TOP道徳資料室山田貞二先生の学習会レポート第4回テーマ:定番教材に挑む!

山田貞二先生の学習会レポート

第4

テーマ:定番教材に挑む!

 令和5年7月15日土曜日に行われました第46回AtoZ道徳授業学習会の記録です。今回は「定番教材に挑む!」というテーマで学びを深めました。

1 道徳授業ABC(山田)・・・授業づくりの基礎基本を学ぶミニ講座

(1)教材分析の方法

 会の冒頭において教材分析の方法について確認をしました。定番資料はそれまでの経験や先行事例から、先入観が入ります。改めて“素”に戻って教材分析をすることが大切です。

 教材分析は右図のような流れで行います。若い先生は、すぐに発問を考えようとしますが、まずはじっくりと教材と向き合うことが大切です。

 右図の青と赤の部分を大切にすることです。

図1

(2)素材研究の重要性

 次に「素材研究」の重要性について確認しました。

 国語教育学者の野口芳宏先生から教えていただいた活動です。

 教師という立場を離れ、一人の人間として、その作品に向き合うということです。このときに、様々な面から作品を味わうことが大切になります。

 つまり多面的・多角的に作品を捉えることが大切であるということです。

 定番教材を先人が培ってきた業績を見る前に、一度すべてを捨てて白紙の状態で作品に向き合うことを、参加者全員で確認をしました。

図2

2 素材研究

 そこで、参加者全員で今回の教材である「一冊のノート」の素材研究を行いました。定番教材であるため、現職の先生からは授業に関わる内容も多く出てきました。

 しかし、初見である学生からは、まさに素材研究にふさわしい感想が出されて来ました。

 ・主人公がノートを見たときに様々なことを思い浮かべたに違いない。

 ・おばあさんの気持ちを考えるとつらくなってくる。

 ・草むしりをしているときの主人公とおばあちゃんの気持ちを考えてみたい。

 ・自分も祖父母に同じような態度をとってしまうことがあり、考えさせられる教材でした。

 ・何度も実践した教材ですが、今の時代にも考えさせられる内容だと感じました。

 このような感想をいただきました。この素材研究を受けて、模擬授業に入っていきました。

3 模擬授業(愛知県一宮市立浅井中学校 林雄一先生)

 ★教材  「一冊のノート」(私たちの道徳・中学校版 文部科学省)

 ★対象  中学生

 ★ねらいとする内容項目  C(14)家族愛

 ★展開

  導入

「一冊のノート」を読み、感想を記入する。

・祖母を責めるのはよくない。

・ノートから祖母の心が伝わり、感動した。

・祖母の物忘れに向き合い、サポートしていくことが大切だ。

〇感想を共有し、課題を設定する。

・「家族愛」「家族との関わり」に決定

  展開

ぼく」の(おばあちゃんに対する)行動をどう思いますか。(中心発問)

・イライラしている気持ちに共感できる。

・おばあちゃんに暴言を吐いてしまって後悔していると思う。

・おばあちゃんにあたっているのはよくない。

・もっとできることは自分でやった方がいいと思う。

・もっとおばあちゃんの気持ちを考えて欲しい。

・すごく自分本位な子だと思う。   *その他は板書参照

(主人公の「ぼく」の行動をイメージマップで見える化した板書)

〇「家族だから」ってどういうことだろうか?深化発問)

困っているときは助けたい。

守って寄り添うのが家族

家族は思い出を積み重ねていくもの

家族はいつでも一緒で、そばにいてくれるから逃げられないもの


〇ヤングケアラ―の動画を:視聴し、感想を共有する


  結末

〇振り返り

4 意見交流

(1)課題設定について

 ・課題は子どもが決めることもあるし、教員が決定していく場合もある。

 ・泣ける教材であり、中学生しか考えられない心情もあるのではないか。

 ・今回はテーマ的な課題が設定されていった。

 ・「問い」は、授業の途中で生まれてくることもある。

(2)発問について

 ・おばあちゃんが書いた一冊のノートや草むしりの場面などを丁寧に扱って欲しかった。

 ・教材を活用してもっと心情をあぶりだしてもよかったのではないか。

 ・対話や切り返し、問い返しの技術が素晴らしく勉強になった。

 ・テーマについて大変考えさせられた発問だった。

 ・絞りがない発問であり、かなり多様な考えを引き出すことができていた。

 ・もっと心情を大切にした発問があってもよいのではないか。

(3)板書について

 ・生徒の考えを分類しながらの板書は見事であった。

 ・イメージマップを使っての板書の技術が素晴らしく勉強になった。

 ・広がった意見が「家族」に収束していった。

(4)動画について

ネガティブな動画の内容であったので、幸せを感じられる動画の方がよかったのではないか。

お父さんの気持ちが入ってきたため、やや思考がずれてしまった。

おばあちゃんを扱った動画の方がよかったのではないか。

・それまでの話し合いとやや異質なものが入ってきたため、混乱した。

・家族について考えるという点では、この動画も効果があると感じた。

・ヤングケアラ―中心の話題になってしまい、考えることが増えてしまったという感じがする。

・インパクトがありすぎて、教材の内容が薄まってしまうのではないか。

・現実を感じた。

4 まとめ(山田)… 定番教材「一冊のノート」について

(1)テーマ発問の中にも心情をあつかう発問を挿入する。

 今回の授業はテーマ発問型の授業であった。展開が素晴らしく、補助発問も見事であった。

しかし、やや一般論的な方向に議論が流れていった感がある。

そこで、その議論に具体性を持たせるために、教材の場面に立ち返ることも大切である。

(2)道徳的心情の大切さ

 定番教材である「一冊のノート」は、下記の道徳性曲線を見ていただいて分かるように、祖母と孫の家族愛を中心とした教材である。祖母のノートを読む場面や、草むしりをする場面は、読んだ人に感動を与える場面となっている。

 そうした場面での登場人物の道徳的心情をあぶりだすことは、家族愛を考えさせる上で重要な活動となる。

 ぜひ大事にしてほしい。

(3)ゲストティーチャーの活用

 子どもたちの人生経験はまだまだ浅く、知らないことや考えもしないことが多く存在している。そこで対話や議論をさらに深いものにしていくために、人生経験の深いものからの情報提供があるとよい。その一つがゲストティーチャーの活用である。特に祖母の気持ちを代弁できるような人物がよい。見つからない場合は、役割演技を使ったり、今回のように動画を使ったりすることが重要である。

(4)課題の設定について

 児童生徒一人一人の持つ「問い」を大切にしながら、学級全体で追求する「問い」を設定できるとよい。

 今後の道徳授業の課題でもある。                                                    (文責:山田貞二)