SNSカウンセリング

SNSカウンセリングとは

SNSカウンセリングとは、LINE、Twitter、InstagramなどのSNS(Social Networking Services)を用いて行う遠隔の心理支援のことです。


今どきの若者のコミュニケーション・スタイル

今の若者は、デジタルネイティブとかスマホネイティブなどと呼ばれています。彼らは、生まれたときからインターネット環境に親しみ、携帯デジタルデバイスとともに成長した世代です。

調査によれば、小学5〜6年生の約半数がスマホを所持しており、高校生になるとスマホの保有率は約9割に上るそうです。親の世代にとって、スマホは電話機の進化形であって、親は子どもに電話を持たせているつもりかもしれません。しかし、実際のところ、若者たちがスマホで音声通話をすることはあまりありません。若者たちの遠隔コミュニケーションの方法は、今や圧倒的にLINE、Twitter、InstagramなどのSNSとなっているからです。

今どきの若者たちは、喧嘩をするのもSNSなら、恋の告白をするのもSNSです。恋人同士の別れ話もSNSということが多いです。つらいことがあった時にも、震える声で電話したり、涙で滲んだ手紙を書いたりすることは、ほぼないのです。若者たちのこうしたコミュニケーション・ツールの変化は2010年代に急速に進みました。この点に関して、若者と大人との間には大きなジェネレーション・ギャップがあります。大人たちは、この変化の重要性をよく認識できていませんでした。


現代社会におけるSNSカウンセリングの必要性

そんな中で、2017年、座間市において9遺体が見つかる事件が起きました。犠牲者9人のうち8人は若い女性で、うち4人は10代でした。被害にあった女性たちの多くはTwitterに「死にたい」という書き込みをしていました。犯人は、これらの女性たちに、Twitter上で、親切を装ったメッセージを送り、相談に乗るような形でやり取りを重ね、ついには殺害に及んだのです。

この事件は社会に大きな衝撃を与えました。この事件が大きな痛みとともに広く社会に知らしめたのは、現在、多くの若者が、つらい気持ちを、身の回りの誰かに打ち明けることなく、SNSのテキストメッセージで発信するということです。

つらい気持ちを抱えた時、相談機関や医療機関に足を運んで相談するのは、かなりハードルが高い行為です。まして有料、予約制、長い待ち時間などの条件が伴うなら、ハードルはさらに上がります。それゆえ、もっと手軽に相談できる場が必要です。これまでそれは電話相談でした。しかし近年、どこの電話相談でも、10代、20代の若者層の利用はかなり低調になっています。

手許の統計によれば、いのちの電話のある支部に寄せられた相談のうち、30歳未満の相談は、1980年代初頭では半分近くを占めていましたが、2016年には1割を割り込むまでに大きく低下しています。現代の若者は電話をあまり使わなくなっているのです。

若者の電話離れが進み、それに代わってSNSが身近なコミュニケーション・ツールとなっているにもかかわらず、それに対応した相談窓口が整備されてきていなかったのです。2017年に起きた痛ましい事件は、現代の若者のコミュニケーション・スタイルにフィットした新たな形の悩み相談の必要性を強く認識させたのです。

国は、SNSを活用した相談体制の構築を喫緊の課題と位置づけ、すぐに施策に反映させました。2017年度の終わりには、文部科学省や厚生労働省が打ち出す相談事業において、SNS相談が導入されています。

SNSカウンセリングは、このような経緯で、2017年から急速に社会に広まった新しい形の相談です。SNSカウンセリングは、SNSを用いたカウンセリング(悩み相談)です。いろいろなやり方があるものの、基本的にはテキスト・メッセージのやり取りによって行われるものです。現在行われているSNSカウンセリングは、様々なSNSの中でも、LINEを用いて行われているものが多いです。


SNSカウンセリングのメリット

SNSを用いて行われるカウンセリングにはどのような特徴があるのでしょうか? ここではそのメリットを主に見ていきましょう。

SNSカウンセリングの最大のメリットは、その敷居の低さにあります。2018年度に文部科学省の予算で行われた、中高生を主な対象とするSNS相談の調査では、SNS相談に寄せられた相談の件数は、従来の電話相談の約26倍にも上ったことが報告されています。

SNSカウンセリングは、対面では、あるいは電話では打ち明けづらいような内容の相談でも、打ち明けやすいことが知られています。いじめられている子どもたちは、いじめられていることを認めるのを屈辱的に感じたり、相談すると大ごとになることを恐れたりして、なかなか相談してくれないものです。けれども、SNSカウンセリングでは、対面の相談よりも、いじめの相談が多く寄せられます。

また、SNSカウンセリングでは、LGBTについての相談も、対面や電話での相談以上にたくさん寄せられます。これまで誰にも言えずに一人で悩んでいたけれども、初めて話せたという言葉を聞くこともしばしばあります。

さらには、SNSカウンセリングは、声を出さずにできるので、生活場面において周囲に気づかれることなくアクセスできます。それゆえ、虐待されている子ども本人からの相談も寄せられやすいのです。SNSカウンセリングでは、虐待する親が隣の部屋にいる状況でも、相談することが可能だからです。

また、SNSカウンセリングはその敷居の低さゆえに、幅広く多様な相談が寄せられます。恋の悩みや部活動の悩み、進路の悩みなど、スクールカウンセリングや教育相談などの対面の相談では滅多に出会わないような健康度の高い子どもからの悩みの相談があります。他方では、精神科の治療を受けていてもなお、なかなか気持ちが安定しない、複雑で深刻な問題を抱えた子どもからの相談もあります。また、特に精神医学的な問題はないけれども、家庭環境や友人関係に恵まれない孤独な子どもたちが、ひとときの話し相手を求めてアクセスしてくることもかなりあります。

SNSカウンセリングは、中高生を対象としてスタートしましたが、大人にも広がりを見せています。働く人のための相談、子育て相談、メンタルヘルス相談など、多様な相談窓口が対面や電話に加えてSNSでも開かれるようになっています。

SNSカウンセリングは、その敷居の低さから、問題の早期発見、深刻化の予防に有用な相談形態であると言えます。もちろんさまざまな課題もあるものの、SNSカウンセリングは予防的観点から見て非常に有効な手段であり、特に若年層の心理相談において、重要な位置を占めるようになっています。


文献