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-抗炎症薬セレコキシブの抗がん効果等を診療録情報に基づき検討する後方視的研究-
セレコキシブは、シクロオキシゲナーゼ(COX)の阻害により抗炎症効果を発揮する非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の1つに分類されるが、COX-2への選択性が高く、従来のNSAIDsで見られるようなCOX-1阻害による出血傾向、胃腸障害、腎障害の発症は少ないとされている。日本においては、関節リウマチ、変形性関節症などへの適応を2007年に取得した。
一方、セレコキシブに抗腫瘍活性があることが多くの基礎研究および臨床研究により報告されている。特に家族性大腸腺腫症においてはポリープの再発が33~45%減少したことが報告され、米国においては家族性大腸腺腫症の治療薬として一時期用いられていた。この抗腫瘍活性がCOX-2阻害によるのかどうかについては依然議論があるが、我々は、 COX-2阻害作用を失ったセレコキシブ誘導体2,5-dimethylcelecoxib(DMC)でもマウスの腸癌を抑制することを示し、この抗がん作用は主にWnt/β‐カテニン系の抑制を介するのではないかと考えている。
しかしながら、類薬のロフェコキシブが、おそらくプロスタサイクリン産生阻害により、心血管イベントの発生率を上昇させることが報告され、セレコキシブにもそのようなリスクがあると考えられたため米国における大腸腺腫症への適応は取り消された。実際、セレコキシブの長期使用でも心血管イベント発生率が上昇するという報告はあるが3,4、そのリスク増加は一般のNSAIDsと差がないとする報告もあり5、セレコキシブを特別視することには意見が分かれている。
日本では、リウマチおよび変形性関節症の患者を対象に2つの試験が行われ、セレコキシブはむしろ他のNSAIDsより心血管イベント発生率が低い傾向にあったと報告されている。しかし、これら短期間の試験であり、またセレコキシブが導入されて日が浅かったこともあり、抗がん効果についての検討は行われていない。
このような背景に基づき、九州大学病院と産業医科大学病院との共同研究にて、セレコキシブ服用者のがん発生率を非服用者のそれと比較することにより、日本人におけるセレコキシブのがん予防効果・抗がん効果の有無を解明したいと考えている。さらに、副次評価項目として心血管イベント発症率を検討することで、セレコキシブの安全性に関する情報も検討する。
【文献】
Egashira I, Takahashi-Yanaga F, Nishida R, Arioka M, Igawa K, Tomooka K, Nakatsu Y, Tsuzuki T, Nakabeppu Y, Kitazono T, Sasaguri T: Celecoxib and 2,5-dimethylcelecoxib inhibit intestinal cancer growth by suppressing the Wnt/β-catenin signaling pathway. Cancer Sci 108: 108-115, 2017
Nagano A, Arioka M, Takahashi-Yanaga F, Matsuzaki E, Sasaguri T. Celecoxib inhibits osteoblast maturation by suppressing the expression of Wnt target genes. J Pharmacol Sci. 133:18-24, 2017.
Takahashi-Yanaga F, Yoshihara T, Jingushi K, Miwa Y, Morimoto S, Hirata M, Sasaguri T: Celecoxib-induced degradation of T-cell factors-1 and -4 in human colon cancer cells. Biochem Biophys Res Commun 377:1185-1190, 2008
Fukada K, Takahashi-Yanaga F, Sakoguchi-Okada N, Shiraishi F, Miwa Y, Morimoto S, Sasaguri T: Celecoxib induces apoptosis by inhibiting the expression of survivin in HeLa cells. Biochem Biophys Res Commun 357:1166-1171, 2007
Sakoguchi-Okada N, Takahashi-Yanaga F, Fukada K, Shiraishi F, Taba Y, Miwa Y, Morimoto S, Iida M, Sasaguri T: Celecoxib inhibits the expression of survivin via the suppression of promoter activity in human colon cancer cells. Biochem Pharmacol. 2006