研究内容

近年の高精度・高密度な観測によって,地震現象の多様性が明らかになってきました.僕は地震学・測地学・地質学など様々な観点から,この地震の多様性を生み出すメカニズム(特にスロー地震)について研究しています.一つの現象を総合的に俯瞰することで,そのメカニズムに迫りたいと思っています.また,地震動データを使って「地震ではないもの」をモニタリングすることや統計学的手法を地質データに適用することにも興味があります.

スロー地震の研究をしたい,マニアックな歪計のデータを使ってみたい,産総研で研究してみたい,といった学生さん・研究室は是非ご連絡ください!


取り組んでいる研究テーマは以下の通りです.

・地震データを用いた微動・VLFE解析

・ 測地データを用いたSSE解析

・歪データ解析

・断層帯の地質調査

・断層破壊数値計算

・都市域地震学

・地質データの統計解析

地震データを用いた微動・VLFE解析

スロー地震の中でも地震計で観測されるシグナルは微動(2-8Hz)・VLFE(20-100s)と呼ばれます.様々な地域で発生する微動とVLFEの時空間的な関係性を明らかにし,両者が同一の滑り現象を異なる周波数帯で見ているものであることを明らかにしてきました.(Yabe & Ide, 2014; Ide & Yabe, 2014; Yabe et al., 2019, 2021)また,潮汐応答性など,スロー地震活動の時空間的な特徴についても解析しています.(Yabe et al., 2015)

②測地データを用いた SSE解析

スロー地震の中でも測地帯域で観測されるシグナルはSSEと呼ばれます.GSJでは南海トラフにおけるSSEのモニタリングのため,歪観測網を西南日本に展開しています.このデータに,気象庁が東海地域に展開する歪観測網のデータと防災科研が全国的に展開するHi-netの傾斜計のデータを加えて,SSEのモニタリングを実施し,毎月その結果を気象庁の評価検討会や地震調査委員会に報告しています.さらに,SSEの自動検知(Yabe et al., 2023)やSSEの滑り時空間分布推定に取り組んでいます.

③歪データ解析

通常の地震計やGNSS,傾斜計といった観測装置は日本全国に展開されていますが,歪計は比較的珍しい観測項目です.その精度は非常に高く,微小な歪を計測することができます.測地データとしてだけではなく,地震動の帯域でもその記録は有効です.そのため,詳細な解析を実施することで,他の観測では見られない詳細な特徴を把握できることが期待されます.一方で,その精度の高さゆえに,テクトニックでない要因の地殻変動(例えば,潮汐,降雨,地下水流動,津波,気圧変動,etc.)も多く記録しています.それらに対する応答をきちんと理解しないとテクトニックなシグナルを正確に解析することは難しく,ある意味使いにくいデータとも言えます.GSJの保有する観測データは同一地点で気象・地震・歪・傾斜の多項目観測を行なっている非常にユニークなもので,そのポテンシャルをフルに活かせる様々な解析手法を検討する必要があります.現在は,歪を用いたMT解析などに取り組んでいますが,皆さんからの様々なアイディアを絶賛募集中です!

④断層帯の地質調査

日本列島の陸上に露出する岩石は,過去の沈み込み帯で形成された付加体で,その一部には過去のプレート境界断層と考えられるものも存在します.現在は九州東部の四万十帯をフィールドに,地表調査と掘削を組み合わせてスロー地震の陸上アナログ地層の調査を実施しています.

地球深部探査船「ちきゅう」による海洋科学掘削では,現在進行形で地震現象が発生している現生のプレート境界にアクセスすることが可能です.海洋科学掘削で得られたコア計測・検層データを総合的に組み合わせることで,現生付加体の物性構造やスロー地震発生領域の構造の解明を目指した研究を行なっています(Yabe et al., 2019, 2020, 2022).

⑤断層破壊数値計算

様々な地球物理学的データや地質学的観察から得られた知見をもとに,地震の発生を数値計算で再現する研究を行なってきました.普通の地震について,摩擦特性が区間的に不均質な断層上で発生することで本震前に多様な前兆的滑り挙動が生まれうることを明らかにしたり,本震の滑り域の内部でも余震が生じうることを示しました(Yabe & Ide, 2017, 2018a, 2018b).また,スロー地震の統計的性質を説明する確率的モデル(Ide & Yabe, 2019)を構築したり,それを利用してスロー地震の陸上アナログ露頭が放出する地震波のモデル化を行なったりしています.

⑥都市域地震学

人間活動が活発な都市部に設置された地震計には,様々な人間活動の痕跡が記録されています.コロナ禍初期における社会活動の自粛によって地震計のノイズレベルが低下したこと(Yabe et al., 2020)を示したり,サッカーのサポーターがスタジアム内で飛び跳ねて応援することで励起された地震波を観測(Yabe et al., 2022)したりしています.人間活動によって放出される地震波を上手に解析することで,都市部の浅部地盤構造評価を効率的に高精度化することを目指しています.

⑦地質データの統計解析

地質学的なデータ(物性,化学,構造地質,etc.)から同じ特徴を持つものをまとめて地質ユニットを定義することは,クラスタリングそのものと言えます.統計学的な手法を用いて地質ユニット分けを定量的・自動的に行う手法の検討を行なっています(Yabe et al., 2022).