第7回 円了先生の大好物「甘酒」

ページ作成日:2022年1月5日(2023年7月28日サイト移行に伴い一部修正)

第7回のWeb展示は「円了先生の大好物「甘酒」~ 体も心も元気にいこう!~」です。

今回は「体」にも「心」にも役に立つ内容をお届けします!

お正月ならではの食べ物として、お節にお雑煮、お餅など色々ありますが、初詣などで「甘酒」を飲まれた方もいらっしゃるのではないでしょうか?「甘酒」は米麹の酵素の作用を利用して作られる飲み物です。別名で「一夜酒 (ひとよざけ)」「なめ酒」ともいい、漢字で「醴(れい)」とも書きます。

「甘酒」を作るには「酒粕」を利用する方法と、「米麹」と米で作る2種類の方法があります。

酒粕から作られる「甘酒」は砂糖を加えることで甘みを出しています。酒粕は栄養豊富であり、栄養素にタンパク質と食物繊維を多く含みます。

米麹から作られる「甘酒」は、麹による自然な甘みと香りが特徴です。米麹で作る「甘酒」は日本固有のものと言われています。米麹の「甘酒」はアルコールが含まれないため、小さい子や妊娠中の方でも飲むことが出来ます。栄養素ではブドウ糖が豊富に含まれており、別名「飲む点滴」とも言われ、近年人気が上昇し、多くの食品メーカーから販売されています。

また「甘酒」は冬に飲むイメージが強いですが、俳諧では夏の季語とされています。夏の暑い中でのエネルギーチャージ飲料として、昔から「甘酒」は親しまれていたのです

東洋大学図書館には麹をはじめとした、発酵食品に関する資料を所蔵しています。発酵食品が体に良いのは周知の事実ですし、この1年を健康に過ごすためにも、興味を持ったタイトルがありましたら是非手に取ってみてください!

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実は「甘酒」は東洋大学の創立者である「井上円了先生」と深い関係があります。

円了先生は「甘酒」が大好物だったのです。『井上円了選集』の「円了茶話 第二話 余が嗜好」(pp.132-133) に以下のように記されています。

  余は貧家に生まれ、幼より粗食の習慣あり。ゆえにその嗜好するところ、極めて安価なもののみ。

  その第一は豆腐、第二は数の子、第三は甘酒なり。

  甘酒にいたりては、一時に五杯ないし八杯を傾くの勇あり。寒夜、事を執り書を検して深更に達すれば、腹虫まさに飢餓を訴えんとす。 ときに甘酒を命じてこれに傾く。実に一杯千金の価値あり。

5~8杯の「甘酒」は結構な量ですし、空腹の寒い夜に飲む「甘酒」を「千金」に例えるところに、円了先生の「甘酒愛」が伺えます。

なんと遺言にも「甘酒」への言及があります!

円了先生の遺言(井上円了「遺言状」『百年史 資料編I・上』 東洋大学,1988年,pp.69-72で、以下のように述べられています。

 第 8 項 法会ハ毎年一回、之ヲ営ミ、其日ハ祥月ニ依ラズ 11 月上旬ノ日曜ヲ用フベシ。其式場ハ和田山哲学堂ト規定シ置クベシ。其法会ニハ何人モ参会スル様ニ公開スベシ。
東洋大学ニ関係アル僧侶ナラバ、宗派ノ何タルヲ問ハズ、式ヲ開ク時ニ一回読経スルコトヲ依頼スベシ。之ニ続キテ拙著ノ一章ヲ朗読スルノ慣例ヲ作ルベシ。
当日ノ来会者ヘハ甘酒、若クハ紅茶カ珈琲ヲ差シ出スベシ。

この遺言は今でも守られており、中野区の哲学堂公園で11月に開催される「哲学堂祭」では参加者に甘酒、紅茶、コーヒーが配られます。 

円了先生は「茶会」による「人との対話」を大切にしていました。

対話が弾むのに飲み物は欠かせません。そのことを気にかけて遺言でも遺すとは、なんとも円了先生らしい気遣いですね。 

余談ですが、円了先生は井上円了選集「日本周遊奇談」(p.472)でご自分のことを以下のように記しています。

  余の実名は円了である。円了と遠慮とは発音がよく似ておる。ゆえに、人は余に酒食を勧めるときに、「お名前が円了であるから、遠慮なさる」という。
余はこれに答えて「名実不実のことは世の中にたくさんある。例えば昼寒くてもヨ寒といい、朝のむ茶をバン茶といい、一羽いる鳥でもニワトリといい、一枚でもセンベイ・・・(中略)・・・みな名実不相応である。
これと同じく、余の名は円了なれども、トント遠慮のできぬ方であって、名実不相応である。

シャレを効かせながら「円了ですが遠慮が出来ません」と紹介なさるなんて、なんともユーモアに溢れています!
もし円了先生が「甘酒」をすすめられたら、「遠慮しません!」と仰って、一気kに5~8杯も「甘酒」をオカワリしたり・・・なんて想像をしてみたり。

学長・副学長が円了先生にならって東洋大学の今を語る、令和版の『哲窓茶話(てつそうさわ)』はオンラインでご覧いただけます。

・・・ところで少し話は変わりますが、心理学用語には「自己開示」という単語があります。

■自己開示《他人に対して, 自分自身に関する情報を言語を介して伝達すること》.

"slf-disclsure", 医学英和辞典, JapanKnowledge, https://japanknowledge-com.stri.toyo.ac.jp , (参照 2021-11-25)

「自己開示」は他者(例えば友人や恋人など)との関係を深めていく上で非常に重要だと言われています。

しかし、なかなか自分のことを話すことは難しいです。自分を曝け出すことに恥ずかしさや戸惑いを感じる方も多いのではないでしょうか?
まして昨今のこの状況。人と対話することには高いハードルがありました。

今後どのようになっていくか、明るい兆しも見えつつありますが、まだまだ分かりません。ただどんな時でも「人との対話」の必要性が無くなることは無いでしょう。

もし人との「対話」で「自己開示」することに怖さを感じた時・・・円了先生を思い出してみてください。

と言うのも、当初皆様は「井上円了=東洋大学の学祖」という堅いイメージをお持ちだったのではないでしょうか?

しかし今回紹介したエピソードである「円了先生は甘酒が大好物」や「円了先生のユーモアが効いた名前紹介」といった「その人の意外な情報」に触れたことで、少し円了先生を身近に感じませんでしたか?

自分の些細な情報でも、他者は自分を身近に感じてくれる!・・・と今回の円了先生情報で、ほんの少しでも体感できたのではないでしょうか。 

そこで「自己表現」や「対人関係」をテーマにした図書を、学生サポート室の相談員の方々にセレクトしていただきました。

斎藤茂太著『図解版人間関係、こう考えたらラクになる』ゴマブックス , 2017年

大野裕著『こころが晴れるノート : うつと不安の認知療法自習帳』創元社 , 2003年

平木典子著『アサーション・トレーニング : さわやかな「自己表現」のために』金子書房 , 2021年

菅沼憲治著『セルフアサーショントレーニング』東京図書 , 2017年

松本俊彦編『大学生のためのメンタルヘルスガイド : 悩む人、助けたい人、知りたい人へ』大月書店 , 2016年

(電子版)松本俊彦編『大学生のためのメンタルヘルスガイド : 悩む人、助けたい人、知りたい人へ』大月書店 , 2016年


これらの図書は「しなやかな人間関係を築く方法」「どのように自己表現すると円滑に対人関係が築けるか」「対人関係がうまくいかない時どう対処するか」といった内容が書かれています。

大学という環境では、新しい人との関りが多くあります。それに伴うストレスも当然あるでしょうが、新たな人との出会いが自分を広げ、その後長きに渡っての深いお付き合いになる可能性も大いにあります。
自分にとって好ましい人と関係を築くことは、心と体を元気にする「源泉」を持つようなものです。

どうか自分を出すことを恐れずに、「源泉」を沢山発掘していきましょう!!これらの図書が、皆さまにとって良い人間関係を築く一助になれば幸いです。  

1月は小寒・大寒があり、1年の中で最も寒い月と言われています。体を温めるために何か温かい飲み物・・・円了先生の大好物・だった「甘酒」はもちろん、コーヒーや紅茶などを飲んで、どうか体と心をポカポカにしましょう。皆さまが体も心も元気にお過ごしください。