TOP>道徳資料室>山田貞二先生の学習会レポート>第55回テーマ:考え、議論する道徳とは
TOP>道徳資料室>山田貞二先生の学習会レポート>第55回テーマ:考え、議論する道徳とは
8月10日(土)に行われました第55回AtoZ道徳授業学習会の記録です。
今回は「考え、議論する道徳とは」をテーマとして学びを深めました。
学習会の前半は、「考え、議論する道徳」の基本的な考え方について、参加者の皆さんと確認しました。
学習指導要領の解説冒頭部分に下記のような記述があります。
(1)教材 「海と空-樫野の人々-」(文部科学省「私たちの道徳」中学校版)
(2)内容項目 C 国際理解、国際貢献
(3)素材研究
模擬授業に先立って、いつものように素材研究を行いました。この教材を実際に授業された方は少ない状況でしたので、新鮮な意見を聞くことができました。
①難しい教材である
・歴史的な背景をとらえるのに時間がかかる
・「助ける」場面が多いが、村人にメリットはないので「なんで?」と考える生徒が多いのではないか
②事前読みをするとよい
・長いので事前読みがよい
・感動を出し合うことから議論するとよい
③100年前の思いが重要
・なぜこんなに続いているのか
・主人公の思いを考えさせたい
④国際理解にどうせまるか
・さまざまな内容項目と関連するが、本時のねらいにせまることが難しい
・子どもたちにどのように自分事にさせるか
⑤なぜ助けることができたか
・自分たちの食糧まで提供している
・なぜそこまでできるのか
・自分たちだったらそこまでできるのか
・初めて会った外国人にそこまでできるのか
★これらの内容は、授業後に大きな意味を持つことになりました。
(4)模擬授業
<導入>
●目当ての確認
↓
(あらすじ確認)
導入では、1890年のエルトゥールル号事件とイラン・イラク戦争での日本人の脱出についての経緯の確認が中心となりました。
↓
教師が実際に串本を訪れた話も挿入して、生徒とのやり取りをしながらのあらすじ確認
(対話型のあらすじ確認)
●この話を聞いて、どんなことを思ったか
・すごい ・村人のチームワークがすごい ・知らなかった
●樫野の人々の行動についてどんなことを思ったか…中心発問
(数直線を使って意思表示)
【なぜ(青)】
・外国人だからどう助けといいのか分からない
・困る…リスクが大きい(食糧がなくなると家族が危険になる)
・助けることは大切だと分かるけど…
【分かる】
・助けなければ死んでしまう
・後のことは考えず、まずは助けることを優先する
●ノルマントン号事件について、落ちた時はどんな気持ち?
・助けて
●もし、今、イギリス人の船長だったら助けたい気持ちはどれくらい?
(心の数直線で表示)
【助ける】
・きっと後悔するから
【助けない】
・イギリス人のことは守り通さないといけない
<終末>
●今日の授業で学んだことを書きましょう
(1)中心発問について
①「なぜ」と「わかる」の比較が大変よかった
・考えが広がる発問であった
・教師の共感的な授業展開は、子どもたちの考えを大いに引き出すことができた
・自分事として考えることができていた
②人間理解がよく出ていた
・「わかるけど」という言葉から、家族も大切だし、外国人だからという弱さを引きだすことができていた
(2)深化発問について
①ノルマントン号事件を扱ったことについて
・苦し紛れの発問になっていた
・必要のない発問だった
②助けたことについて
・なぜ助けたかをもっと聞くことによって深められたのではないか
③人間尊重や人間愛につながる考え
・これらの考えは、道徳のベースになるものである
・生命尊重や思いやりなどの多くの考えが出されることになった
(3)国際理解とどうつなげるか
①トルコ人の思いを考えさせる
・結果的に国際理解につなげることが難しかった
・トルコの人の思いをもっと考えさせるとよかった
②空と海という題名を使うとよい
・海と空がいっしょになるという表現の中に主題が隠れている
・トルコの人は、なぜエルトゥールル号のことを知っているのかを考えさせるとよい
大変前向きで、温かい人柄が活かされた素晴らしい授業でした。中心発問がかなり工夫されていて、まさに判断力を要求されるような「考え、議論する道徳」に近づけるものになりました。
しかしながら、主題に迫るための手立てがやや弱く、深化発問が「ノルマントン号事件」という異質のものを扱ってしまうことになりました。
トルコの人の思いを考えることが「国際理解、国際貢献」につながります。参加者の皆さんがおっしゃったとおりです。
今回のような感動的なエピソードを扱った教材は、場面をおさえるよりも教材全体から何を考えたかを中心に議論することが大切です。
したがって、左図のような指導展開が考えられます。まずは初発の感想を共有するところから始めます。そして、それを分析することが中心的な活動となります。
今回の教材もこのような授業展開を行うことができる教材です。