組織・コミュニティをつなぐ「対話の場」
社会は、企業、政府、NPO、学校、病院、地域コミュニティなど、様々な組織によって構成され機能しています。また、例えば企業であれば、部門、課、グループなど、一つの組織の中も、いくつかの組織に機能分化がなされています。分化することによって効率性や専門性を高めていくことができます。ところが一方で、こうした分化したままの状態では取り組むことが難しいような大きなテーマが沢山あります。
特に、近年のようにより複雑化し、高度化した社会の中では、あらゆるものが結びつき、影響しあってくるため、組織内で閉じられた議論や問題解決がうまく機能しないケースも増えてきています。
分化した組織・コミュニティをつなげる場、特に、特定テーマに関する人が組織の垣根を越えて一同に集まりお互いに語りあい対話する中で未来を作っていく「対話の場」が必要となっています。この「対話の場」づくりの方法を「ホールシステムアプローチ」と呼んでいます。
ホールシステムアプローチでは、多様な人が集まり、対話の中から、「現状・問題の共有」、「ビジョンの作成」、「問題解決の方法の探索」、「活動シナリオの構築」などを進めていきます。
参加者自らが作りあげる「場」
以前からも組織・コミュニティを超えた話し合いの「場」はありました。組織を超えた横断プロジェクトや地域の中で行われるワークショップなどです。従来のこうした話し合いの場と「ホールシステムアプローチ」の違いについて考えていきます。従来の話し合いの場には、その場の位置づけや進め方を決める主体者が必要で、参加者はあくまで主体者の設定した枠組みと方向性の中で「場」に参加することとなります。しかし、多くの場合、こうした主体者と参加者との関係が本来の全員参加型の共創といった形にならず、いつしかこうした「場」が関係者の意見を集約するための「場」となってしまいます。全員の力と知恵で前進していくには「場」の進行に
参加者が主体的に参画していくことが共創のきっかけとなります。
しかし、一方で何も進行手順がない中で多様な人が集まって話し合いをしていくことも現実的ではありません。そこで、考案されてきたのが「ホールシステムアプローチ」です。この手法では、対話のルールや方法が大まかに決められていますが、進行役が「場」をコントロールすることが極めて少なく済み、それらのルールや方法に参加者一人ひとりが準じて行動することで創造性の高い建設的な話し合いの場を作ることができます。そういった意味では「ホールシステムアプローチ」は、「場」の主体者が明確な方向に導く「計画された話し合い」と、「ただの話し合い(雑談)」のちょうど中間に位置するものだとも言えます。
4つのホールシステムアプローチ
1980年代の後半から、こうした話し合いの場のあり方について様々な研究が進められてきました。ここでは代表的な4つのホールシステムアプローチについて解説していきます。
ワールドカフェ
メンバーの組み合わせを変えながら、4~5人単位の小グループで話し合いを続けることにより、参加者全員が話し合っているような効果が得られる会話の手法。実際のカフェでのインフォーマルな会話のように、リラックスした雰囲気の中で、テーマに集中 した話合いが行われる。また、小グループをより大きなグループと結び付けることにより、協調的思考能力を向上させることができる。(→ワールドカフェ)
AI(アプリシエイティブ・ インクワイアリ)
個人や組織のポジティブな側面に注目し、それをさらに強化するために、システム全体を巻き込んだ継続的な探究を重ねることにより、生命体としての活力を最大限に 発揮させる組織変革手法。生命体組織論をベースにしたポジティブ・アプローチで あり、社会構成主義を前提として言葉とストーリーテリングを重視していることなどに特徴がある。
OST (オープンスペース・ テクノロジー)
重要な課題について、関係者を一堂に集めて、参加者が解決したい課題や議論した い課題を自ら提案し、自主的にスケュールを決めて話し合いを行う会議の手法。参加者の当事者意識と自己組織化能力を最大限に引き出すことにより、参加が納得できる合意に到達できるようにする。
フューチャー・サーチ
特定の課題に関係するすべてのステーク・ホールダーを招いて、過去、現在、および未来について様々な角度からダイアログを行い、参加者全員が合意できる共通の価値(コモングランド)を見いだし、将来のビジョンを描き、それを実現するためのアク ション・プランを作るプロセス
ホールシステムアプローチの実施テーマレベル
ホールシステムアプローチは現在世界中で実施されており、日本においても2000年くらいからワールドカフェなどを中心にホールシステムアプローチが数多く実施されています。ホールシステムアプローチは扱うテーマや実施の大きさは多種多様で応用範囲も極めて高いところが特徴です。ここでは、これまで実施されてきている内容を実施テーマレベルという視点から捉えてみます。
部署内での実施
企業組織などの特定の部署の中で「ホールシステムアプローチ」を実施するケースがあります。例えば、部署戦略の策定や部署内の課題解決について全員あるいは代表者が集まって対話をするなどの事例があります。普段とは違う雰囲気の中でフラットな話し合いの中から、創造的な解決策や新たなチームワークが生まれることもあります。
部署横断での実施
企業組織などで複数の部署が横断で実施する「ホールシステムアプローチ」です。例えば、部署をまたがるテーマで、かつ、部署を超えた恊働が効果をあげるケースです。例えば開発部門、営業部門、販売店が集まった商品・サービスを企画することや、部門横断での抜本的なコスト削減策の模索などです。また、こうした取り組みによって組織間の壁が解消されるなどの風土面での効果も大きくあります。
会社組織横断などでの実施
会社やNPO、病院、学校、地域コミュニティなど、個別組織を横断した「ホールシステムアプローチ」です。近年、先駆的な企業が企業という枠組みを超えて社会と結びつきを深めるヒューチャーセンターを立ち上げている事例もありますが、これまで関係が薄かった、あるいは敵対していた個別組織が、一同に集まり、共通のテーマについて対話し、行動を生み出すことで大きな力を生み出そうとしています。
グローバルな実施
現在、国際紛争や民族対立の解決策として「ホールシステムアプローチ」が用いられています。地球環境保護に代表されるような世界が恊働で取り組む必要のあるテーマも多くなってきています。文化、宗教などを超えた話し合いの中から、対立や交渉といった中では得られなかった本質的な解決策を模索する試みが進められてきています。