講演者:柳澤 実穂 さん(東京大学 大学院総合文化研究科)
日時:2025年2月28日(金)14:00から15:30まで
場所:物質・材料研究機構(NIMS)千現地区 本館居室棟 2階 小セミナー室
アクセス:外部から来られる方は、NIMS千現地区守衛所で入構手続きが必要です。世話人の名前『分子機能化学グループ / 高井』を伝えて、入構カードをお受け取りください。TXつくば駅および筑波大から来られる方は、NIMS定期便をご利用いただけます。
タイトル:動く相分離液滴:共存するDNAの構造転移に伴う分子配置と移動速度の変化
アブストラクト:界面張力差により生じるマランゴニ対流によって動く油滴は、細胞運動を理解するための簡単なモデル系として研究されてきた。これに対してごく最近、相分離する高分子混合系:ポリエチレングリコール(PEG)・デキストラン(DEX)・水系により形成されるDEX液滴も、外部のPEG濃度勾配に沿って動くことが報告された[1]。このDEX液滴は、従来の油滴とは異なり、液滴内外が同じ水相であることから、液滴外部との分子輸送が可能である。そこで我々は、DEX液滴にDNAを取り込ませることで、共存するDNAの構造転移によりDEX液滴のパターンや運動を制御することを目指した。本研究では、DEX相の体積分率がマイナーとなるPEG-DEX水溶液を細長いチャンバー内に流し入れた後にPEG濃度勾配を設けることで、動くDEX液滴を作成した。DEX液滴の外部へDNAを添加すると、DEX液滴はDNAを取込んだまま運動し続ける。Mg2+を添加してDNAをコイル・グロビュール転移すると、DEX液滴の運動速度は約1.5倍速くなることを見出した。この現象は、液滴の運動速度は液滴内外の溶液粘度に反比例し、コイルDNA存在下では粘度が約1.5倍高くなることから説明できる。また、DNAの液滴内配置もDNA構造により変化し、コイル状態では液滴中央からシェアバンディングによってDNAが排除される一方、グロビュール状態では液滴表面に接着した後、対流によって液滴後方に運ばれて凝集した。この非軸対象なDNAの局在に伴い、液滴まわりの対流の変化も示唆された。発表では、こうした動く相分離液滴の運動とパターンの詳細について発表する予定である[2]。
また、時間が許せば、最近報告した基板への濡れに伴う多段階相分離によるパターン形成についても紹介したい[3, 4]。基板との相互作用により、分子構造が極めて似た高分子同士(例えば1塩基しか違わないDNA同士)が相分離する様子は、基板の影響を無視できるバルク系では見られないことから、興味深い系といえるだろう。
1) Zhang, et al., 2021, Nature Commun., 12: 1673
2) Furuki, et al., 2024, ACS Appl. Mater. Inter., 16:343016
3) Gong, et al., Nature, 2024, 636, 92.
4) Syono, et al., ACS Macro Lett., 2024, 13:207.