スロー地震活動定量化

震源物理について考える基礎情報として,まず何が起きたかを明らかにする必要があります.特にスロー地震はシグナルが小さいため,その活動をきちんと定量化するところから研究を始める必要があります.


①深部低周波微動の震源決定 : Yabe and Ide (2013, EPS)

地震波(P波・S波)の到達が不明瞭で,しかも連続的にシグナルの到達する深部低周波微動は,震源決定(特に深さ方向)自体から困難を伴います.地震の位置情報はその後の解析の基礎情報となるため,なるべく精度の高い推定が求められます.地震波形の相互相関を異なる時間窓間でスタックする手法を開発し,深部低周波微動の深さ推定について精度の向上を図りました.


②深部低周波微動活動の定量化 : Ide and Yabe (2014, GRL), Idehara et al. (2014, EPS), Yabe and Ide (2014, JGR), Ide et al. (2015, GRL), Yabe et al. (2015, JGR)

地震の特徴は個々に異なりますが,地震活動全体としては統計的性質を持っています.深部低周波微動活動の統計的性質を様々な観点から各地で定量化しました.それにより,特徴量の空間的不均質性が明らかになりました.それらの分布には相関関係が見られ,震源モデルが再現すべき制約条件を得ることができます.


③深部低周波地震のモーメントテンソル推定

モーメントテンソルという物理量は,地震の断層面やサイズを記述する基本的な量ですが,低周波地震や微小地震のように,1Hz以上の高周波の地震波が卓越するイベントに対しては推定することが難しいという問題があります.これは,高周波の地震波ほど小さなスケールの地震波速度構造の影響を受けてしまうため,波形のモデル化が難しいことに原因があります.近年の計算機資源の発展によって,小さいスケールの不均質を含む3次元地震波速度構造を考慮した地震波形計算が可能になってきました.地震波速度構造における短波長不均質の存在によって,低周波地震/微小地震の波形がどの程度影響を受け,モーメントテンソルの推定が高周波地震波においてどこまで可能であるのかを理論テストによって調べています.さらにこの手法を実波形に適用して,低周波地震のモーメントテンソル推定を行います.地質学的なスロー地震の痕跡の観察からは,剪断帯に斜行した脆性破壊や開口成分の変形が指摘されており,モーメントテンソルとの対応を調べる必要があります.


④浅部低周波微動活動の定量化 Yabe et al. (2019, JGR)

スロー地震は海溝近くの浅いプレート境界断層上でも発生していることが知られています.深部のスロー地震と浅部のスロー地震は,温度や圧力と行った発生環境が大きく異なることから,それらの共通点や相違点を明らかにすることは,スロー地震の発生メカニズムに迫る重要な手がかりとなります.しかし,陸域の地下で起こるため比較的観測しやすい深部スロー地震に対して,海域で発生する浅部スロー地震は観測そのものが難しいという難点があります.南海トラフでは,JAMSTECがDONETと呼ばれる海底地震観測網を整備しており,このデータを用いて浅部スロー地震の解析を行うことができます.