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山田貞二先生の学習会レポート
第49回
テーマ:古きを訪ねて新しきを知る
令和5年12月16日(土)に行われました第49回AtoZ道徳授業学習会の記録です。
今回は「古きを訪ねて新しきを知る」というテーマで学びを深めました。
1 福田鉄雄先生講演会
今回、東京都より参加いただいた実践女子大学の福田先生に
「生徒も教師も楽しい道徳科の授業づくり」と題して講演をしていただきました。
道徳科の指導だけでなく、道徳教育にまで、ご自身が実践なさっていた膨大な取り組みを1時間でまとめていただきました。
若い先生にとって基礎基本を学ぶ素晴らしい時間となりました。
(1)「考え、議論する」道徳について
道徳科が教科化された経緯や「考え、議論する道徳」とは、どのような道徳なのかを分かりやすく説明していただきました。
「読み取り道徳」や「押しつけ道徳」が一般的であった授業を、大きく変えていくきっかけになったのがこの教科化です。
今では当たり前のことが、タブーとされていたこともあります。
歴史的な視点から学ぶ機会となりました。
(2)様々な指導法
先生の長年の実践から、
「涙」や「星」などのキーワードとなる言葉があることや、中心発問での子どもたちの反応の分析や導入、
振り返りなどのポイントにいたるまで、多岐にわたる内容をご教授いただきました。
すべてここで紹介したいところですが、紙面の都合もあり、概要だけにさせていただきます。
2 模擬授業
◎教材…「ブランコ乗りとピエロ」
◎授業者…岐阜県海津市立石津小学校 高木一範先生
◎授業記録
<導入>
(1)あらすじ確認(事前読み)
●サムとピエロ、団員との関係を中心にあらすじ確認
(2)「問い」の設定
●テキストマイニングの提示
このテキストマイニングを全員で確認することにより、
「許す」という言葉が最も大きくなっていることから、
「ピエロの気持ちからサムを憎む気持ちが消えたのはなぜか」
「なぜ許すことができたのか」という「問い」を学級全体で確認する。
(テキストマイニングからの「問い」の設定)
<展開>
(3)中心発問・・・心の数直線を活用
●もし自分がピエロだったら、サムのことを許すことができますか?
それともできませんか? 自分だったらどうでしょうか?
<許せない>
・みんな決められた中で演技しているから一人だけ許すわけにいかない
・ルールで決まっているから、守るべき
・みんなやりたいけど、ルールの中でやっているから
・みんなでやって、みんなで作っている舞台だから
<許せる>
・やる気があるから仕方がない
(4)役割演技・・・深化発問として設定
物語の中では、ピエロはサムのこと許したんだよね。なんでピエロは許しただろう。
深化発問としての設定。
中心発問で広がった考えを「深める」ための発問となります。
今回はこの深める発問について、「役割演技」を通して学級全体で考えるという授業展開となりました。
演者もピエロ役、サム役、団員役と3人での演技となり、かなりレベルの高いものとなりました。
(役割演技の一部)
ピエロ役:誰が出る、誰がやるということではなくて、観客を楽しませることはいいかなと思う。
生徒A:やる気いっぱいだけど、他の人の演技する時間を奪ってるよ。非難されてもしかたないよ。
指導者:しかたないっていっているけれど、Bさんはどうですか。
生徒B:観客を楽しませるというのは、やる気があって評価されるというよりも、サーカスの人としては当然のことだと思います。
指導者:でもみんな同じ気持ちなんだよね。やってない団員も含めてみんな同じなんだよね。
なんでやっちゃったのか、聞いてみたいな。サム、やってくれる人いないかな?
サム役:観客みんなが喜んでくれたから、誰がやってもいいんじゃないかな。
指導者:それ聞いてどう思いますか。Cさん。
生徒C:サーカスはいろんな人の演技を見ることができることが楽しみ。やっぱりサムだけじゃなく、いろいろと見られたほうがいい。
生徒D:観客はサムをみて楽しいかもしれないけど、サーカス全体としての一体感も見たい。
サム役:喜んでくれるのが1番かな。
サーカス団員の人もうまいねって言ってくれてもいいのになんで毎回、「お前だけ、お前だけ」って言うのかな?ダメだ。
ダメだって言われるだけの事は嫌だなって。どうして、自分がだめだと言われるのか、理解できない。
生徒E:団員の中では、ピエロが一番権力を持ってるじゃないですか。
指導者:じゃあ、リーダーの視点から聞いてみよう、ピエロさん、どうですか。
ピエロ役:リーダーとしては、みんなに活躍してもらいたいと言う気持ちをもっている。
サムが活躍することもいいけど、みんなが活躍する場をもっていたい。
指導者:ピエロ君は、自分も演技したかったのかな?
ピエロ役:自分もやりたかった。
サム役:じゃあ、俺もやりたいと言ってくれればいいのに。「時間、守れ」しかいってくれない。
だったら、お互い、言い合えればいいけど、文句ばっかり言ってくる。
なんで自分もやりたいって言ってくれないんですか?ずっと責められてる。
そういうの何もなくて非難されている。「俺もやりたい」って言ってくれればいいのに。
(ここで団員役も登壇)
指導者:さて、サムの頑張りを見て、どう思ったのかな。
団員役:サムは、大きなサーカス団から来ていて、演技は上手なのはわかるし、実際、すごいなーと感じていた。
だから、大きな口を叩くのはわかるけど、みんなだって、僕だって、活躍したい。
「嫉妬する」「ちょっとうざいなぁ」っていう感じ。
サム役:嫉妬される方が自分としては嬉しい。自分の頑張りをすごいと認めてくれるのは、嬉しい。
観客に言われるより、もっとうれしい。
指導者:ちょっと嫉妬って言葉が出てきたんだけど、この嫉妬ってどういうこと?ここでの嫉妬ってどういうことかな。
(会場の中で意見交換をする)
生徒F:楽しませたいと言う気持ちは一緒だけど、自分もやりたいと言うふうに言えない。言いづらい。たぶん、自信がないことがくやしい。
(一部省略)
団員役:ピエロは昔からいっしょにやってるので、ピエロの気持ちは分からなくない。二つあると思います。
サムすげえなぁっていうのという嫉妬もあるけど、ピエロが怒るという気持ちもよくわかるというか、サムは和を乱す、ルールを
守らないのは許せないなぁみたいな気持ち。
ピエロ:団員が、わかってくれてるのは嬉しかった。自分のことも考えてくれているのが嬉しかった。
サム役:昔からそういうのがあるんだな。それはわかりあえてるのがあるんだな。でも、自分だけ、若干、かやの外だ。
指導者:ピエロがもっとしっかりしなきゃいけないってわかったけど、ピエロが言ってることについてみんなはどう思いますか。
ピエロの責任なんですか。
生徒G:ピエロのせいと言われると…、リーダーだからこそ、怒ったこともあると思うけど……
サムを一員として認めようとして……ここをはっきり聞き取れず、リーダーの責任ではないと思います。
ピエロ:リーダーだからこそ、ダメな事はダメと言わなければいけないのはわかるけど、
「サムのこういうところはいいよね」っていうことを認めて、団員としての士気をあげることも大切。
指導者:サムには、どんないいところがありますか。
ピエロ:誰よりも観客を楽しませようと言う気持ちはとても強い。
生徒H:でも、ピエロがサムを非難することで、団員もピエロの味方になってしまう。
サム役:自分ももっと活躍できると思うし、実際には、怒られるしかコミュニケーションとっていないし…、
ピエロ:団員とサムが関われる機会をもうけるのが、リーダーだ。自分が仲介して。
指導者:リーダーはそんなことを言っているけど、団員としては、それを聞いてどうですか。
団員役:実際見ていてすごいなと思うし、刺激をもらったな。
今まで、公演をこなしていくということもあったと思うけど、サムのように、一回の演技を大切にすることを知って、
熱量を感じて、一回を大切にするサムの姿がわかって嫉妬したのかな。
指導者:さあ、こうやって、二人の関係もよくなってきたね。このバチバチな関係も。手を取り合えるような関係になってきたね。
(5)振り返り
★ 今回の模擬授業は役割演技までで終了となりました。
実際の授業では、この後「振り返り」を行って授業が終わっています。今回の授業は、役割演技が中心の授業となりました。
3 意見交流とまとめ
(1)導入の工夫
今回の授業において、導入でテキストマイニングが活用され、そのデータから問いが生み出されていった。
大変分かりやすく、生徒も問いを共有しやすい方法である。
その際に気を付けることとして以下の点が挙げられる。
・児童・生徒に考えさせる時間を設ける
・大きな文字に意識がいきがちであるが、小さな文字にも注視する必要がある。
その中に授業のテーマとなるべき言葉が隠されている
(2)中心発問の設定
今回の中心発問は「サムを許すことができるか」という発問であった。
今回のねらいである「相互理解、寛容」につながる発問で効果的であったが、「許す」「許さない」で議論をすると
ピエロからの上から目線になる。サムからの視点が必要であったのではないか。
この点に関しては、役割演技の中でサムの思いが十分に表現されていたと考えられる。
・多面的に広げていくには、やや広がりが少なかったように感じる
・数直線が効果的に活用されていた
・役割演技がメインであるとすると、ここではきっかけづくりになったと考えられる
(3)役割演技
今回の役割演技は、3人の演者を扱うという極めてレベルの高い設定であった。
しかし、インタビュー式の役割演技であったため、追求する道徳的価値から大きくそれることなく、「深い学び」になっていたと考えられる。
特に指導者の演者に対する声掛けと聴衆に対する「問い返し」が実に見事であった。
この「声掛け」と「問い返し」により中心発問では出てこなかった価値が抉り出されてきた。
インタビュー式の役割演技の効果を実感することができた。
・聴衆にも「問い返し」が多くなされていたが、もっと会場の意見を交流し深めていくことも必要であった。
・役割演技の中で「寛容」から「相互理解」の部分が議論されていた。
・サムの思いがこの役割演技で十分に表現されていた。
・団員を入れることで、かなり多角的な役割演技になっていた。
・「リーダー」が注目され、価値項目が「C-16 集団生活の充実」になってしまう時間帯があった。
この点については関連する内容項目として捉える必要があるが、この内容に入りすぎると議論の焦点がぼけてしまう可能性がある。
(4)転換点の把握
今回の授業では「テーマ発問」的な授業展開が行われたたため、場面に注視する発問はほとんどなかったが、
「サムが肩で息をする場面」「ピエロの気持ちが変化する場面」については考えさせる余地があったのではないか、
という意見が多く出された。
憎むという人間理解的な行動が一気に変わる瞬間に何が起きているのかを解き明かすことは、これからの児童・生徒の生き方に関わる重要な場面と捉える必要があると考えられる。