講演者:リングホーファー萌奈美さん(帝京科学大学 生命環境学部)
日時:2023年11月17日(金)13:30から15:00まで
場所:筑波大学 第3エリア 工学系F棟10階 1020室
アクセス:つくば駅前から「筑波大学循環」もしくは「筑波大学中央」行きのバスに乗って、「第3エリア前」で下車してください。
タイトル:個体~集団の多階層レベルで探るウマの社会性
概要:
ウマは約6000年前に家畜化されてから、ヒト社会に広く貢献してきた。系統進化的に異種であるヒトとウマが、なぜこれほど密接な関係(絆)を築くことができるのだろうか。同じくヒト密接なイヌでは研究が進み、家畜化の過程によってイヌがヒトに特化した社会的知性を身に付けたことが一因だと考えられている。しかし、イヌ以外の家畜での社会的知性の科学的知見はまだ少ない。社会的知性とは、他者が誰かを認識した上で相手の感情・知識を感じ取って行動するといった、他者(通常は同種他個体)と関係を構築する際に重要な能力とされる。
ウマには「人馬一体」や「心を読む」といった表現があることからも、他者との関係構築に重要な「他者への理解」や「他者との同調」といった特性に長ける可能性がある。本研究では野生下・飼育下のウマを対象に、同種他個体やヒトとの関わりを個体~集団レベルで多階層的に検証することで、これらの特性について研究を進めてきた。
野生下ウマの行動生態学的研究では、ドローンを駆使した非侵襲的で新しい手法を用い、ウマの社会構造や行動を定量的に解析してきた。ウマが複数個体と関わってヒト社会にも似た重層社会を構成すること、互いに行動を調整して群れや地域集団のまとまりを維持していることなどが明らかになってきた。また飼育下ウマの動物心理学的研究では、統制した条件で認知実験を行い、ウマとヒトとの関わりを定量的に分析してきた。ウマがヒトの心・外的状態やジェスチャーを識別・理解する能力に長け、それに応じて行動を調整する能力にも長けるという、ヒトに対して高い社会的知性をもつことが明らかになってきた。
本講演では、これまでの一連の研究から明らかになったヒトにも似たウマの豊かな社会性に関する知見を紹介し、ヒトを含めた動物の社会性の進化・発達について考察したい。