ワールドカフェをはじめとするホールシステムアプローチについて書籍を通して学習してみたいと思っている方にその学習方法について解説をします。
ホールシステムアプローチの場づくりや実施方法を手短に学習するには、当コミュニティの会長である香取、副会長である大川の共著『ホールシステム・アプローチ』をおすすめします。ワールドカフェやオープンスペーステクノロジーなどの対話方法をもう少し詳しく理論的にも理解したい方は、それぞれ専門の書籍が出版されていますので、それらを読み進めることをおすすめします。(→ホールシステムアプローチに関する書籍)
ホールシステムアプローチは「学習する組織」という世界観をバックボーンにしています。「学習する組織」は組織の一人ひとりが主体的に行動し、互いが協力しあい、学び合い、進化を続ける組織のあり方です。1980年代、 日本製品が世界市場を席巻する中、停滞するアメリカ経済を変革しようと多くの経営者や研究者が日本企業の経営マネジメントを研究する中から生まれた世界観です。当初は企業組織のマネジメントを変革するテーマとして捉えられていましたが、その後、徐々に企業という枠組みを超えた社会やコミュニティのあり方としての概念として広まっていくことになります。この分野のバイブルは1990年にこの分野のグルであるP.センゲが著した「The Fifth Disciplin」(邦訳:「最強組織の法則」)です。「学習する組織」に関しては様々な角度からその構造や実践方法の解説がなされてきています。(→学習する組織に関する書籍)
P.センゲは著書の中で、「学習する組織」には以下の5つの規律が必要だとしています。
・システムシンキング(事象のつながりに着目して複雑な現実を捉える)
・自己マスタリー(一人一人がありたい自分と現実とのギャップを感じ取る)
・共有ビジョン(一人一人のありたい姿を重ね合わせて組織のありたい姿をつくる)
・メンタルモデルの克服(自分たちが暗黙的に持つ決めつけに気づき、克服する)
・チーム学習(チームで協力しあい、支え合いながら取り組む)
P.センゲは「システムシンキング」がこれらの規律の中でも特に重要であり、全体をつなげる土台となるものであると示している。「システムシンキング」については「学習する組織」と独立した形で世界的に研究が進められている。(→システムシンキングに関する書籍)
「学習する組織」の概念はアメリカを起点として広がりましたが、実は、類似したテーマの研究が以前からなされてきました。世界的な経営学者である野中郁次郎の「知識創造企業」です。野中は日本企業の経営、その中で長年育まれてきた「知」が生まれる過程を丹念に研究し、知識の創造を経営の中心に据えた「知識創造企業」というコンセプトを打ち立てました。「学習する組織」のグルであるP.センゲも来日の際、野中との対談で「学習する組織」と「知識創造企業」の間にはかなり似た部分があると自らが認めていた。「学習する組織」の本を読んでも理解がしづらいと感じる方は、こちらの分野から読み進めることも一つの方法です。(→知識創造企業に関する書籍)
ますます社会が複雑化と変化のスピードも早さを増す中で、「学習」のあり方そのものを見直す動きが出てきています。PDCAサイクルに代表されるようにこれまでのマネジメントや「学習」は、過去の振り返りや内省の中から学びとり、変化に対応していくことを示してきました。しかし、環境変化が激しく断片的な現代社会の中では、未来を過去の延長ではなく、もっと大きな世界観やつながりの中で感じ取り描き出していく力が求められます。この未来を創造的に描き出す「学習」のあり方について「U理論」が生まれてきました。(→U理論に関する書籍)
ここからは、より学問的にこの分野を探求してみたい人向けの紹介です。
「学習する組織」や「ホールシステムアプローチ」の土台には「社会構成主義」という考え方があります。現実というものが人の思考とは別に存在するという「客観主義」と対抗するように「社会構成主義」では現実が、人や集団の認知や理解によって社会的に「構成」されていくのだと主張します。その際に重要となるのが、人の「言語」や「物語」です。「言語によって世界が構築される」という言葉が示すように、人々の言葉や対話が社会や現実を作り出していくという考えが「学習する組織」や「ホールシステムアプローチ」の基本となっています。(→社会構成主義に関する書籍)
「学習する組織」や「ホールシステムアプローチ」の土台となるもう一つの考えに「ポジティブアプローチ」があります。人は常に問題を見つけ出し、それを解決しようと努力をします。「〜対策」といった言葉が示すようにビジネスの世界でも、政治の世界でも、地域コミュニティの世界でも同じことを繰り返してきました。しかし、こうした問題にフォーカスを当て、その解決をしていくだけでは、本当に豊かな社会や強い組織、高い成果を生み出すことはできないのではないか、その組織や人の持つ「強み」に注目して、その「強み」を認め合い、最大に発揮することを指向しようとするのが「ポジティブアプローチ」です。このアプローチの考えを最も色濃く反映させているのが「ホールシステムアプローチ」の一つ「AI」です。ポジティブアプローチについては心理学や社会学の分野でも広がりつつあります。(→ポジティブアプローチに関する書籍)
「学習する組織」について探求するもう一つの道が、学習理論からのアプローチです。従来、人の学習については様々な研究がなされてきましたが、近年、人の学習も組織との相互作用の中で引き起こされると考える流れがあります。代表的なものにジーンレイヴの「状況に埋め込まれた学習ー正統的周辺参加」があります。ただ、この分野を学ぶ際には、もう少し手前にある学習理論の基本をある程度理解しておくことをおすすめします。(→学習コミュニティに関する書籍)