Ando K, Inoue R, Haga H, Nishime C, Nishinaka E, Urano K (2025)
Tablet screen-touch behavior with audiovisual stimulus consequences in the common marmoset (Callithrix Jacchus). International Journal of Comparative Psychology, 38: 1-16.
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本画面目次
(1904 - 1990)
Skinner, B.F. は 米国 Harvard 大学の心理学研究室で,主としてラットとハトを用いたオペラント行動に関する実験的研究を行った。その上で,行動に関する基本原理としての強化理論体系を構築した。生体は生まれた時点から,偶発的に様々な自発行動(反応)を発するが,それらは環境側の刺激フィードバックを受ける。そこで,その生体の生存に適した刺激フィードバックのみが,その行動を強化し,以後その行動の持続的な発現頻度が増し,定着する。これが生体の学習原理であり,強化理論の本質である。ここでは,ヒトの行動についても動物の行動についても,行動それ自身が実証科学研究の対象となり,そこには行動をとおして動物の心を探るなどといった視点は存在しない。しかし,一方において厳然と存在するヒトの心や意識の重要な課題などを,動物の行動をとおして理解しようという問題意識までも,Skinner 学派が否定しているわけではない。心理学が歴史的にも,心の問題を散々取り上げて,結局は自然科学の研究領域で市民権を得られなかったところを,Skinner 学派の視点は大きく変えたといえる。生体の行動に関する強化理論は,いわゆる主観的心理主義の入り込む余地のない客観的科学的視点であり,強化行動の側面は神経科学分野でも取り入れられ,その有用性が明らかにされてきた。
このような立場は,不毛な神学的論議や精神論を避けた人間行動の本質的理解につながると考えている。なお,この領域の学問は,実験行動分析学 (The Experimental Analysis of Behavior) と呼ばれ,そこには行動に対する科学的観察視点にのっとた方法論的思想と実際の行動制御技術の両輪を包括した学問体系である。
Skinner 学派の築き上げたオペラント行動に関する実験行動分析学が包括する学問体系とそれに基づく技術は,神経科学の他にも行動薬理学,薬物依存学,教育学,経済学その他の多くの領域に広く応用され,この学問体系の普遍性と有用性が示されている。
写真は Animal Behaviour, Life Nature Library, 1966 から。
下記 URL は,Harvard University, Department of Psychology のホームページでの Skinner に関する記載。
https://psychology.fas.harvard.edu › people › b-f-skinner
オペラント行動に関する参考となる書籍を下記に挙げておきたい。
1) Holland, J.G. and Skinner B.F.: The Analysia of Behavior, A Program for Self-Instruction. McGraw Hill Book Company, Inc. 1961.
上記は,オペラント行動について理解する上で最も適切な教科書の一つであろう。本書は,プログラム学習により,読み進む構造となっており,一つ一つの知識と概念を確実に学習してから,次のステップに進むようになっている。通常の読書のように,理解してもしなくても,ページを読み進めてゆく場合とはわけが違う。本書を読み進める中で,この書籍の読書行動がオペラント行動原理に支えられたものであることに気付かされ,読書後には,爽やかな達成感が残る。半世紀以上前の教科書ではあるが,オペラント行動科学の基本について適切に学ぶことができる。これが遺伝子工学,分子生物学,免疫学など最新の医学/生物学の領域においては,古い教科書には歴史的意義は存在しても,正しい知識を吸収するには不十分な場合もあるかと思う。これらの領域では,研究対象をひとつひとつの要素に分解して,とことん分析/解明し続け,これまでの概念が大きくかわることがある。一方,行動科学研究も日進月歩してはいるが,行動という生体の最も高度にして統合された機能の枠組みについての考え方は,それが正しい限りにおいて変わることがない。これが,上記の教科書が色褪せない理由と考えている。
2) Skinner B. F. : The Behavior of Organisms: An Experimental Analysis. 1938, Appleton & Century, Reprinted by the B. F. Skinner Foundation in 1991 and 1999.
上記は,オペラント行動に関するバイブルと呼ばれている。全編を読み切るには,少し努力が必要である。85年以上前に,若き Skinner が,Harvard 大学の学位論文として執筆した内容を含めて書籍にした。
特筆すべきは,本書の終わりに近い部分に,W.T. Heron との共同研究に関する記載がある。すなわち,ラットのレバー押しオペラント行動に対して,caffein と bezedrine (amphetamine) の反応数増加効果について述べている。Amphetamine は食欲抑制効果があるにもかかわらず,餌を獲得するためのレバー押し反応の増加について特記している。ここから,おおよそ 30年後に,主として米国において,薬物とオペラント行動に関する知見を包括した行動薬理学という新たな学問領域が開花した。
3) 佐藤方哉:オペラント行動と実験行動分析学 -その双生児の来し方行末 - 心理学評論 1975年 Vol. 18 No.3, 129-161.
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https://www.jstage.jst.go.jp/article/sjpr/18/3/18_129/_pdf/-char/ja
Skinner 学派の研究業績についての歴史的概観とその将来について,和文で丁寧に記載してある。下記 URL により,PDF の閲覧可能。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/sjpr/18/3/18_129/_pdf/-char/en
本 WEB サイト内 薬物依存と行動解析 も参照されたい。
ー Schedule Controlled Behavior ー
1個のレバー付きオペラント実験箱にラットをいれて,そのレバー押し反応に対して給餌器から餌粒を与えて,反応を強化する。訓練は,まずはじめに毎回の反応ごとに餌強化し,レバー押し行動の形成確立を行う。これを連続強化スケジュール (Continuous Reinforcement Schedule) 下の行動形成と呼ぶ。しかし,これでは,ラットはいずれ飽食して,反応を止めてしまう。そこで,通常は,そこからさまざまな間欠強化スケジュール (Intermittent Rein-forcement Schedule) 下の行動形成に移行する。ここでは,レバー押し反応に対して餌などの強化刺激を与える条件設定を行う。
そこで形成された行動を,Schedule Controlled Behavior という。間欠強化スケジュールには,レバー押しの反応比率を設定して強化する定比率強化スケジュール (Fixed Ratio Schedule) や変率強化スケジュール (Variable or Random Ratio Schedule) などがある。一方,時間間隔を設定して強化するものとしては,定時間隔強化スケジュール (Fixed Interval Schedule) や変時間隔強化スケジュール (Variable or Random Interval Schedule) などがある。さらに,時間設定に関するスケジュールの中には,定頻度差別強化 (Differential Rein-forcement of Low Rates of Responding : DRL) スケジュールもある。これは,例えば 20秒の時間間隔を習得させるものである。すなわち,レバー押し反応は,20秒という時間間隔を過ぎなければ強化されることはない。もし,途中で,動物が反応してしまうと,強化されるためには,さらに 20秒間レバー押しを待たなければならない。このスケジュール下の訓練を重ねると,ラットでも,ほぼ 20秒間を待って反応するようになる。なお,強化スケジュールについては,本WEBサイト 薬物依存と行動解析 (強化スケジュール :Schedule of Reinforcement) を参照されたい。
Schedule Controlled Behavior は,薬物の行動薬理学的効果を検索するために用いられてきた。すなわち,薬物の効果が,行動抑制か,行動促進か,その薬物の用量効果関係はどうなのか,その効果の持続時間はどうなのかなどについて,レバー押し反応数をとおして,極めて鋭敏に客観的定量的に把握できる。薬理学が,分子生物学的レベルや遺伝子解析レベルとの関連において高度な発展を遂げてきたが,まるごとの生体でのトータルの反応を正確に把握することの意義も極めて重要であり,ここに述べてきたような行動解析は,中枢神経系の薬理学において,不可欠な分野といえよう。
ラットにおける薬物の Schedule Controlled Behavior に対する効果
- Amphetamine と Diazepam の DRL20秒スケジュール下の
レバー押し反応の IRT (Inter Response Time) ヒストグラム
低頻度差別強化 20 秒 (Differential Reinforcement of Low Rate Responding (DRL) 20-sec) スケージュール下のレバー押し行動を確立したラットに,Methamphetamine あるいは Diazepam を,それぞれ皮下投与 (sc) した。
レバー押し反応と次のレバー押し反応の時間間隔 (Inter Response Time: IRT) をコンピュータで測定し,1時間のセッション中の IRT ヒストグラムを示した。生理食塩水 (Saline) コントロールでは,いずれのラットも,ほぼ 20秒を中心とした分布がみられる。Methamphetamine 0.25 mg/kg では,分布のかたちは,ほぼそのままで,分布のピークが,原点側にシフトした。さらに,同薬 0.5 mg/kg では,分布のピークはさらに原点側に寄り,反応数そのものも増加した。すなわち,短い IRT を持つ反応数が増加した。一方,Diazepam 0.5 mg/kg では,分布のかたちが,やや鋭くなった印象を受ける。しかし,同薬 1 および 2 mg/kg では,分布のかたちは,より分散し,時間感覚に影響がみられたと考えられる。
ラットでのDRL スケジュール下の行動により,Methamphetamine の中枢神経興奮と Diazepam の中枢神経抑制に基づく質的効果の違いが,用量との関係において捉えられた。
Ando K (1975) Profile of drug effects on temporally spaced responding in rats. Pharmacology, Biochemistry and Behavior, 3(5): 833-841.
DOI: 10.1016/0091-3057(75)90114-8
動物が安定した高頻度のレバーを押し反応を示し,餌粒などを持続的に獲得することは,オペラント行動としてよく知られている。上記の写真は,2個のレバー付きオペラント実験箱(スキナーボックス)内のラットである。この実験条件における2種類の弁別行動について説明したい。その一つは,ランプ点灯の有無に関する外部感覚刺激を動物が手がかりとする明暗弁別行動(遅延明暗弁別行動)であり,もう一つは,薬物投与によってもたらされる内部感覚を動物が手がかりとする薬物弁別行動である(写真は,著者らの実験から)。
ランプ点灯の有無に関する明暗弁別行動(遅延明暗弁別行動)
2個のレバー上にあるそれぞれのランプのうちのいずれかを試行毎にランダムに点灯する。点灯側のラットのレバー押し反応には餌強化し,非点灯側のレバー押し反応には強化しない訓練を反復する。その結果,ラットは,ランプ点灯側レバーのみをほぼ 100% の正確性で押すようになり,ランプ明暗弁別行動が確立される。このようなランプ点灯中の同時弁別ではなく,ランプ点灯後に,様々な遅延時間をかけて,ランプ点灯の有無について調べる遅延明暗弁別反応を調べることもできる。遅延弁別反応を形成確立したラットに,中枢性アセチルコリン神経阻害薬スコポラミンの至適用量を皮下投与すると,直後の遅延時間には変化がないが,より長い遅延時間での正選択率が選択的に減少する。このとき,正反応と誤反応の合計反応数には,生理食塩水コントロールと比べて大きな差がみられない。このことから,この実験では,単に薬物の非特異的抑制効果を検出しているのではなく,薬物による遅延明暗弁別行動に対する特異的障害効果を検出したとわかる。このようなことから,遅延明暗弁別行動を認知機能を測定する単純な実験系と仮定すると,このような行動でも,薬物の認知機能障害などを測定する動物モデルのひとつとして考えることもできる。
Hironaka N, Miyata H, Ando K (1992) Effects of psychoactive drugs on short-term memory in rats and rhesus monkeys. Japanese Journal of Pharmacology. 59(1): 113-120.
DOI: 10.1254/jjp.59.113
ラットにおけるランプ点灯に関する明暗弁別行動学習曲線
オペラント実験箱の左右2個のレバーの上には,それぞれ弁別刺激用のランプとそれぞれの中央上方に強化反応開始を示す1個のランプがある。左右いずれかのランプを点灯し,それを消灯直後(遅延時間0秒)に,先の点灯側のレバー押し反応を正反応として餌強化した。ランプ点灯の左右は,試行ごとにランダム配列とした。1日1セッション(24試行)の訓練を実施し,25訓練日(EXPERIMENTAL DAYS) にわたり,ランプ点灯側レバー押し正反応率(パーセント)を示した。正選択率 50% はチャンスレベルであり,80%以上をランプ明暗弁別達成基準とした。データは,19匹のラットの正選択率の平均値と標準誤差で示した。
オペラント実験箱前面パネルの2個のレバーと2個の弁別刺激用ランプと
1個の強化反応指示ランプの模式図ならびに遅延明暗弁別反応テストの実験手順
パネル前面には,左右にそれぞれレバーが 2個あり,その上にそれぞれランプがある。さらに,それらのランプの上方中央に 1個のランプがあり,この点灯は,ラットに正選択レバー押し反応に餌強化することを指示した。
遅延弁別反応テストでは,遅延時間 0秒の明暗弁別が達成基準に達したラットのみを使用した。その基準は,5訓練セッション連続で,正選択率が 80%以上とした。この遅延弁別テストでは,1 日のセッション内には,24 試行を与え,遅延時間 0, 2, 4 あるいは 8秒を,それぞれ 6 試行づつ,ランダム配列とし,それぞれの正選択率(点灯側ランプ下のレバー押し反応率)を計算した。
遅延弁別反応テストにおける各種遅延時間における正選択率
同時明暗弁別反応を確立したラットに,各種の遅延時間条件でテストすると,正選択率は遅延時間延長と共に,チャンスレベルの 50% に向けて減少してゆく。データは,平均値と標準誤差で示した。
記憶の忘却曲線に類似しているが,この方法だと動物の短期記憶を完全に測定しているとは言い難い。ランプ点灯後の消灯において,一定の遅延時間が経過しても,動物がランプ点灯側のレバー付近に待機している可能性を否定できないからである。動物の短期記憶を純粋に測定するには,後述のアカゲザルを用いいた遅延見本合わせ法のようなものを利用するしかない。この遅延見本合わせ反応を確立することは,ラットでは,容易ではないとされている。
Scopolamine と Diazepam の遅延弁別反応に対する効果
遅延弁別反応を確立したラットに,生理食塩水(Saline),Scopolamine (SCP) 0.03 mg/kg, SCP 0.06 mg/kg を皮下投与してテストした。SCP 0.03 mg/kg では,生理食塩水投与のコントロールに比べて,遅延時間 8 秒でのみ,正選択率に特異的減少がみられた。SCP 8 mg/kg では,遅延時間0秒から,正選択率に減少がみられた。一方,Diazepem (DZP) では,1 および 2 mg/kg について,遅延時間0, 2 および 4秒について,生理食塩水コントロールレベルと比べて正選択率に全般的減少がみられた。
*: p < 0.05, ** : p < 0.01
Scopolamine: 中枢性アセチルコリン神経受容体阻害薬である。アセチルコリン神経は,認知機能に関して重要な役割を果たしており,その阻害は,認知機能に障害が起こるとされている。上図では,そのような選択的障害が,Scopolamine 0.03 mg/kg により,とらえられたと考えている。一方,同薬 0.06 mg/kg では,全般的ならびに非特異的障害も含まれていると考えている。
Diazepam: Benzodiazepine系 抗不安薬 で,中枢神経をある程度,はば広く抑制する効果があり,上図では,それがとらえられたと考えている。
薬物の与える内部感覚効果についての弁別行動
薬物弁別行動でも,上記同様に2個のレバー実験条件とする。ただし,ここではランプ点灯のような外部感覚刺激を弁別の手がかりとはしない。しかし,投与された薬物の効果を動物が感知し,それを弁別の手がかりとする実験設定となる。たとえば,メタンフェタミン皮下投与後には,左のレバー押しに対してのみ,また別の日の生理食塩水皮下投与後には右のレバー押しに対してのみ,それぞれ餌強化する。このような訓練を反復すると,メタンフェタミンと生理食塩水投与後の内部感覚の違いを,ラットが左右のレバー押し反応のちがいにより弁別するようになる。このことから,ラットは内部感覚としてのメタンフェタミンの効果を,生理食塩投与の場合と違うと弁別したととらえる。
薬物弁別訓練と般化テストの手順
薬物弁別訓練では,動物に薬物の一定用量を投与し,例えば 10分後に,その動物をオペラント実験箱に入れる。オペラント実験箱前面パネルの2個のレバーのうち,例えば左レバーに対してのみ10回ごとのレバー押し反応を正選択反応として,餌粒を与える。別の訓練日には,その動物に溶媒を投与して,実験箱の右レバーに対してのみ10回ごとの反応に餌粒を与える。このように,薬物とその溶媒に関する弁別訓練を数週間にわたり反復すると,この動物は,それぞれの投与に応じた左右のレバー押し反応を正確に学習する。薬物弁別の学習達成基準は,1訓練日あたりの正選択率 80%以上が,連続した5訓練日にわたり安定的に観察されることとする。なお,訓練日における薬物と溶媒との強化側レバーの左右は,動物により違える。また,強化スケジュールは,必ずしも Fixed Ratio (FR) 10 である必要はなく,Variable Ratio (VR) 10 なども用いられる。
般化テストでは,訓練で獲得された薬物の弁別効果が,他の薬物に般化するかどうかをテストする。そこでは,どちらのレバー押し反応が正解ということはないので,動物のいずれのレバー押し反応に対しても,訓練時と同じスケジュールで,餌強化する。動物が,訓練時の薬物側のレバー選択 80%以上を示した場合には,テスト薬は,訓練薬の効果から般化したとみなす。
実験動物での薬物弁別と般化テストは,ヒトでの薬物投与後の自覚効果を検索するための有用な実験方法である。薬物の自覚効果は,薬物の精神依存形成と深く関わっており,後に記載した薬物静脈内自己投与実験と方法論的に深い結びつきがある。
sc: subcutenous administration; 皮下投与,ip: intraperitoneal administration; 腹腔内投与
皮下投与によるメタンフェタミン 0.5 mg/kg と生理食塩水の効果に関する弁別訓練確立ラットに
おける累積用量手続によるメタンフェタミン各種用量投与時の般化テスト
ー 弁別訓練時に餌強化を受けたメタンフェタミン側レバー押し反応の選択率 ー
ラットを用いて,皮下投与によるメタンフェタミン (Methamphetamine) 0.5 mg/kg の効果と皮下投与による生理食塩水の効果について,2レバー選択による弁別行動を確立した。なお,弁別行動確立基準は,メタンフェタミン投与時に餌強化を受けるレバー押し反応の選択率が,総反応数(メタンフェタミン側レバー押し反応数 + 生理食塩水側レバー押し反応数)に対して,80%以上とした。その上で,メタンフェタミンの用量を変えた般化テストを実施した。この般化テストでは,ラットがどちらのレバーを選択しても正解ということではないので,弁別訓練とは異なり,両レバーのうちいずれのレバーを押し反応にも餌強化した。レバー押しに対する餌強化のスケジュールは,弁別訓練同様に, Fixed ratio (FR) 10 とした。すなわち,ラットの正選択側の レバー押し反応を10回するごとに,餌粒を与えた。% Methamphetamine-appropriate responses は,弁別訓練時において,2レバーのうち,メタンフェタミン投与後に餌強化を受ける側のレバー押し反応選択のパーセントを平均値と標準誤差で示した。
この般化テストでは,1日のテストで各種用量に関するデータを得ることができる累積用量手続を用いた。すなわち,最初に生理食塩水を投与して,2分間の般化テストを実施した。次に10分間の間隔を空けて,メタンフェタミン 0.125 mg/kg を投与して 同様の 2分間の般化テストを実施した。さらに,同様に メタンフェタミン 0.125 mg/kg を投与して,先の用量との累積で 0.25 mg/kg のテストデータとした。次に,0.25 mg/kg を投与して,累積で 0.5 mg/kg のテストデータとした。最後は, 0.5 mg を投与して,累積で 1 mg/kg のテストデータとした。これにより,メタンフェタミンの弁別効果に関して,累積用量として,0.13 から 1 mg/kg について般化テストを実施し,そこには用量依存性がみられた。そして,メタンフェタミン 1 mg/kg (累積用量)において,訓練時メタンフェタミン投与後に餌強化を受けた側のレバー押し反応選択率が,80%以上となり,訓練用量 0.5 mg/kg (単回用量)からの般化がみられた。メタンフェタミン 0.5 mg/kg で弁別が確立したのにもかかわらず,般化テストでは,メタンフェタミン 1 mg/kg から般化がみられた理由は,般化テストにおいて,累積用量手続を用いたからである。
Ando K, Yanagita T (1992) Effects of an antitussive mixture and its constituents in rats discriminating methamphetamine from saline. Pharmacology, Biochemistry and Behavior, 41(4): 783-788.
DOI: 10.1016/0091-3057(92)90227-7
Miyata H, Ando K, Yanagita T (1999) Medial prefrontal cortex is involved in the discriminative stimulus effects of nicotine in rats. Psychopharmacology (Berl), 145(2): 234-6.
累積用量手続による生理食塩水反復投与時の般化テスト
ー 弁別訓練時に餌強化を受けた生理食塩水側レバー押し反応の選択率 ー
皮下投与によるメタンフェタミン 0.5 mg/kg と皮下投与による生理食塩水の弁別を確立したラットに,累積用量手続による生理食塩水反復投与による般化テストを実施した。
いずれの場合も,弁別訓練でメタンフェタミン投与時に強化を受けた側のレバー押し反応は,ほぼみられず,生理食塩水投与時に強化を受けた側のレバー押し反応 (% Saline-appropriate responses) が,平均値で,ほぼ 100% みられた。この結果により,累積用量手続を用いた先のメタンフェタミン般化テストのためのベースラインには,安定性があるとみなした。
メタンフェタミン弁別効果からのコカインへの般化テスト
皮下投与によるメタンフェタミン (Methamphetamine) 0.5 mg/kg の効果と皮下投与による生理食塩水の効果を弁別したラットに,コカイン (Cocaine) に関する般化テストを実施した。
この般化テストでも,先のメタンフェタミン用量に関する般化テスト同様の累積用量手続を用いた。すなわち, 最初に生理食塩水を投与して,2分間の般化テストを実施した。次に10分後に,コカイン 8 mg/kg を投与して 2分間の同様の般化テストを実施した。さらに,同様に コカイン 8 mg/kg (累積用量として,16 mg/kg) を投与してテストした。最後に 8 mg/kg (累積用量として, 24 mg/kg) を投与してテストした。
この般化テストでは,コカイン 24 mg/kg で,訓練時メタンフェタミン投与後に強化を受けた側のレバー押し反応選択率が,80% 以上となり,メタンフェタミンの弁別効果が,コカインの効果に般化したことが明らかとなった。データは,平均値と標準誤差で示した。
なお,コカインを皮下投与すると,投与部位に局所刺激による炎症がみられるため,メタンフェタミンとは異なる腹腔内投与とした。
ラット・オペラント行動を利用した著者らのその他論文
Ando K (1975) The discriminative control of operant behavior by intravenous administration of drugs in rats. Psychopharmacologia (Berl), 45: 47-50.
Ando K, Miyata H, Yanagita (1994) Effects of methamphetamine, dopamine and noradrenaline administered into the nucleus accumbens of rats discriminating subcutaneous methamphetamine. Japanese Journal of Pharmacology. 64 (1): 35-40
https://doi.org/10.1254/jjp.64.35
安東潔,廣中直行: ラットにおける LY127809 の行動薬理試験。実中研・前臨床研究報,1991, 17 (1) :1-14.
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https://researchmap.jp/read0179769/published_papers/51530391
LY127809: Dopamine agonist; 抗パーキンソン病薬
ラットがレバーを押すと脳内の特定部位に微弱電流を受ける。大脳基底核の適切な部位への刺激条件とした場合には,ラットは頻回なレバー押し反応を示す。このことから,自己刺激-報酬系と呼ばれる部位が脳内に存在することが明らかとなった。このような強化行動は,動物が自然界では決して遭遇することないものであり,この点で餌やジュースなどの強化行動とは基本的に異なるが,特定刺激を積極的に求める正強化行動という点では,餌やジュースなどの行動と共通性がある。「報酬と強化」の違いについては,薬物依存と行動解析 のページを参照されたい。
図は,Psychobiology: The Biological Bases of Behavior, Animal Behaviour, Readings from Scientific American, 1966, W.H. Freeman & Company から。
上記の処置された実験動物の画像については,本ページ内最下段 「4. 動物実験の倫理」 をご参照ください。
Olds J (1958) Self-stimulation of the brain. Science, 127 (3294): 315-324.
DOI: 10.1126/science.127.3294.315
http://dx.doi.org/10.1126/science.127.3294.315
ラットがレバーを押すと,一定用量の薬液(たとえば,モルヒネ )が,カテーテルを介して静脈内に注入される。ヒトで依存性が知られている薬物については,ラットもこの実験方法で積極的に自発摂取することが証明された。この方法は,薬物の精神依存性を測定するラットでの標準化された実験法とされている。この行動は,上記の脳内自己刺激行動と同様に,動物が自然界で遭遇することはなく,実験的設定でのみ観察できる正強化行動といえる。
図は,Psychobiology: The Biological Bases of Behavior, Animal Behaviour, Readings from Scientific American, 1966, W.H. Freeman & Company から。
上記の処置された実験動物の画像については,本ページ内最下段 「4. 動物実験の倫理」をご参照ください。
Weeks, J (1962) Experimental morphine addiction : Method for automatic intravenous injections in unrestrained rats. Science, 138 (3537): 143-144.
DOI: 10.1126/science.138.3537.143
https://www.ncbi.nlm.nih.gov › pubmed
本WEBサイト 薬物依存の概念 & 薬物依存と行動解析 参照
小型サル コモンマーモセットにおいて,2個のレバー付きオペラント実験箱内で,ランプ点灯側のレバー押しに対してジュースで強化する。マーモセットのレバー押しオペラント行動は,一応形成できる。しかし,ラット,アカゲザルなどに比べて,行動が安定しないと考えている。その理由として,レバー押しの動機付けを高めるために,ラットやアカゲザルなみの強い給水制限あるいは給餌制限をかけることが難しい点にある。それは,身体的に,ラットやアカゲザルほどにはタフではない,この小型サルの衰弱回避を考えてのことである。そのほか,マーモセットは様々な刺激に対していちいち敏感に反応する行動特性を有し,落ち着きが欠如していることも挙げられる。これらのことにより,マーモセットには,ラットやアカゲザルほどには安定したオペラント行動ベースライン確立はみらないとの印象をもっている。
前臨床医学研究での薬物効果の評価などには,動物の安定的なベースライン行動の確立が前提となるので,この領域におけるマーモセットの利用には,個人的には慎重になってきた。しかし,この問題については,もう少しマーモセット の学習行動に関する知見の集積を重ねて,客観的に評価することが重要であろう(写真は,著者らの実験から)。
ー Tablet (iPad) スクリーン上の動画タッチ反応による ー
様々な外部刺激に対して,いちいち敏感に反応するマーモセットの特性に着目した新しいオペラント行動形成確立実験を実施した。すなわっち,iPad スクリーン上に,無音条件で9個のサル類の動画を同時に提示し,そのうちのいずれかへのタッチ反応の有無を観察した。この反応に対する強化刺激は,タッチしたサル動画の拡大とサルの鳴き声を用い,この条件下でのマーモセットのスクリーンタッチ反応は確立できた。これは,sensory reinforcement あるいは audiovisual reinforcement に基づく行動と考えられ,餌やジュースなどを強化刺激として用いなくても確立された学習行動である(写真は,著者らの実験から)。
iPad 画面上に,上記9種類のサル類動画を,いずれも無音で同時提示した。マーモセットのこれらのうちのいずれへのタッチ反応に対して,その動画の画面いっぱいの拡大と iPad スピーカーから,サル類の鳴き声を同時提示した。これらが,タッチ反応に対する強化刺激とした。各動画の位置は固定されており,行番号(R)と列番号(C)で,一義的に特定される。
訓練は,1日1回,1週間に,2ないし3回程度の訓練セッションを3ヶ月にわたり実施した。上記には,その訓練セッション内の各トライアル(試行)の流れを示した。各セッション内には,数秒程度の試行を何回も与えた。1日の訓練セッションは,10分間で終了とした。強化刺激として,他に餌や水などを,はじめから,いっさい使用していないことが,本実験のポイント。
ここに示したとおり,10匹中8匹が,iPad上の動画へのタッチ反応を形成確立した。AP21, AP22… は,それぞれマーモセット個体番号,Session 23, Session 21,….は,学習確立基準に到達した Session 数(番号)である。ヒストグラムは,それぞれの動画の行 (R) 番号と列 (C) 番号で示した動画に対するタッチ反応頻度である。ここでの iPad タッチ反応は,餌やジュースなどの強化刺激によるものではなく,視聴覚刺激のみによって強化されたオペラント行動と考えている。
Ando K, Inoue R, Haga H, Nishime C, Nishinaka E, Urano K (2025) Tablet screen-touch behavior with audiovisual stimulus consequences in the common marmoset (Callithrix Jacchus). International Journal of Comparative Psychology, 38: 1-16.
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https://escholarship.org/uc/item/06k3f6x5#article_main
(ジュース強化による)
動物実験での短期記憶測定法として,遅延見本合わせ行動の利用が挙げられる。この方法では,外部に一切,記憶を助ける手がかりがないかたちで,動物の短期記憶を測定できる。今回は,アカゲザルを用いて,遅延見本合わせ行動を確立した。そこで,測定された短期記憶を Scopolamine で障害した。この短期記憶障害に対する Vinconate (Vinca アルカロイド) の改善効果の有無について検索した。
アカゲザル個別飼育ケージ内の壁面パネルに,三個の円形刺激盤を取り付けた。この刺激盤は,それぞれタッチセンサーとの連携があり,サルの刺激盤へのタッチ反応を逐一記録した。中央の刺激盤は,見本刺激提示用として,試行ごとに赤あるいは青ランプのいずれかを点灯した。最初は,同時見本合わせ訓練を実施した。ここでは,まず中央の見本刺激に赤あるいは青のいずれかを点灯したまま,左右サイドに赤あるいは青の選択刺激を同時点灯した。選択刺激の赤あるいは青の左右は,施行ごとにランダムとした。ここでは,中央の見本刺激と同色の選択刺激へのタッチ反応を正選択として,ジュースにより強化した。このような見本刺激に対する両サイドへの正選択率が 80%以上となったところで,次に遅延見本合わせ反応の訓練を実施した。ここでは,まず見本刺激に赤あるいは青のいずれかを点灯した。次に,この中央の見本刺激を消灯し,一定時間経過後に,左右の選択刺激盤に,赤と青を試行ごとに左右ランダム配列で提示した。そこで,先ほど提示されていた見本刺激と同色の選択刺激盤タッチ反応をオレンジジュースで強化した。反復訓練により,サルは,見本刺激を消灯した一定時間経過後にも,見本刺激と同色の選択刺激への正選択反応率は,安定的に 80%以上であった。このような遅延見本合わせ行動の正選択反応には,外部手がかりが一切ないので,動物でも脳の中に何らかの色に関する記憶痕跡を形成させ,脳内手がかりにより反応していると考えられた。このような短期記憶測定方法を用いて,記憶障害の治療法に関する前臨床医学研究評価などが行われてきた(写真は,著者らの実験から)。
アカゲザルにおける遅延見本合わせ実験試行の手順
サル個別飼育ケージ内にパネルを設けた。ここには,3個の刺激盤を設けた。中央は,見本刺激用で,左右は選択激用とした。いずれの円環へのサルのタッチ反応も,接触センサーにより感知し,記録した。まず,試行の開始では,赤あるいは青の見本刺激を提示した。赤あるいは青の提示は,試行によりランダムとした。見本刺激消灯後の一定の遅延時間を経て,見本刺激の両サイドの選択刺激には,赤あるいは青の刺激を,試行ごとに左右ランダム配列で提示した。サルの見本刺激と同色の選択刺激へのタッチを正解として,オレンジユース強化した。いずれのサルも,このような試行からなる訓練を反復実施することにより,一定の遅延時間後にも 80% 以上の正選択反応率を示し,遅延見本合わせ行動を形成確立した。
このような実験は,遅延時間中には,外部刺激手掛かりが全くないので,動物の短期記憶を厳密な意味で的確に測定しているといえる。
前臨床医学研究としては,このような方法が,ヒトの認知機能障害やそれの治療薬開発研究などに有用と考考えられ,利用されてきた。
アカゲザルには,同時見本合わせ行動 (Simultaneous) と遅延見本合わ行動 (Delay) の両方を形成確立した。棒グラフは,4匹のサルの正選択率(%) の平均値と標準誤差を示した。両行動とも,90%以上の正選択率を示した(Saline + Vehicle 参照)。次に,Scopolamine の遅延見本合わせ行動に対する選択的障害効果について確認した (Scopolamine + Vehicle 参照)。ここでは,同時見本合わせ行動にはScopolamine の影響がみられていない点が重要である。Vinconate とそのコントロールの Vehicle は,実験開始 90分前に,胃内に投与した。Vinconate の用量は図の横軸に示した。一方,Scopolamine は,実験開始10分前に皮下投与した。投与用量は,サルごとに一定用量とした。#: p<0.05 vs Saline + Vehicle, *: p< 0.05 vs Scopolamin + Vehicle
本実験では,Scopolamine 投与により,同時見本合わせ行動には,著変がないにも関わらず,遅延見本合わせ行動のみに選択的障害がみられる条件を探った。その理由は,Vinconate の短期記憶障害に対する特異的改善効果の有無を検索するためであった。実際に実験を進めてゆく中で,これは,極めて困難な課題であることがわかった。そこで,4匹のサルの遅延見本合わせ行動の遅延時間と Scopolamine (Scop) の投与用量をサルにより調整せざるを得なかった。すなわち,サル970:遅延時間1.6秒,Scop 32 μg/kg, サル119:遅延時間4.8秒,Scop 45 μg/kg, サル1201:遅延時間0.6秒,Scop 32 μg/kg, サル1319:遅延時間0.8秒,Scop 45 μg/kg とした。
Vinconate については,これまでにラットの海馬虚血による神経障害に対する保護作用が報告されていた。今回のサル類を用いた研究においては,胃内投与による Vinconate 16 mg/kg には,Scopolamine による短期記憶障害に対する改善効果がみられた。
Ando K, Hironaka N, Shuto K (2003) Effects of vinconate on scopolamine-induced memory impairment in rhesus monkeys. Japanese journal of neuropsychopharmacology, 23(1): 43-46.
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アカゲザル・オペラント行動を利用した著者らのその他論文
Ando K, Johanson CE, Schuster CR (1987) The effects of ethanol on eye tracking in rhesus monkeys and humans. Pharmacology, Biochemistry and Behavior, 26(1): 103-109.
DOI: 10.1016/0091-3057(87)90541-7
Ando K, Johanson CE, Schuster CR (1986) Effects of dopaminergic agents on eye tracking before and after repeated methamphetamine. Pharmacology, Biochemistry and Behavior, 24(3): 693-699.
DOI: 10.1016/0091-3057(86)90576-9
Ando K, Johanson CE, Seiden LS, Schuster CR (1985) Sensitivity changes to dopaminergic agents in fine motor control of rhesus monkeys after repeated methamphetamine administration. Pharmacology, Biochemistry and Behavior, 22(5): 737-743.
DOI: 10.1016/0091-3057(85)90522-2
Ando K, Johanson CE, Levy DL, Yasillo NJ, Holzman PS, Schuster CR (1983) Effects of phencyclidine, secobarbital and diazepam on eye tracking in rhesus monkeys. Psychopharmacology (Berl), 81(4): 295-300.
DOI: 10.1007/BF00427566
Ando K, Takada K (1979) Trialwise tracking method for measuring drug-affected sensory threshold changes in animals. Neurobehavioral Toxicology, 1 (Suppl 1): 45-52.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/299584/
Ando K, Yanagita T (1978) The discriminative stimulus properties of intravenously administered cocaine in rhesus monkeys. In Colpaert, F and Rosecrans, J Eds. Stimulus Properties of Drugs: Ten Years of Progress. Elsevier/North-Holland pp. 125-136.
薬物静脈内自己投与実験は,アカゲザルでも実施された。現在においても,明確な医学生物学的研究目的があれば,実施可能と考えるが,動物倫理については,十分な配慮が必要となろう。脳の高度に発達し,したがって薬物の感受性が極めてヒトに近いアカゲザルのこの方法により,ヒトでの薬物乱用の背後にある薬物依存の問題が科学的に格段と解明された。薬物乱用は,個人的にも社会的にも極めて深刻な問題である。アカゲザルのこの方法により,新規化合物のヒトでの精神依存性の有無やその程度をラットなどよりはるかに的確に予測できる。ここで得られた妥当性の高い科学的事実は,ヒトでの薬物乱用防止目的を持って,薬物使用に関する法的規制などを定める上で重要な科学的実験的データとして利用されている。米国医薬品食品庁( FDA )なども,サル類を用いた薬物静脈内自己投与法は,医薬品の依存性評価に関して最も妥当性の高い評価方法とみなし,薬物依存性評価には,現在実施されうるもっとも科学的に妥当性の高いサル類薬物自己投与による評価法を選択すべきとしていた。
なお,この方法を,米国ミシガン大学で開発した柳田知司博士(1930〜2016)は,帰国後に前臨床医学研究所を開設し,当時は,この研究所が,日本および世界の薬物依存研究の中心拠点のひとつとなっていた (本WEBサイト 薬物依存の概念 & 薬物依存と行動解析 参照)。
写真は,Psychobiology: The Biological Bases of Behavior, Animal Behaviour, Readings from Scientific American, 1966, W.H. Freeman & Company から。
上記の処置された実験動物の画像については,本ページ内最下段 「4. 動物実験の倫理」 をご参照ください。
関連論文:
Denau G, Yanagita T, Seevers M (1969) Self-administration of psychoactive substances by the monkey. Psychopharmacologia, 16 (1): 30-48.
http://dx.doi.org/10.1007/BF00405254
安東潔,川口武,柳田知司: アカゲザルおよびラットにおける LY127809 の依存性試験。実中研・前臨床研究報,1993, 17 (1) :55-81.
LY127809: Pergolide, Dopamine agonist, 抗パーキンソン病薬
url->PDF
https://researchmap.jp/read0179769/published_papers/51530488
安東潔,柳田知司: アカゲザルにおける LY127809 の依存性追加試験。実中研・前臨床研究報,1993, 19 (1) :1-10.
LY127809: 上記参照
url->PDF
https://researchmap.jp/read0179769/published_papers/51530513
安東潔,川口武,河上喜之,柳田知司 (1993) LY170053 のアカゲザルおよびラットにおける薬物依存性試験。実中研・前臨床研究報, 19 (2) :73-92.
LY170053: Olanzapine or Zyplexa, 非定型抗精神病薬,双極性障害治療薬,制吐剤
url->PDF
https://researchmap.jp/read0179769/published_papers/51524747
安東潔,川口武 (1997) SM-9018 のアカゲザルおよびラットにおける薬物依存性試験。基礎と臨床, 31 (2): 321-341.
SM-9018:Perospiron, 抗精神病薬
url->PDF
https://researchmap.jp/read0179769/published_papers/51397707
個別飼育ケージ内でアカゲザルがシガレット煙を自発摂取する行動を形成した。最初は,金属パイプ吸引行動をジュースにより誘導した。次に,徐々にシガレット煙にすり替えてゆくと,最終的には,ジュース無しで,シガレット煙に対する自発喫煙行動が形成された。自発喫煙用装置としては,サルがパイプを吸うと,その吸引を感知してシガレットが自動点火され,サルが連日の実験セッション内の任意の時点で,いつでもシガレット煙を自発吸入できる仕組みとした。なお,使用したシガレットブランドは,喫煙によるニコチン含量が, 2 mg とされている「ロングピース」を用いた。このようなサルの自発喫煙行動観察により,喫煙行動の維持要因がシガレット煙中のニコチンであることや,喫煙行動に及ぼす各種の環境要因が実験的に明らにされた(写真は,著者らの実験から)。上記の実験動物の画像については,本ページ内最下段 「4. 動物実験の倫理」 もご参照ください。
アカゲザル M661 の初期セッション 28 とその後のセッション112 の自発喫煙行動パターン
1日の実験セッションは,13時から翌日の9時までの20時間とし,土日ならびに祭日を除く毎日,連続で何ヶ月間にもわたり,自発喫煙行動を観察した。シガレット煙に対するパフ(吸煙)回数を累積反応として記録した。この累積反応記録は,500 パフ (resps) で,記録ペンがリセットされる設定とした。 個別ケージのある実験室は,24時から9時まで消灯とした。
2匹のサル (M496 ならびに M661) の長期間にわたる喫煙行動観察
シガレット煙に対する自発喫煙を開始するようになったセッションから, 1日のセッション当たりのシガレット吸煙パフ総反応数 (Number of puffs/day) を,1年以上にわたるセッションについて示した。
ニコチン含量の異なるシガレット種に対する自発喫煙交差テスト
ー サルM496 について ー
1本のシガレット喫煙で,ニコチン 2 mg が摂取されるロングピースブランドへの自発喫煙をベースラインとして,0.3 mg 低ニコチンブランド “Just” とニコチンフリーシガレットにすり替えて交差テストを実施した。ニコチンフリーシガレットは,トマトにタバコを接木したもので,その葉は,タバコそのものであるが,ニコチン含有は認められないものであった。上記の結果は,このサルの喫煙行動が,シガレット煙のニコチン含量に依存していることを示唆した。他のサルの結果については,下記論文を参照のこと。
上記の研究に関する論文 (url→PDF)
Ando K, Yanagita T (1981) Cigarette smoking in rhesus monkeys. Psychopharmacology (Berl), 72 (2): 117-1127.
DOI: 10.1007/BF00431644
https://researchmap.jp/read0179769/published_papers/3506731
その他の関連論文 (url→PDF)
Ando K, Hironaka N, Yanagita T (1986) Development of cigarette smoking in rhesus monkeys. In Harris, LS., ed. Problems of Drug Dependence 1985.National Institute on Drug Abuse Research Monograph 67: DHHS Pub. No. (ADM) 86-1448. Washington, DC: Supt. of Docs., U.S. Govt. Print. Off., 1986. pp. 147-153.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/3092061/
https://researchmap.jp/read0179769/published_papers/3506742
行動の分類とその形成について,下図に示した。まず,生得的な行動(反応)には,偶発的に起こる自発反応と,刺激に誘発される反応(誘発反応/誘発反射)とが存在する。一方,条件付け(学習)行動(反応)には,オペラント反応とレスポンデント反応(反射)の2種類が存在する。オペラント反応は,自発反応からスタートした条件付け行動である。また,レスポンデント反応は,刺激に誘発された反応からスタートした条付け行動である。ほとんどの行動(反応)は,これらのいずれかに分類あるいは分解して,行動の全体像を把握できると考えている。
2種類の条件付け(学習)行動(反応)の成立について,下図に示した。まず,オペラント反応とレスポンデント反応に分類されるが,それぞれの成立過程は異なっている。オペラント反応では,様々な自発反応と様々な刺激の環境内存在が前提となる。その上で,特定の自発反応と,その結果として提示される刺激が,生物の存続に必須もしくは,適合している場合に,この特定の反応の出現頻度が増加し,両者(反応 → 刺激)の関係が強固に確立する。このプロセスを反応が刺激によって強化されたという。
一方,レスポンデント反応は,無条件刺激(ex.,食物)とそれによる無条件反応(ex., 唾液分泌)の発現を確認した上で,無条件刺激と共に、中性刺激(ex., ベル音)を組み合わせて反復提示する。これにより,中性刺激の提示のみで,唾液分泌のような条件反応(反射)の発現がみられるようになる。
本WEBサイト 薬物依存と行動解析 参照
実験動物を利用した研究には,明確な科学的あるいは医学的目的があり,動物倫理に配慮した条件下での実験実施が前提です。現在,わが国では「動物の愛護及び管理に関する法律」に基づいた動物実験の実施が求められています。その精神は,上図のような 3 R の原則に準拠したものです。すなわち,Reduction (使用する動物数を可能な限り減らす),Replacement (できることなら生きた動物は使用せず,細胞など他の方法で代替する),Refinement (動物に与える苦痛などを最小限にとどめる)です。このような条件下で,実際に研究が実施されるか否かについては,それぞれの施設の責任において,研究計画書について動物実験倫理委員会などでの厳しい審査が行われます。動物実験は,このような審査を経て,施設で承認されたものについてのみ実施されなければなりません。
ここに至るまでには,永い道のりがあり,過去にはとても容認できない動物実験が存在していたことも事実です。 B. F. Skinner が実施してきたオペラント行動に関する研究については,主として餌などの正強化刺激を用いてきました。学習行動を形成するには,負強化刺激である電気ショックなどに対する回避学習行動の形成などもあります。Skinner は,一貫して,ヒトを教育するには,負強化刺激ではなく,正強化刺激を用いるべきであると主張してきました。彼は正強化刺激のみで成り立つ理想社会について,Walden 2 という小説も執筆しました。
上記に記載した脳内自己刺激実験については,動物の脳内に電極を植え込むなどの外科的処置を行います。しかし,この実験に基づく研究により,脳内には報酬系という部位が存在することが明らかになりました。このことは,脳の仕組みを解き明かす上で,極めて重要な意義があります。また,薬物静脈内自己投与実験については,人における医薬品や薬物の依存性を評価する上で極めて重要な実験です。この実験に基づく研究成果は,依存性薬物のヒトでの使用制限規定などを定める科学的根拠を与えてくれます。これにより,社会で薬物が乱用される歯止めに大きな役割を果たしています。とくに,本WEBサイトの 薬物依存の概念 のページ内「7.7. 薬物依存症と薬物乱用社会の過酷な現実」をご参照いただければ,薬物依存に関する的を得た基礎研究は,他のいくつかのとるべき対策同様に喫緊の課題であることをご理解いただけると思います。また,サルでの喫煙行動実験については,ヒト同様の自発喫煙行動を実験動物に形成しました。これにより,喫煙行動の維持要因を科学的に探索し,禁煙などの治療に資する科学的データを提供した意義があり,動物実験を実施した明確な理由が存在したと考えています。