2/28/2026 引き続き,新田勍著『熱帯の気象』を読んでいる。1982年出版なので,ぎりぎり赤道波とMJOが発見されており,かつ高薮(1994)の前夜である。まさに近代熱帯気象学である。第5章では,偏東風波動と呼ばれる謎の波動が議論されている。700 mbで最大ということで,これは今で言う対流結合MRGだろう(と思いながら読んだが,あとで調べたらTakayabu and Nitta (1993)にてMRGとTD型の両方を含む概念であることが明らかになっていた)。赤道波発見秘話や,高薮以前のものの見方が克明に書かれており,答え合わせを知っている現代人としての立場から「歴史書」として読むのも非常に面白い。対流調節や荒川シューバートの簡潔な解説もあり,今もなお色褪せない必須知識もある。我々の世代が,これと同レベルの現代熱帯気象学の教科書を書けていないのが悔しい。プロムナードのようなマニア向け研究者向けの本をいま書いたとして,果たして出版社さんは売ってくれるのだろうか。
2/27/2026 今年の東大理系数学が難しかったというので,しょうがないけど第1問だけ手を動かしてみた。(1)は高校生に対してsin(\theta)の級数展開についての誘導を与えるもので,これはさすがにできる。(2)も見た目は楽そうであるが,sin(cos(x)-x)という合成関数の定積分(0-2\pi)を評価しなければならない。(1)で値域が-1~1なので,加法定理でバラバラにすれば使えるはず。sin(cos(x))cos(x) - cos(cos(x))sin(x)とした。ここで,「なんだこのcos(cos(x))は...」となって思わず引き返してしまった。これが致命傷で,後の祭り。出回っている解答を覗いたら,ここまでは合っていたが,2項目はcos(cos(x))sin(x)の積分なんだからひらけるでしょう,とあった。当たり前だ。悔しい。東大物理学科でお世話になったS石さんは1分で解法を思いついたらしくてさすがに笑ったが,それはあくまでも天才の所業。やはり僕は,時間制限付き試験には縁がないらしい。こんな凡人でも気象学者をやっているし,何なら大学で微分積分学を教えているので,理1の受験生の皆さんは安心してください(理3は知らんけど)。
2/19/2026 明倫館から5万円で購入した,「気象学のプロムナード(第1期)」全巻セット。新田勍著『熱帯の気象』を読んでいる。1章を読んでいたら,僕と同じように鉛直運動の成因で熱帯と中緯度を整理している記述を見かけた(とはいえ,僕の論文のように,それを司る無次元数やシンプルモデルの話までは進んでいなかった)。熱帯中緯度境界をHadley cell edgeと読み換えてしまったせいで,近年の気象学はこの違いに注目できていなかったのではないか。熱帯中緯度境界は,非断熱加熱が鉛直運動を作る熱帯と,回転の維持する傾圧性が鉛直運動を作る中緯度の,境目ギリギリの場所である。だから,ロスビー変形半径の大きな熱帯側のみHadleyのような軸対象構造で回せるというだけの話で,熱帯中緯度境界にHadley cell edgeが現れるというのは,ただの「系」の一つにすぎない。
1/14/2026 遅ればせながら,M先生から依頼されていた某辞典の原稿を書き終えた。やや攻めた記述もあるが,なかなか僕らしい理解で書けたと思う。特に,ウォーカー循環の説明をするために,対流結合赤道波とMJOを持ち出してきたあたりは,たぶん類書を見ないだろう。この説明を書くために,もう一度Suematsu and Miura (2022)を読み返したが,やはりとんでもなく面白い。こんなに理路整然と固定観念がひっくり返される論文には,なかなか出会えない。ウォーカー循環というのは,対流結合赤道波を用いた東西温度勾配の調節過程であって,それが積雲によって可視化されたのがMJOなのである。Takasuka et al. (2021)と合わせて,これから熱帯気象学を学ぶ気象学徒のスタンダードになるだろう。
1/13/2026 赤道ケルビン波を,ただの微分方程式の解としてではなく,なるべく本質的な描像で説明してみたい。ロスビー変形半径無限大の赤道上では,東西方向に自由に重力波が飛ぶことができる。そのため,赤道は大気波動の導波管として働く。ただし,ちょっとでも赤道から外れると,コリオリ力の指向性を感じ始めるので,その重力波は東にしか進行方向を選択できない。しかも,leading orderとしては赤道からの距離の2乗で波動方程式に修正が入るので,調和振動子のSchrodinger方程式となり,南北方向にはparabolic cylinder型の振幅となる。一つ一つ理解すればとても当たり前だが,これに最初に気づいた松野先生ってやっぱりおかしい。