第21回東京例会
日時:2017年9月30日(土)13:30~17:00
会場:国立音楽大学5-219教室
〇高徳眞理(国立音楽大学修士課程)
「ドビュッシーと歌曲《雅やかな宴Fêtes galantes》〜〈ひそやかにEn sourdine〉にみる愛と絶望の夢想」
「ドビュッシーに一番大きな影響を与えたのは文学者であり、音楽家ではない。」というポール・デュカ(Paul Dukas)の言葉があるように、ドビュッシーは文学、特に詩に大きな影響を受けたと言われている作曲家である。その生涯で90余りの歌曲を作曲しており、中でもヴェルレーヌの詩に一番多くの曲を付けている。またヴェルレーヌの『雅やかなFêtes galantes』は初期の1882年から晩年に至るまで、ドビュッシーに作曲への情熱を持ち続けさせた詩集であることも分かってきている。詩集は18世紀ロココ時代の貴族の宴を描いたヴァトーの絵画の夢想の世界がテーマである。実に30年以上という長きに亘りドビュッシーを魅了し続けた『雅やかな宴Fêtes galantes』とは如何なるものなのか。ドビュッシーは、どのようにヴェルレーヌの世界を音楽で表現したのか。200年の時を超えた愛と絶望の夢想のリレーションを探る。以上。
〇倉脇雅子(お茶の水女子大学博士課程)
「ヨアヒム・ラフ作曲、交響曲第5番《レノーレ》Op.177の統合法について――4度の動機を中心に――」
19世紀中葉のドイツの作曲家、ヨアヒム・ラフ(Joachim Raff, 1822-1882)の、交響曲第5番《レノーレLenore》ホ長調Op.177(1872年作曲)(以下、《レノーレ》)は、4楽章構成であるが、各々に標題をもつ3部分(第1部が第1楽章と第2楽章、第2部が第3楽章、第3部が第4楽章)に再分割されている。そして第3部にゴットフリート・アウグスト・ビュルガー(Gottfried August Bürger, 1747-1794)によるバラーデ、「レノーレLenore」(1774年作)に着想を得た部分が配置されている。これについてラフは、1890年8月9日付のThe Musical World誌、第70巻32号(pp.629-630)に掲載された、ベルリンの音楽家、マルティン・レーダー(Martin Röder)氏宛てに書かれた手紙のなかで、第1部と第2部を、第3部のバラーデの前段にあたると述べており(Raff 1890: 630)、作品全体が「レノーレ」に関連する構想であることが分かる。ここから、本発表では、第1楽章序奏部にある4度の動機(E-H音)(mm.2-5)に着目して、《レノーレ》における役割を明らかにすることを目的とする。それは、ラフが、この動機に含まれる4度の音程関係が、後の部分に用いられる(mm. 109-113)だけでなく、楽章間の調関係(第1楽章E:~第2楽章As:)にも関わることを述べているからである(Ibid.)。これは、作品のなかで4度の動機が変化されて用いられている可能性を示唆するものだろう。ここから、4度の動機をさらに詳細にみることが重要であると考え、4度の動機の原型と、そこから派生すると捉えうるパターンを抽出した。分析結果から、このパターンは、①二音間の音程、②調関係、に加えて、③和声に含まれる4度音程、④4度音程を形成する順次進行の音列、の四種類に分類された。そして、各パターンは、音程、調そして和声においては転回形、増、減音程の関係と、音列においては半音階と音列を構成音の数の変化が認められた。以上から、本作品は4度の関係を中心とした構成であることが明らかとなった。そして、この4度の動機は、原型として用いられる場合には、各場の諸要素と結びつくことで特徴づけられ、そして変化型においては、示導動機、既存の型そして擬音の一部として、より明確な性格を獲得することを見出した。《レノーレ》において4度の動機は、これら二つの性質を使い分けて各場に求められる物語性を表現する役割をもつといえるだろう。
〇大嶌徹(昭和音楽大学など非常勤講師)
「初期レコード産業のクラシック音楽の取り込みとその消費について」