品を同列に並べるのなんて、さすがに思慮に欠ける。それでは、どのような基準を設けるのが適当か。この問題はこのプロジェクトの難儀のひとつとなっていたが、その答えは案外早くきまった。結論、審査のポイントは、

その「見立て」が新しいかどうか。

その一点で片づけられる。あるブリコラージュ(見立て)がジャンルの中に定石となっているのだとしたら、その部分だけを無視したときに、それでも別のブリコラージュ性がその作品に残るかどうか。残れば、それは新しいブリコラージュの試みとみなして、入国審査にかけて、通ればそれらをブリコラージュ作品とする。とてもシンプルなルールである。

 例えば、西口賢の【大地の家】では、ただ自然界を模倣するということではなく、古いの採石場(*2)のイメージを、庭と建物内の宇寿石や杉皮仕上げの多様な配置によって見立てる(*3)というブリコラージュを行っている。我々は庭園の専門家ではないので、この見立ての善し悪しのすべてはわからないが、新しい主題として採石場を見立てようとしている積極性を評価し、ブリコラージュ作品として認定した。

*2 【大地の家】 古い採石場

*3 【大地の家】 内観 

 ブリコラージュ憲法では、これら日本庭園をはじめとする「見立て」を手法の定石としたジャンルたちを裁くために、「特殊ジャンル」という項目を別途設けている。図らずも、我々が設けたこれらルールは、先に論じた``メタファーの連鎖を更新すること‘‘をブリコラージュ作品に要求することに繋がった訳だ。


 かくかくしかじかで、日本庭園の「見立て」の問題は解決した訳だが、筆者にはもう一つ日本庭園についての特徴として、「縮減模型」という性質が気になっている。この性質は田中達哉のミニチュア【トウモロコシ燃料ロケット】【断面を見て診断します】などの作品にもみられる。縮減模型の知覚効果についてはクロード・レヴィ=ストロースも言及をしているため、「見立て」とはまた別の時限で議論が展開できそうだと睨んでいる。今回のコラムはひとまずここまでとして、「縮減模型」の考察は次以降のコラムでじっくりと書くことにしよう。

*4 【トウモロコシ燃料ロケット】

2021/08/05

審査委員 寺澤 宏亮

(明治大学建築史・建築論研室 博士前期課程2年)

引用、参考:

磯崎 新(1990)「見立ての手法」『見立ての手法―日本的空間の読解』 鹿島出版会,pp125-126

*1―「足立美術館の庭園」、https://www.adachi-museum.or.jp/garden

*2*3―西口賢「大地の家」、『新建築住宅特集』2020年8月号 p42

*4―引用:Tatsuya Tanaka 田中達也."トウモロコシ燃料ロケット   #11月もよろしくお願いします #ポップコーン #ロケット" 2016年11月1日 7時36分 tweet〈https://twitter.com/tanaka_tatsuya/status/793220170671984640