本稿は自分自身の思考の整理と保存のために書いており,専門用語の解説等は行っていません。もしこれを読んでくださる殊勝な学生さんがいたら,専門用語を調べるきっかけにでも使ってください。なお,論文と違って科学的裏付けの未完成な「ナマモノ」としての思考過程も書くので,全部を信用しないでください。逆に,もし本稿で論じた雑多なアイデアに興味を持ってくださった方は,ぜひ共同研究しましょう。
3/26/2026 NICAMやNICOCOなど,いわゆる「全球雲解像モデル」と呼ばれる大気大循環モデルのご利益を考えるときに,僕は力学屋さんなのでつい「積雲パラメタリゼーションの不在による,湿潤過程の精緻な把握」をメリットに挙げたくなる。一方で,雲を解像することがもたらす放射効果の改善(あるいはそれと力学の結合)も,非断熱加熱を正確に把握するためには重要だろう。現在の多くのGCMでは,いわゆる「無限平板近似(plane-parallel approximation)」といって,当該グリッドの全てを覆うようなベタッと平たい雲を仮定する。しかし,このままでは物理的な観点では現実的ではない。ではどうするかというと,雲の大きさが有限であることによって,たとえば雲の側面から放射が逃げる効果などを加味するために,「有限雲の効果」についての補正を行う。とはいえ,これはあくまでも補正であるので,実際に本当に「有限雲の効果(3次元放射効果)」を入れたい場合には,雲を一つ一つきちんと解くしかない。全球雲解像では,僕の理解が正しければ,グリッドを細かくすることによって,無限平板近似を行っていてもその「無限平板」が十分狭く,実際の雲のサイズや分布に近づくため,近似はましになるはずだと思う(ただし,誤差を積み重ねたら余計悪化するということもあり得るとは思う。専門家の方,もし間違っていたら教えてください)。もちろん,側面から放射が逃げたりする完全3次元放射効果を入れるのは,計算コストがかかりすぎるので,少なくとも現時点では無理である。それでも,従来のように100 kmや50 kmの広さのグリッドを覆う雲が張り巡らされていることを仮定して,(補正がなされているとはいえ)その放射効果を間接的に計算するよりは幾分かましなのではないだろうか。
3/25/2026 古典的潮汐理論におけるHough関数を真面目に勉強しないといけなくなった。気象データ解析をやっていると,時々思いがけない場面でこういう数式にぶつかるのが楽しい。
3/21/2026 「放射冷却といえば水蒸気」というのは対流圏を研究する気象学者の間では常識のようになっているが,実はそれは対流圏に限ったことである。それはそうだ。水蒸気のほとんどは2 kmよりも下にあり,さらに残りの水蒸気も積雲対流でなんとか対流圏界面付近までは運ばれるものの,それより上にはほとんど行けない。一方で,成層圏は放射平衡が成り立っており(対流がないので),オゾンによる短波の吸収が卓越することで安定成層が実現されていることが知られている。上記の二つの事情を加味すると,「では成層圏の放射冷却を担っているのは何か?」という疑問が湧く。さっさと告白しておくと,僕は今日までこんな基礎的な事項についてすら検討したことがなかった。では,Manabe and Strickler (1964)を見返すと,実は答えは二酸化炭素である。すなわち,対流圏では水蒸気,成層圏では二酸化炭素がradiative coolingを担っているのである。Manabe and Strickler (1964)には,H20,H2O+CO2,H2O+CO2+O3の3種類の組成で計算された放射対流平衡の結果のみが示されている。これがもしH2O+O3だった場合は,対流圏は概ねH2Oの気温分布と変わらないが,成層圏はものすごく熱くなるということだろう。ひょっとすると,H2O+O3は気温分布のグラフから大きく右にはみ出してしまうから,真鍋先生はH2O+O3の結果を敢えては載せなかったのだろうか。
3/20/2026 「放射平衡を考えたときに,気温減率6.5 K/kmよりも傾きがきつい場合,対流によってその気温分布が壊されて6.5 K/kmに収まろうとする」という放射対流平衡の考え方は,僕はてっきり真鍋先生のオリジナルだと思っていたが,実はすでにGold (1909)やEmden(1913)といった前世紀初頭の研究にも登場しているらしい。すなわち真鍋先生の新規性は,それを現実大気の大気組成を考慮して数値計算することで,現実の気温減率が実現されることを鉛直1次元モデルの実装によって示したことにあるようである。僕はManabe and Strickler (1964)だけを読んで,どこから放射対流平衡のような突飛な発想が降ってきたのだろう,やはりノーベル賞を取るような人は天才なのか,などと思っていた。しかし,実はさらに歴史をたどると,放射対流平衡をいつか現実大気で実装してみたいというのは当時の気象学者の持つべき必然的な目標であったということがわかる。なるほど,「巨人の肩に乗る」とはよく言ったものだ。どんなにすごい研究でも,そのアイデアは天才の突飛な発想から降ってくるのではなく,現在までに分かっていることを正確に(そして大量に)インプットして,そこから一つ一つ論理を積み重ねることで達成される必然なのである。
3/19/2026 梨花女子大学校(이화여자대학교)の気象学研究室(Hyemi Kim研究室)が遊びにきてくれた!東京でGeoMIPのミーティングが開かれて,そのついでに本学に寄ってくれた形である。一昨日のRobbに続いて,このように外国の研究者が僕のところに遊びにきてくれる機会が多くて嬉しい。向こうの学生さんたち(計3人)の希望は,個別に僕と話したいということだったので,1対1の個別ディスカッションを合計で3時間もやった。これが,非常に充実していた。学生さんたちの研究も面白くて,それを見ていたら僕もalbedo symmetryについての面白い着想を得てしまったので,早速Hyemi Kimとの共同研究を申し込んだ。梨花女子大はお茶大の協定校でもあるので,今後の日韓交流も楽しみである(次回はおそらく10月のACMの時になるだろう)。ちなみに,理科1類の時に韓国語クラスに入ったのが役に立ったことも嬉しい。少しでも相手の言語を話せると,それだけでお互いの緊張はほぐれたりするものである。
3/18/2026 Amazon最新リリースランキングで,拙近著『手を動かして学ぶ気象学 数式演習110 I, II』(朝倉書店)が地球科学分野で1位と2位になっていた(すでに予約してくださった方,本当にありがとうございます)。今までなかったタイプの教科書なので,きっと役に立つとは思うが,読者の期待に応えられていれば嬉しい。
3/17/2026 ETH ZürichのRobb Willsが,京都で行われたCMIPミーティングのついでに本学に寄ってくれた。Robbは僕がHartmann研にPhD学生としていたときのポスドクで,その後COVIDもあったので,会えたのは僕のdefense以来である。初めての東京訪問とのことで,楽しんでくれているようである。T/M理論の話や,最近albedo symmetryにも興味があるという話をした。朋あり遠方より来る,また楽しからずや。
3/16/2026 母校である栃木県立宇都宮高等学校に呼んでいただいて,2年生向けの講演をしてきた。質疑では,地球温暖化懐疑論に対してはどう思うのか,ENSOの予測はどの程度できるのか,熱帯拡大が起こるとケッペンの気候区分にはどのように影響するのかなど,まるで専門家のような質問がいっぱい飛んできた。さすが好奇心旺盛な宇高生である。こちらも高校生がどのようなことに興味を持つのかが分かるので,常々勉強になる。当時の先生方や,宇高で勤務中の同級生たちにも会うことができた。いつも呼んでくださってありがたい限りである。
3/15/2026 宇高生に語る準備をしていた。前半では自己紹介+生い立ちの話をした後,後半では熱帯拡大について真面目に話す予定。熱力学第一法則については,今では文系でも物理基礎で履修済ということで驚く。
3/14/2026 対流圏におけるradiative coolingを担うのは,ほぼH2Oである。ここまでは,気候科学の常識の範囲としてよいと思うのだが,さらなる詳細については,放射の専門家以外はそれほど意識することはない。無論,僕も大規模現象を中心にやって来てしまったから,どのバンド帯が担っているとかいうことは正直に言うと全然知らなかった。いま読み進めている会田勝著『大気と放射過程』によれば,対流圏のほとんどの高度においてはH2Oのrotational bandが卓越するが,熱帯大気の下層2 km以下は,水のダイマー(H2O)2の吸収帯による冷却が支配的だそうである。水蒸気のスケールハイト(e-folding高さ)は2 km程度であるので,熱帯下層の水蒸気がいっぱいあるところでは,H2O分子が水素結合によって二量体を形成し,それが放射冷却をもたらすのである。高校の頃は,水素結合なんて言葉が気象学に出てくるとは思いもしなかった。勉強というのは,実際にしてみないと何の役に立つか分からないものである。気象学では,実に様々な分野の知識が役に立つので,そう思わされる機会が多くて楽しい。
3/13/2026 昨日は,来年度からいただくことになった助成金の贈呈式に行ってきた。知り合いがいなそうだったので,ぼっちを極めるつもりだったのだが,Hさんという僕よりも少し若い助教の方が「一度お話ししたかったんです」と言って声をかけてくれた。僕の学会発表を見てくれていたり,拙著を学生さんに共有して使ってくれていたりしたらしく,ありがたい限りである。気象データ解析の基礎の部分を,「これ(拙著)を読んでおいてください」で済むので,それより上のレベルの指導に集中できるとのことだった。まさに,我が意を得たりという使い方をしてくださっている。むしろ,今までコンポジットやら回帰図やらの描き方を,日本全国で口頭伝承によって伝えていたのは,やっぱり意味がわからないくらい非効率だったと思う。Hさんは,「Scienceに論文出せるくらいの人なのに,『教科書を書くより研究を』ということにはならないのですか」ということも聞いてくれた。こういうことを言語化するきっかけを与えてもらえるのは助かる。僕が学者としてやりたいことは, 1. 良い研究をする 2. 博士を出す 3. 良い本を書く,の3つである。それゆえ,「本を書く」という営みは,自分が学者という人生を選んだ意味の一つであって,すなわちもはや「公理」なので,本当のことを言うとそれ以上の説明はない。ただ,それっぽい理由を一つ見つけてくるなら,やはり「自分よりも若い世代を育てないと学問としてジリ貧だから」というのは常々考えている。
3/12/2026 日本気象学会の理事選挙に通り,僭越ながら理事を拝命することになったようである。以下,所信表明を再掲。「私は、若手研究者として当事者意識を持ち気象学の発展に貢献するため、理事に立候補する。三十代中盤の私が、学会運営に若手世代の視点をもたらすことが主目的である。私は、気象学会の存在を気象学の発展に必要なインフラとして重要視している。そのため、学会を『そこにあって当たり前』と思うのではなく、二十年先を見据えて気象学会を育て、運営の全体像を把握して継承する三十代理事の必要性を感じている。そこで、気象学会の枠組みのおかげで安定な職を授かった私が、代表して恩に報いたいと考えた。もし理事になったら、国際学術交流委員会の運営に立候補したい。私は、米国において学位を取得後、CLIVAR太平洋パネルやJ-NACSの運営などを通じて、我が国の国際的な立場を鑑みて人脈形成に努めてきた。私が気象学会に何かを残すことができるとすれば、その人脈を次世代の気象学者に継承することなのではないかと考えた。(原文ママ)」実際,理事の中では僕だけ職階が講師だったりするので,本当に国際学術交流委員会に採用されるかはわからない。松野賞とかからかもしれない。何にせよ,票を入れてくださった767名の方はもちろん,すべての気象学会会員にとって有益な仕事をできるよう頑張りたい。
3/11/2026 iAMの論文の改訂をようやく再開したが,Nat. Commun.にもう一回出し直すか,GRLにさっさと出してしまうか,非常に迷いどころである。せっかくNat. Commun.ではreviewに回ったので,もう一度粘るべきだとは思うのだが,いかんせんrevise作業が面白くなくて,なかなか進まない。それであれば,GRLにさっさと出して,次の研究に移った方が国益にかなう気もする。ただ,別にGRLに出したとて,reviseが軽くなるとも限らない。そもそも普通にrejectかもしれない。若手によくある悩みとして,「論文の本数を重視すべきか」みたいな話があるが,僕の個人的な考えとしては,「10本程度までは数も見られるが,それ以降は質の方が大事」である。院生やearly postdocのうちは,小さなことを論文にしていても誰も文句は言わないし,むしろ英語で論文を書いて雑誌に出す練習をどんどんすべきだと思う。でも,僕はもう中堅になりかけているし,数を稼ぐよりはホームランを一本打つ方が大事だろう。ホームランを出すには,たくさん読んでもらわなければいけないので,現状では視聴率の稼げるNat. Commun.に軍配が上がるのかなと思ったりもする。なお,以上のようなことは,科学とは全く関係のないことである。ただし,職業研究者としては,多少の広告戦略は考えねばならない。謎の黒い砂糖水であるところのコカコーラが世界中で飲まれるようになったのは,コカコーラが日常的に広告を打ち続けて世に知られるようになったからであろう。師匠のDennis Hartmannによれば,"It matters to us how we feel, but it matters more how our readers feel."であるから,研究というのは「どう読まれるか」というところまで考えなければ終わらないのである。
3/10/2026 アルベドの南北対称性の件,ライフゲームみたいな超簡単マルコフモデルで説明できないだろうかと考えていたのだが,どうにも難しい。困難は2点ある。一つは,Datseris and Stevens (2021)により報告された観測事実によると,どうやらハドレーの調節(ITCZの南北移動)ではなく,むしろSouthern Oceanの雲量で南北半球のアルベドは釣り合っているということである。たとえきっかけはハドレーだったとしても,最終的にSouthern Oceanの雲の量をどうやって決めているのか,さらにそれをどうやってシンプルモデルに組み込めばいいのか,全くわからない。もう一つは,セルオートマトンで隣のセルだけを参照することを仮定すると,大循環の変化による長距離相互作用が組み込めないということである。陸がなければ,どんな状態から始めても,近距離相互作用だけでアルベドは南北対称(というかランダム性のせいでほぼ空間一様)になるのだが,このただのランダムウォークみたいなモデルはおそらく現実を再現していないし,何よりアルベド固定の陸があると南北対称解に到達しなくなってしまう。では,大規模場の影響として何か強烈な仮定をすればよいのかもしれないが,モデルを複雑化するほど現象の説明力は減ってしまう。雲の組織化を適当に入れすぎると,ガチ勢に怒られそうなのも気になる。ただ,Jönsson et al. (2025)によれば"no physical explanation for why hemispheric differences in albedo might be minimized has been found."らしく,未解決問題であることははっきりしている。文句なく面白く,また気候系における雲の役割あるいは温暖化応答を解明する上で重要な問題と思われるので,今後も少しずつ考えていきたい。
3/9/2026 今世紀に入ってから,太陽定数が1,361 W/m^2に改められた。その前に長く使われていた値は1,366 W/m^2であり,いまでも教科書にはそちらの値が使われている場合がある。では,この世で最初に太陽定数を精密に測ったのは誰であったか。その答えが,いま読み進めているプロムナードシリーズの会田勝著『大気と放射過程』に書いてあった。本書によると,本格的な観測が最初になされたのは,1873年から1880年にかけて,カリフォルニアのホイットニー山で行われたLangleyによる観測だそうで,推定値は2,000 W/m^2であった。100年以上前の観測であるにもかかわらず,すでにオーダーは合っていて,ファクターもそれほど悪くない。Langleyは米国のスミソニアン研究所の所属で,その後この観測はAbbotに引き継がれた。スミソニアン研究所の太陽定数推定は,すごく簡単にいうと,色々な天頂角で(すなわち色々なoptical depthで)放射フラックスを観測し,その後Lambert-Beerの法則でoptical depth=0の値を外挿して求めるというものだった。細かいことを言えば,(たとえば地球の公転軌道は楕円形だったりするので)補正は必要ではあるが,この方法で求められた太陽定数はなんと1,353 W/m^2だという。はっきり言って驚異的な正確さである。その後,高層観測の時代を経て,いまでは人工衛星が定義通りの太陽定数を観測できるようになった。僕は不真面目な気象学者なので,本格的な気象観測を一度もしたことがないが,古くから連綿と続く観測屋の努力には頭が下がるばかりである。
3/8/2026 昨日の続きをもう少し考えてみた。そういえば,僕が通っていた米国ワシントン大学の大学院にはDargan Friersonという先生がいて,彼のモデル実験結果はなかなか興味深かった。曰く,南極を黒く塗った実験をすると,ITCZが南側にシフトするのだという。これはどういうことかというと,南極のアルベドが減った分,南半球から入るエネルギーが多くなり,ハドレーを使って南半球から北半球に熱を輸送するようになるのである。この結果は,昨日の話とかなり似ている。まず,宇宙に出ていくエネルギーは,南北半球ともに大気上端からの255 Kの赤外放射ということになる。重力波の調節によって,地球の気温に強い南北非対称性を作れない以上,ここは動かせない。一方,宇宙から入ってくるエネルギーは,アルベドをいじることによって南北非対称にすることが可能である。仮に,北半球だけ相対的にものすごく白くなったとすると,入射エネルギーは南半球の方がはるかに大きくなる。いま,射出エネルギーが変えられない以上,エネルギー収支が閉じるためには,南半球から北半球への,大気または海洋による熱輸送を増やすしかない。海洋は熱や力学の慣性によって簡単には動かせないから,これを大気に担わせることにしよう。ただし,赤道波は東西方向にしか調節を担えないので,南北調節にはハドレーを使う(=ITCZを南下させる)しかない。具体的には,南半球で下層の暖かく湿潤な空気を持ち上げて,上空で北半球へ輸送してから,radiative coolingで下げればよい。その結果,南半球は湿潤域,北半球は乾燥域が相対的に広くなる。湿潤域の方が白いから,アルベドの南北非対称性が緩和される。そして,以上の過程は,アルベドの南北非対称性が解消されるまで繰り返されるだろう。このような,雲とアルベドがなす負のフィードバックを考えれば,地球のアルベドの南北対称性を説明できるのではないだろうか。もしこれが正しいとすると,ITCZが北半球にしかないのは,Southern Oceanが広くて白いせいであると言える(そしてGCMのDouble ITCZバイアスは,Southern Oceanの雲や北極の海氷が悪いことに帰着されることになる)。Darganの論文は,たしかITCZの位置の決まり方に興味の焦点があったような記憶があるが,さらに進めて「現実地球におけるアルベドの南北対称性」の実現理由にまで踏み込んでいたかどうか,近いうちにもう一度読み直してみよう。
3/7/2026 地球の平均アルベドは約0.3である。この値は主に,広範囲にわたる白い雲の存在によって実現されている。ここで,素朴な疑問が湧く。世界の天気は刻一刻と変わり続けているのに,なぜアルベドは0.2になったり0.5になったりせず,ほぼ0.3で保たれるのだろうか。これについては,次のような尤もらしい説明をつけることができる。大規模下降流が生じると必ずその補償流としてどこかでは湿潤対流が生じなければならない。だから,どの瞬間を切り取っても,地球全体が乾燥域で埋め尽くされたり,逆に湿潤域で埋め尽くされたりするのは無理な話であろう。それゆえ,それに伴ってアルベドについても,0.3というのがたまたま最適な乾燥域と湿潤域の比率で,その値から離れてあまり減りすぎたり増えすぎたりはできないのだろう。まぁ,ここまではよい。しかし,よく調べていくと,もう少し雲行きが怪しくなってくる。実はアルベドは,全球で0.3という値が保たれているだけでなく,北半球と南半球のどちらかだけ見ても,共に0.3であるという。clear sky albedo,つまりもし雲がないと仮定した際のアルベドは,陸の多い北半球の方がはるかに高い。それにもかかわらず,南半球はその分,Southern Oceanの雲の多さが陸の少なさを補う。それゆえ,アルベドの南北対称性が保たれる。何だか話がうますぎるような気もする。ただ,ここまではギリギリ「0.3は偶然だろう」と納得できなくもない。しかし,最近出会ったJönsson & Bender (2023)という論文を見て,僕はすっかり驚いてしまった。なんとCMIP6の4xCO2実験においても,アルベドの南北対称性を保とうとするモデル群が存在するというのである。つまり,4xCO2への初期応答として,北極の海氷が減り,北半球のアルベドは減る。そうすると,幾許かのモデルでは,南半球もあたかもそれに「お付き合い」するかのように,雲の被覆量を減らすのだという。ここまで話がうますぎると,地球全体のマクロなアルベドというのは,単にローカルな事情の合算として決まっているのではなく,何か我々が見逃している大いなる制約があって,特に調節過程である積雲対流の集団としての性質が規定されることにより決まっているのではないかと疑わざるを得ない。
3/6/2026 朝倉書店さんと始めた「気象学の最易経路を整備する」事業も,少しずつ目に見える結果が出てきた。1, 2冊目の『Pythonによる気象・気候データ解析I, II』は,おかげさまで絶好調である。今年の三重大学では,拙著で自主ゼミを行ってくれてすでに気候値・偏差・トレンド・回帰図などがわかる3年生がたくさん誕生している。弘前大学では拙著を授業で使ってくださり,テレコネクションを研究したい学生が増えたと聞いた。北海道大学では,地球環境図書室に拙著が何冊もずらりと並んでいた(皆が使うので買い込んでくださったとのこと)。富山大学では,拙著の章末問題が授業の課題になっているという。日本中の気象を学ぶ若者たちがこんなに使ってくれる教科書を書くことができて,学者としてこれ以上幸福なことはない。一方,5日前ほどに,次のシリーズである『手を動かして学ぶ気象学 数式演習110 I, II』の情報が,朝倉書店さんのウェブサイトとAmazonで情報公開されていた(書影はまだである)。こちらも,本日付でAmazonの最新リリースランキングで4位と5位に入っていた。誰だかわからないけれど,すでに予約してくださった方には感謝申し上げたい。小倉先生・稲津先生・荒木さんなどの入門書や啓蒙書を乗り越えて,気象の数式をいじりたいと思ったときに,いきなりHoltonクラスの教科書に進まなければならないという現状は,やはり学生たちには大変厳しいらしい(それはそうだ)。そして,問題はそれだけではない。科学は常に発展しているので,前世代と同じ内容を全て学ばせていては,最新の知見に辿り着く前にタイムオーバーになってしまう(たとえば,一昔前の力学教育で,20世紀中盤のEady問題やCharney問題が重要視されていた理由は非常によくわかるが,これからの時代それを「全員が」学ぶべきとは僕は思わない。それよりは,20世紀末の高薮の対流結合や,21世紀初頭のWTGの考え方などの優先順位を上げるべきと思う)。次世代のために,「何を学ぶべきかを絞ってあげる」という棚卸し作業は定期的に必要である。その解として,拙著が完璧だとは毛頭思わないが,次への踏み台くらいにはなるだろう。同世代や次世代がもっと素晴らしい教科書を書いてくれるまで,拙著がそのタスキを担えれば良いなと思う。
3/5/2026 明倫館書店さんから買ったプロムナード前期全巻セットを読み進めている。1冊目の新田勍著『熱帯の気象』に続いて,2冊目は会田勝著『大気と放射過程』に手を伸ばした。本書の5ページに早速,「大気の放射過程の問題とは,煎じ詰めれば(1.1)式を解くことと,それに含まれるパラメタを決定することに外ならない」(原文ママ)などという面白いことが書いてあった。ここでいう「(1.1)式」というのは,地球の放射平衡温度がT(S, A, \epsilon):=(S(1-A)/4\epsilon \sigma)^(1/4)で決まるという式である(このこと自体はどの気象学の教科書にも書いてある)。すなわち,時空間的に変動するS, A, \epsilonを決定することが,大気放射学の主題であるということである。僕には全くこの発想はなかったが,言われてみればその通りである。実際,上記のモデルを現実の大気系に書き換えようとすると,Sは大気への放射の入力ということになるため,もはや定数ではなくなり,時空間分布を考慮しなければならない。そして,雲や海氷の分布が変わればAが変わる(ちなみにAは「Sの入力をどの程度受け付けるか」を表す指標であると言えよう)。そして,その入力の結果として大気が運動すれば,気温や水蒸気等のプロファイルや地表面温度が変化することで\epsilonが変わる。そして,これらのパラメタ変化への応答として,宇宙へ逃すエネルギーとしてのTが出力される。だから,放射を「主人公」として捉え,強制応答問題としてS, A, \epsilonの行方を追えば,気候系の織りなす「物語」を完全に理解したと言ってよいだろう。そのような視点で考えると,たとえば気象力学の基礎方程式を完全に解けたとしても,それは\epsilonの決定機序の一部を明らかにしたに過ぎず,気候系の理解としては全くの道半ばであるということは詳らかである。実際,今世紀初頭には,気象力学を閉じた力学機構として扱うことの限界,特に放射と力学の相互作用の役割の甚大さがわかってきたと思う。S, A, \epsilonのうち,我々はどの部分を明らかにできていないかを考えてみるというのは,気候系を大きな枠組みで俯瞰するにあたり,大変役立ちそうな指針である。
3/4/2026 数ヶ月くらい前に,S線各駅停車に乗って自宅に帰っていると,なんと気象庁予報官のM田さんと目が合った!「えー,お元気ですか!」と挨拶を交わしたのも束の間,二人はそのまま周りの目も気にせず,QG談義に入ってしまった(今思うと,絵に描いたような「オタク特有の早口」というやつで,相当に変な人たちに見えたと思う)。僕はM田さんに「最近QGがどこまで熱帯側に行けるかってことに興味があるんですけど,現業の方から見てどうなんですか」と聞いた。M田さんの答えは「QGはねー,実はかなり熱帯側までいけるよ」とのことだった。やっぱり!僕もそうではないかと思っていた。だって,Ro=0.1を基準にすると,L = 2000 kmに取れば7Nまでいけるんだもの。M田さんの答えを聞いて以来,僕はWTGは(加熱付きの)QGの一部だと思うことにした。そして,世間がいう(加熱のない)「QG」は,QGPV保存系,と呼ぶことにした。つまり,QGのうち,O(Ro)の発散収束を非断熱加熱で作るのがWTGで,気柱のストレッチングで作るのがQGPV保存系である。M田さんに「ありがとうございます!自説が強固になりました!」と叫んだところで電車のドアが閉まった。最寄り駅からの帰り道,初冬の寒空を見上げると,いつもよりQGPVが保存している気がした。
3/3/2026 近日発売予定の拙著15章に書いた通り,僕はWTG領域というのを,Ro<<DaかつRo<<1の場所であると理解している(Da:=JL/gHUはダムケラー数)。Ro>~1となるのは赤道域(L ~2000 kmとして,概ね7S-7N),Ro>~Daとなるのは中緯度である。WTG系では,重力波はフィルタアウトされていなければならないわけだから,よく言われるように赤道域を含んで熱帯全体をWTGとしてはおかしいと思う(たとえば赤道ケルビン波は重力波だが,赤道域の大規模運動を考える上でケルビン波をフィルタアウトしてよいとは言い難い)。そのような視点で降水のclimatologyを眺めていると,面白いことに気づく。どうにも,WTG領域の南北の両縁の部分(Ro~1およびRo~Da)にバンド状の降水構造が見える。人は,赤道側のものをITCZ,中緯度側のものを停滞前線(梅雨前線/秋雨前線)などと呼んだりする。これはつまり,WTG系の内部領域は,気候値的には足並み揃えて大規模下降流としなければならないせいで,大規模に組織化した雲が定常的には定在できず,それゆえ赤道域あるいは中緯度域との境目にスケールを下げるためのきっかけを見出して,そこで一気に持ち上げてしまおうと言っているように見える。さしづめ,天空の西岸境界流だ。そう考えると,(とても突飛なことを言っているのは自覚しているが,)ITCZと梅雨前線というのは,詳細は違えど,存在理由はそう違わないものなのではないだろうか。
3/2/2026 荒川シューバート(AS)のようなバケモノを自分で書けるとは全く思っていないが,それでも一人の凡庸な現代人から見たASの違和感は,やはり放射が完全に蚊帳の外だということである。ASが明示する雲の大規模場への役割は,「(下降流域の断熱圧縮による)大規模場の気温上昇と乾燥化」と「雲頂の(雲粒の蒸発に伴う)冷却」の2点である。雲スペクトルの仕事を考える上で,放射の変更は真っ先に思い浮かびそうなものであるが,これは現代人がEmanuelやHartmannなど21世紀初頭における放射と力学の相互作用を骨の髄まで内面化しているからだろうと思う。どんな大気でも,基本的にはradiative coolingで1.5 K/dayで落ちたい。そのためには,continuityによってどこかは上がらなければならない。そこでmassやエネルギー的な制約を保つために「仕方なく」選択されるのが積雲対流という解である(そういえばM先生は,これを「濡れたスポンジをギュッとした時にジュワッと出るのが積雲」などと言っていた)。僕の理解では,このようなものの見方が常識になったのは今世紀に入ってからである。しかるに,ASが初期の積雲パラの中で一線を隔しているのは,やはりこのEmanuel/Hartmann的な「対流の主要部は下降流域」というのを(radiative coolingの積極的な役割を示唆してはいないものの)明示しているところだと思う。たとえばCISKなどの設計思想から(少なくとも僕は)それを看破することはできない。それはそうだ。雲を見たら誰だって,燃料を燃やしているメインエンジンは降水の激しい上昇流域に見えるに決まっている。しかし現実はそうではない。少なくとも大規模場への役割ということでいえば,(ASの仮定に見られるように)上昇流域の面積なんて米粒のようなものである。ちなみにこれを書きながら思ったが,high cloudによるoutgoing LWの抑制と,low cloudによるincoming SWの減少がもたらす大規模場への役割を思い出すと,それは結局「大規模場の気温上昇」と「雲頂の冷却」である(後者で実質的に冷却されるのは境界層だが)。これは,成因こそ想定したプロセスとは異なるものの,先ほど明示したASの大規模場への役割そのものである。ひょっとして,LWとSWの役割の主要部は,棚ぼた的にASに入りこんでしまっているのだろうか。計らずもこれが,ASがあまりにもうまく行きすぎる理由だったりするのかしら(なんて思ってみたけれど,こんなことは積雲パラ屋さんの中ではとっくに解決済だったりしそうである)。
3/1/2026 物理学のバックグラウンドがある僕と安田さんをI先生が引き合わせてくれたことによって誕生したYasuda and Kohyama (2025) (YK25)はとても面白いので,ぜひ色んな人に読まれると良いなと思う。YK25は,情報熱力学でBCSの数理モデルを考えた論文で,黒潮とメキシコ湾流には情報のやり取りにおいて非対称な役割がある(いわゆる「マクスウェルの悪魔系」である)可能性を指摘している。たとえば,メキシコ湾流のSSTが暖かくなると,黒潮はその情報を「観測」して,自分のSSTを暖める。それによって,黒潮はメキシコ湾流が冷めにくくなるようなフィードバックを返す。確率分布が暖まりやすい方に歪んだメキシコ湾流は,stochasticなノイズを受けてさらに暖かい状態に遷移しやすくなる。そうすると,黒潮もそれを「観測」してさらに暖まる。逆にメキシコ湾流のSSTが冷たくなった場合は,黒潮でもそれを「観測」して,逆のフィードバックを返す。このようなことが起こると,メキシコ湾流の動きを観測できる黒潮からメキシコ湾流はフィードバックを受けて,緩和とは逆方向に選択的にゆらぐ。つまり,メキシコ湾流と情報のみをやり取りする「悪魔」であるところの黒潮の存在によって,メキシコ湾流という部分系としては「環境からエネルギーを取り出してエントロピーが減少する」という面白いことが起こる。このようなタイプの同期メカニズムは,これまでに気候系では発見されたことがないが,おそらくきっと色んな場所で同じようなことが起こっている。査読者にはBCSに限定せずより一般的な概念と位置付けた方が良いと指摘されて,このメカニズム自体にstochastic synchronization(確率的同期)という名前をつけることになった。査読者によると,I found the idea behind the paper to be highly original, bringing a fresh view on data analysis in climate science. だそうで,Editorからもなんといきなりminor revisionで返ってきた。こんな高評価はJ. Climateではあまり見たことがない。当然,YK25の成果はすべて主著の安田さんの力によるものなのだが,僕自身も安田さんの才能をきちんと発揮できる題材をうまく見つけて来られたことを嬉しく思っている。
2/28/2026 引き続き,新田勍著『熱帯の気象』を読んでいる。1982年出版なので,ぎりぎり赤道波とMJOが発見されており,かつ高薮(1994)の前夜である。まさに近代熱帯気象学である。第5章では,偏東風波動と呼ばれる謎の波動が議論されている。700 mbで振幅最大ということで,これは今で言う対流結合MRGだろう(と思いながら読んだが,あとで調べたらTakayabu and Nitta (1993)にてMRGとTD型の両方を含む概念であることが明らかになっていた)。赤道波発見秘話や,高薮以前のものの見方が克明に書かれており,答え合わせを知っている現代人としての立場から「歴史書」として読むのも非常に面白い。対流調節や荒川シューバートの簡潔な解説もあり,今もなお色褪せない必須知識もある。我々の世代が,これと同レベルの現代熱帯気象学の教科書を書けていないのが悔しい。プロムナードのようなマニア向け研究者向けの本をいま書いたとして,果たして出版社さんは売ってくれるのだろうか。
2/27/2026 今年の東大理系数学が難しかったというので,しょうがないけど第1問だけ手を動かしてみた。(1)は高校生に対してsin(\theta)の級数展開についての誘導を与えるもので,これはさすがにできる。(2)も見た目は楽そうであるが,sin(cos(x)-x)という合成関数の定積分(0-2\pi)を評価しなければならない。(1)で値域が-1~1なので,加法定理でバラバラにすれば使えるはず。sin(cos(x))cos(x) - cos(cos(x))sin(x)とした。ここで,「なんだこのcos(cos(x))は...」となって思わず引き返してしまった。これが致命傷で,後の祭り。出回っている解答を覗いたら,ここまでは合っていたが,2項目はcos(cos(x))sin(x)の積分なんだからひらけるでしょう,とあった。当たり前だ。悔しい。東大物理学科でお世話になったS石さんは1分で解法を思いついたらしくてさすがに笑ったが,それはあくまでも天才の所業である。こんな凡人でも気象学者をやっているし,何なら大学で微分積分学を教えているので,理1の受験生の皆さんは安心してほしい(理3は知らんけど)。
2/19/2026 「気象学のプロムナード(第1期)」全巻セットを,神田神保町の明倫館書店さんから5万円で購入した。早速,新田勍著『熱帯の気象』を読んでいる。1章を読んでいたら,僕と同じように鉛直運動の成因で熱帯と中緯度を整理している記述を見かけた(とはいえ,僕の論文のように,それを司る無次元数やシンプルモデルの話までは進んでいなかった)。熱帯中緯度境界をHadley cell edgeと読み換えてしまったせいで,近年の気象学はこの違いに注目できていなかったのではないか。熱帯中緯度境界は,非断熱加熱が鉛直運動を作る熱帯と,回転の維持する傾圧性が鉛直運動を作る中緯度の,境目ギリギリの場所である。だから,ロスビー変形半径の大きな熱帯側のみHadleyのような軸対象構造で回せるというだけの話で,熱帯中緯度境界にHadley cell edgeが現れるというのは,ただの「系」の一つにすぎない。
2/16/2026 ENSOコミュニティの人間の端くれとして,「ENSOにはまだ面白いことが残っているのか?」ということを時々考えるようになった。そもそも僕はENSO研究の将来については十分に悲観的であったが,さらに追い討ちをかけるようになぜこんなことを考えなくてはいけなくなったかというと,Zhao et al. (2024)によってXROがうまくいくことがわかってしまったからである。そもそもENSOの本質はJin (1997)のROで一番大事なエッセンスは終わっていて,あとは「じゃあなぜ予報が当たらんのだろうね」という感じだったと言ってもいいだろう。ところが,Zhaoくんの論文は,他の海盆の情報をすごくテキトーにぶち込むと,少なくともAIのベストスキルくらいは出せてしまう系だということを示してしまった。すなわち,「なーんだ,ENSOは内部力学を頑張ることで解明できる系ではなくて,あちこちの情報が実に気まぐれに飛んで来てはブランコを揺らしてるだけの系だったのか」ということが分かってしまったのである。これは大発見であると同時に,ENSO内部力学の解明を頑張る勢には絶望をもたらした。もちろん,細かく見ていくと,ではインド洋や大西洋との相互作用にはどういう物理プロセスが大事で…とかいう話はあるのだとは思うが,なんとそれらの相互作用は各年のENSOイベントごとに相当に異なっているということまでXROは示してしまった。そうなると,それってもうENSOのエッセンスからは外れた博物学としか言えないだろう。「このセミはずっとジーと鳴くが,あのセミは最後の方でツクツクフィーヨーと鳴く」のようなことを,種類を見つけ尽くすまでやることになる。もちろん,博物学が悪いと言っているわけではないし,ENSOイベントによっては科学的に非自明で面白いこともあるのだろう。ただ,それはアブラゼミとかカブトムシの研究のようにENSOが好きで好きで仕方ない人が半ば趣味のようにやれば良い話であって,世界中の頭の良い研究者が寄ってたかってワーっと解くような問題ではなくなったとは言わざるを得ない。また,現業についてはまだやるべきことは残っている。たぶんENSO予報は,モデルを改善すればまだいける。何せ,GCMのENSO再現性はズタボロなのだから,ここをなんとかするまではピリオドを打てない。十中八九,ボトルネックは積雲パラや乱流パラなどのミクロスケールにあるだろう。だから,次に我々がやるべきことは,NICOCOのような高解像度モデルをなんとか気候モデルまで持って行って,非断熱加熱の空間分布を詳細に把握しながらENSOを解き切ることである(これはTくんのD論ですでにかなりいい線まで行っていたし,僕自身も密かに続きをやりたいと思っている)。カオス系と言っても初期時刻に十分近ければ決定論的ではあるので,意外とENSOは数年先くらいまでは予報できてしまうかもしれない。あとついでに,ENSOの気象影響とかGMST応答もやっぱり現業として大事に違いない(後者についてはIwakiri and Kohyama (2026)がかなり良さそうである)。以上のようなことを踏まえて,僕が思う「ENSOにまだ残っている面白い問題」は,博物学と現業であると言って差し支えない。
1/14/2026 遅ればせながら,M先生から依頼されていた某辞典の原稿を書き終えた。やや攻めた記述もあるが,なかなか僕らしい理解で書けたと思う。特に,ウォーカー循環の説明をするために,対流結合赤道波とMJOを持ち出してきたあたりは,たぶん類書を見ないだろう。この説明を書くために,もう一度Suematsu and Miura (2022)を読み返したが,やはりとんでもなく面白い。こんなに理路整然と固定観念がひっくり返される論文には,なかなか出会えない。ウォーカー循環というのは,対流結合赤道波を用いた東西温度勾配の調節過程であって,それが積雲によって可視化されたのがMJOなのである。Takasuka et al. (2021)と合わせて,これから熱帯気象学を学ぶ気象学徒のスタンダードになるだろう。
1/13/2026 赤道ケルビン波を,ただの微分方程式の解としてではなく,なるべく本質的な描像で説明してみたい。ロスビー変形半径無限大の赤道上では,東西方向に自由に重力波が飛ぶことができる。そのため,赤道は大気波動の導波管として働く。ただし,ちょっとでも赤道から外れると,コリオリ力の指向性を感じ始めるので,その重力波は東にしか進行方向を選択できない。しかも,leading orderとしては赤道からの距離の2乗で波動方程式に修正が入るので,調和振動子のSchrodinger方程式となり,南北方向の振幅はparabolic cylinder functionとなる。一つ一つ理解すればとても当たり前だが,これに最初に気づいた松野先生ってやっぱり頭おかしい(褒めてる)。