第10回セミナーを2025/8/25 14:00から筑波大学で開催いたします。興味のある方は、ぜひご参加ください。
講演者:児玉 建 さん(長野大学淡水生物学研究所)
日時:2025年8月25日(月)14:00から15:30まで
場所:筑波大学 第3エリアF棟1020室
タイトル:ツクツクボウシの複雑な主鳴音と音声コミュニケーション
アブストラクト:
セミはオスのみが顕著な鳴き声(主鳴音)を発する昆虫であり、その主鳴音は主にメスを呼び交配のためのペア形成を促すと考えられている。ツクツクボウシ Meimuna opalifera は日本を含む東アジア広域に分布する普遍的なセミであるが、その発音行動は極めて特異的である。第一に、オスはその高潮音が複数のパートで構成される複雑な主鳴音を発する:主な日本産オスの主鳴音は「オーシンツクツク」と聞こえる前半パートと「ツクリヨーシ」と聞こえる後半パートの2つの段階から成る。第二に、オスは近くで別のオスが主鳴音を発している際に「合の手」と呼ばれる音声を発する。
講演者を含む研究チームは近年、ツクツクボウシのオス個体を対象とする主鳴音のプレイバック実験により、ツクツクボウシの主鳴音における前半・後半パートの有無が、オスの合の手発音の頻度に影響を与えることを見出した (Kodama et al. 2023, Entomol. Sci.)。また石丸博士と合原准教授は、ツクツクボウシのオス2個体による鳴き交わし構造を明らかにした (Ishimaru and Aihara 2025, J. Exp. Biol.)。しかし本種の主鳴音の複雑性および合の手の生態学的意義については、依然として研究の余地が多く残されている。
本講演では、講演者のこれまでの研究を中心にツクツクボウシの音声コミュニケーションに関する生態や研究報告について概説する。本種の生態に関する研究の現状を整理し、今後の方針や課題について議論する。