TOP道徳資料室山田貞二先生の学習会レポート第50回テーマ:文科省のアーカイブに学ぶ

山田貞二先生の学習会レポート

第50回

テーマ:文科省のアーカイブに学ぶ

1月20日 土曜日に行われました第50回AtoZ道徳授業学習会の記録です。

今回は「文科省のアーカイブに学ぶ」というテーマで学びを深めました。

いつものように会場で模擬授業を行うのではなく、文部科学省のアーカイブに公開されている授業動画から

学ばせていただきました。


教材は、中学校の名作であり定番教材である「足袋の季節」。


月刊「道徳教育」1月号(明治図書)でも特集されていましたので、タイムリーな企画となりました。

 素材研究

 教師としての姿勢ではなく、一人の人間として作品に向き合います 

(1)時代や気候などの環境

 この教材の時代の状況やお金の価値、気候などが理解されていないとなかなか深まらない教材ではないか。

 

 ・寒い冬の北海道では裸足はかなりきつい

 ・円の価値はどれくらいなのだろうか

 ・貧しさの中で足袋は生きるために必要なものであったのだと思う

(2)主人公の生き方について

 ・自責の念と甘い考えをもって生きている

 ・忘れたいが忘れられない出来事

 ・職を転々としているが、それは「踏ん張っている」ことになるのか

 ・「ふんばりなさいよ」という一言が、「いのち」をつないできた

 ・お金をかすめとったという「後悔」が主人公に生き方や生きざまに反映

(3)甘い考えについて

 ・悪いことであるが、正当化して自分に納得させて生きている

 ・自分にメリットのある選択をしている

 ・そんなに責任を感じなくてもよいのではないか

(4)おばあさんについて

 ・「ふんばりなさいよ」という言葉は分かっていっていたのか

 ・お金のことは分かっていたのか?善意なのか認知症なのか

(5)人間の弱さがよく表れている教材

 ・人間の気高さを考えさせてもよい 

(6)内容項目

 ・いったい何を話し合う教材なのだろうか

 ・よりよく生きる喜びではないか

 ・自主、自律なのか  

 ・生命の連続性なのか

2 教材分析・・・素材研究の補助的資料として

50回図②.pdf

教材の特性としては、「人間の弱さ」「心の弱さ」が表出した作品であり、作者である中江良夫氏の実話をもとにして書かれたものである。

当時の時代背景についても確認した。かなり貧しい暮らしをしていることを確認した。


当時の時代背景からいうと、50銭で生活するというのはかなり厳しい生活だったといえる。

足袋がない生活はいかに苦しいものかも確認した。


また、以下の示すような教材分析図を参考にして、この教材はどのように展開するのがよいのかを

参加者全員で話し合いを行った。

(道徳性曲線・・・山田による)

 上記の道徳性曲線に示すように、長年にわたって自責の念と「ふんばりなさいよ」という言葉を抱えながら生きてきたが、転職は20回以上である。最後におばあさんの死が絶対的なものとなり、自分の生き方に大きな決断をすることになる。

 道徳(アーカイブ授業)視聴

◎教材…「足袋の季節」(文部科学省)


◎授業者…文部科学省アーカイブ資料より

  アクセスURL https://doutoku.mext.go.jp/html/about.html#movie 

 

 ◎授業記録

<導入>

(1)教材名から

 ●「足袋」って知ってる?

  足袋が靴下のようなものであると確認

 

<展開>

(2)範読

(3)発問①

 ●主人公の人として「よかったところ」と「よくなかったところ」はどこでしょうか?

   ↓

(小集団のグループにて話し合い)

<よくなかったところ>

・お金をまきあげたこと

・逃げてしまったこと  ・このあとは違う人に買いにいかせたこと

・人をだましたこと 

・おばあさんの言葉を励ましてくれたものと思うようにしたこと

・苦しみから逃れようとした

<よかったところ>

 ・初めての月給が出た時に謝りに行ったこと

   (切り返し)「あなたは行ける?」「すごくない?」

 ・お金を返そうとしたこと

(4)発問②

 ●おばあさんのところへ向かう私の気持ち 

 ・許してくれるかな  

 ・早く謝りたい  

 ・自責の念から解放されたい

(5)発問③

 ●泣けたとき、何を考えていただろう?

 ・後悔 

 ・なんで謝れなかったのか  

 ・感謝の気持ち

 ・命の尊さを考えた  

 ・本当のことを言えばよかった

 ・これから罪悪感をもって生きていかなくてはならない

(6)発問④

 ●誇りある生き方で大切なことは何だろう?

(7)感想記入

 意見交流とまとめ

(1)発問について

 ・心情を問う発問が多かったので分析的な発問があってもよい

 ・発問と発問のつながりがなく単発であった

 ・読み取りのような内容になってしまった

 ・初めの発問は、面白い発問であった

(2)生徒の意見について

 ・生徒の意見をもっとつなげたり、問い返しがあったりするとよい

 ・子どもの問いから作る授業とは真逆であった

(3)主題について

 ・おばあさんの「ふんばりなさいよ」という言葉をもっと生かすとよい

 ・主人公の生き方について考えさせるような発問をした方がよかった

 ・主人公の生き方から生徒自身の生き方につなげていくとよかった

 ・中心発問から「気高さ」につなげたい

 ・「だれかにさしあげなければならない」という言葉にこだわりたい

(4)教材について

 ・主人公のよさが出にくい教材であるので、「よさ」をもっと扱うとよかった

 ・時代背景をしっかりおさえる必要がある

 改善案と総括

(1)時代と環境の確認

 導入時にこの時代(大正時代末期)の苦しい生活の様子や厳しい気候について触れておく必要がある。貧しさと寒さから「足袋」が欲しかったという十代の少年の気持ちを考えさせておくことが授業展開を内容の深いものにする。

(2)発問①を活かす

 発問①がテーマ発問的で素晴らしい発問であるので、これを活かすとよいのではないか。この教材は、主人公の生き方に焦点が当たっているので、こうしたテーマ発問的な展開が望ましいと考えられる。

 個の発問で、主人公のよさも意見として出ているので、ここから広げていくことが重要と考えられる。キーワードを拾って広げていくとよい。

(3)発問③を活かす

 発問③の場面である泣いて仕方がなかった場面を捉えて、おばあさんの死が絶対的なもので、これを背負って生きていく覚悟をしたことを生徒に考えさせていくことで深い学びに入っていくことができる。また、自我関与させやすい部分でもある。

(4)深化発問として

 深化発問として「今度は私がこの心を差し上げなければならない」という最後の部分について考えさせ、振り返りに入っていくことがよいのではないか。ここにこの授業のねらいがすべて凝縮されている

(5)振り返り

 振り返りは感想ではなく、しっかりと自分自身を見つめる時間としたい。

(6)総括

 今回は、アーカイブを使っての授業づくり、教材分析を行った。素材研究がかなり深く、参加者全員がこの教材をどのように生徒に考えさせるかを深く見つめることができた時間であった。

 授業は2018年のもので、教科化される以前のものではあったものの、すでにその趣旨は学校現場に広められている時期でもあり、大きく変わっていこうとする時期の動画であったと推測できる。それゆえに教材分析がいかに大切かを痛感させられる動画であったのではないかと思う。折に触れ、こうしたアーカイブ学習を行っていきたいと思う。

                            (文責 山田貞二)