講演者:荒井貴光さん(国立研究開発法人海洋研究開発機構 / JAMSTEC)
日時:2024年12月20日(金)12:00から13:30まで
場所:筑波大学第3エリアF棟1020室
タイトル:実データから同期メカニズムを解明するための位相計算手法の開発
概要:同期現象は、物理学、化学、生命科学など様々な分野で確認されており、この同期メカニズムの解析は非線形・多次元の複雑なシステムダイナミクスの本質的な理解に役立つ。位相縮約理論によってリミットサイクル解を持つ支配方程式が位相振動子系に縮約できることが知られており、この理論に基づいて観測値から位相振動子系を推定する同期解析の手法が提案されている[1]。本講演の前半では、同期解析の応用例として、ヒト歩行動作における脚間協調によって左脚右脚の動作のリズムが調整されるメカニズムを解明した事例を紹介する[2]。本研究ではトレッドミル上での歩行実験を行い、左脚右脚の脚軸角度の計測値から二体の結合位相振動子系を推定した。位相結合関数から求められた脚間協調は両脚の逆相同期を厳密に制御していないことを示しており、逆相から大きなずれが生じた場合にのみ左脚右脚間のリズム調整が強く働くことを示している。
講演の後半では、時空間ダイナミクスの観測値から位相を計算する手法の開発について説明する[3]。近年の位相縮約理論の発展により、リミットサイクル解を持つ時空間ダイナミクスは1個の位相として表現されることが知られている[4]。実世界における時空間ダイナミクスに対してこのような位相を計算する手法を確立すれば、気象データなどに対する同期解析の活用が期待できる。本研究では、(1)単一地点における時空間ダイナミクスの観測によって得られた一次元時系列から位相を計算する場合、(2)時空間ダイナミクス全体の観測時系列に主成分分析を適用して得られた一次元時系列から位相を計算する場合について検討する。このとき、一次元時系列がポアンカレ断面を横切った時刻間で位相を線形補間するシンプルな位相計算の方法を用いる。本結果は位相計算に用いる観測値の取り方に計算結果が影響を受けてしまうことを示し、正確な位相計算には時空間ダイナミクスのパターンに応じた観測値の選び方が必要であることを示唆している。
[1] K. Ota and T. Aoyagi, Direct extraction of phase dynamics from fluctuating rhythmic data based on a Bayesian approach, arXiv:1405.4126 (2014).
[2] T. Arai, K. Ota, T. Funato, K. Tsuchiya, T. Aoyagi, and S. Aoi, Interlimb coordination is not strictly controlled during walking, Commun. Biol. 7, 1152 (2024).
[3] T. Arai, Y. Kawamura, and T. Aoyagi, Setting of the Poincaré Section for Accurately Calculating the Phase of Rhythmic Spatiotemporal Dynamics, arXiv:2407.16080 (2024).
[4] H. Nakao, T. Yanagita, and Y. Kawamura, Phase-Reduction Approach to Synchronization of Spatiotemporal Rhythms in Reaction-Diffusion Systems, Phys. Rev. X 4, 021032 (2014).