2024.05.28TUE

「手記から見る宮澤喜一」講演会を開催しました

1.はじめに

2024年5月16日(金)、白山キャンパス6号館にて、東洋大学の学生サークル「創政政治研究会」の主催で、朝日新聞社から松田京平政治部長をお招きし、「手記から見る宮澤喜一」というテーマで講演会を開催しました。

近年、宮澤喜一元総理大臣の手記(以下『日録』)が新たに発見され、朝日新聞は東京大学とこの『日録』について共同研究を進めており、朝日新聞紙上でも、2024年2月末から宮澤喜一に関する多くの特集記事が組まれています。『日録』の内容や共同研究の成果について、朝日新聞の政治報道の責任者である松田京平政治部長に来ていただき、講演と質疑応答を通じて戦後日本政治に関する知見を深めるというのが、今回の講演会の目的です。

講演会では、まず初めに「創政政治研究会」会長の弘中瑛裕による挨拶とサークル紹介、そして講師の松田京平氏の経歴紹介が行われ、その後、松田氏の講演会が行われました。およそ45分の講演の後、学生と教職員を含め約40名の参加者の中から多岐にわたる質問が出され、約45分に及ぶ活発な質疑応答を行いました。

2.判明した新たな事実

松田氏の講演内容は大きく2つに分かれ、前半はメインテーマである宮澤喜一の『日録』と戦後日本政治について、後半は現代の日本政治についてです。

宮澤喜一は、戦後間もない日本の復興期から2000年前後の小渕恵三・森喜朗内閣に至るまで、外相、蔵相、官房長官、総理大臣、自民党総務会長など主要閣僚・自民党幹部を歴任してきましたが、『日録』はその間の宮澤喜一の動静をほぼ完璧に網羅しています。この『日録』から新たに判明した重要な事実が2つあり、つは1991年10月の自民党総裁選挙で、最大派閥竹下派の会長代行であった小沢一郎氏と非公式で二度目の会談があったこと。もう一つは、1993年3月に金丸信氏への捜査情報が後藤田正晴法相から極秘に報告され、強制捜査が入る前に、急遽、予算を衆院通過させるという政治的にも政局的にも重要な対応を迫られた、という事実です。

次に、この宮澤『日録』がいかに正確かつ緻密な記録であるかを、松田氏と宮澤喜一との手紙のやり取りや直接の面談から紹介していました。実は松田氏は、高校生時代から宮澤喜一と文通によって交流を深めており、記者になってから面会した複数回の記録が『日録』に分単位で記載されていることを、実際の手紙や資料を用いながら明らかにされていました。

3.『日録』の現代的意味

松田氏によれば、『日録』の意義は、戦後日本政治史の断面を写し出す第一級の歴史的価値があるだけでなく、『日録』を通じて今の岸田文雄政権の現在地を問うという現代的価値も有しています。宮澤喜一と岸田文雄はともに、広島選出の国会議員であり、宏池会会長、総理時代に金権スキャンダルと政治不信により政治改革が求められ、最大派閥が分裂するなど、両者には共通点が多く、『日録』は今日の政治課題を考える材料にもなるのではないか。このような問題意識のもとで、松田氏の話は現代日本政治に移行します。

なかでも特に興味深かったのは、「高齢化男政治」に静かに反旗を翻す国民について触れた箇所です。松田氏は「国民は実は高齢の男性が政治を仕切る現在の日本政治を変えなければいけないことに気づいているのではないか」ということを、最近の選挙結果のデータを示しながら指摘していました。(この点については今後、記事にする可能性ありとのこと)

4.学生へのメッセージ

最後に、松田氏から、将来、党職員や議員秘書、記者など政治に関わる道に進むことを志す学生に向けて、以下のようなメッセージをいただきました。

 

「政治に関わることを志すなら、一番は新聞を読んでいただきたい。政治とは森羅万象が対象です。災害、外交、安全保障、戦争、天皇や皇族、日本の財政、子育て、社会保障など、森羅万象が政治に関わってきます。そのため政治周りで働く人たちは、世の中の出来事に敏感でなければならない。ありとあらゆる問題は、政治がどうするという話に戻って来ます。

したがって、学生時代は社会問題に関心を持つことが大事です。そのためには、朝日新聞じゃなくてもいいので、森羅万象を報じる新聞を読んで欲しい。そして、どのメディアがどういった報道をしているのかというリテラシーを持って、ニュースを見ていくという作業を続けることが、政治周りの仕事を志す学生の過ごし方として欠かせないのではないかと思います。」