付加体
普通の地震の発生メカニズムを考えるためには,地震波や測地データによる地球物理学的な情報だけでなく,実際に変形の起きる岩石を観察する地質学的な情報も重要となります.深部スロー地震の発生する地下30km程度を直接観察するのは困難ですが,浅部スロー地震の発生する地下数kmのプレート境界の岩石を直接入手することを目指して海底掘削が行われています.西南日本において行われているプロジェクトに参加し,掘削されたコアの地質学的観察や物性テータの解析を行っています.
①Physical Property データ: Yabe et al. (2019, EPS)
掘削されたコアは,密度や空隙率,地震波速度(主にVp)といった物性量が測定されます.これらの物性量の相関関係は,沈み込み帯の付加作用における物質の圧密過程を反映していると考えられます.定量的な関係を理解することで,地震の発生場である付加体の形成・発達史に関する理解を深めます.
② XCT データ : Yabe et al. (2019, EPS)
JAMSTECの掘削船「ちきゅう」で掘削されたコアは,各種解析が行われる前にCTスキャンされます.このXCTデータは物質の密度や化学組成に依存する量であり,小さいスケールでの物性の3次元構造の情報を持っています.堆積物中においては,XCTデータは主に密度の関数と考えられ,さらに密度は他の物性量と相関関係にあります.つまり,このXCTデータを活用することで,例えば,コアに含まれる断層周辺の各種物性値の3次元分布を推定することができ,それらの値を断層破壊シミュレーションに取り入れることができます.また,XCTデータはコアのある限り連続的に存在するため,現在視覚的な観察から決定されているコアの岩層を,定量的に把握するための新たな情報源とすることができるのではないかと考えています.
③ コア中の剪断帯の観察
これまでいくつかの研究で,コア中に含まれる剪断帯の観察が行われ,地震性滑りの証拠が提示されてきました.しかし,コア中にはさらに多くの剪断帯が含まれており,解析の行われていないものが多くあります.多くの剪断帯を横断的に解析していくことで,浅部付加体における普遍的な断層運動の特徴(地震性or非地震性など)を把握します.浅部断層の破壊挙動は,津波の発生などにも関わる重要なテーマです.