自己紹介

神山 翼(こうやまつばさ) は,お茶の水女子大学理学部情報科学科の講師です。

2017年末にワシントン大学のDennis Hartmannのところで博士号を取得して,

2018年からは東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻の三浦裕亮研究室に学振PDとして在籍しました。

気候変動や気候のゆらぎによって海面水温がどう変わり,それが地球の天気や気候をどう変えるかを理解したいです。


神山翼は,地球温暖化を始めとする外部強制に対する,地球上の海面水温空間分布の応答(ΔSST)を研究しています(SSTは,海面水温を意味する"sea surface temperature"の略)。ΔSSTは,地球物理学として面白いだけでなく,将来の異常気象や台風の変化による被害等を予想する際にも非常に重要です。

具体的には,

・大気-海洋-陸面系(生物圏や雪氷圏を含む)が全地球上のΔSSTをどのように決定するのか

・ΔSSTの影響を受けて,気候変動モードや日々の天気を決定する系*がどのような解を選択していくのか

・ΔSSTがより広い意味で地球の物理・化学・生物および人間社会をどのように変化させ得るのか

を理解したいです。

それに関連する研究なら,テーマや手法を選ばず広く何でもやるつもりですが,特にΔSSTを知るための重要な材料として

・現在気候のSSTを決定する要因

・現在気候のSSTが大気-海洋-陸面系や人間社会に果たす役割

などについては,強い興味があります。

温暖化応答について答えあわせ(観測による理論の検証)が出来るのは(悲観的に見ると)僕が研究者を引退する頃なので,科学として適切な問題設定だと思っています。

現在は地球温暖化に対する熱帯太平洋のラニーニャ的応答の可能性について研究していますが(NEWS仮説としてまとめました**),過去には熱帯インド洋の大気海洋相互作用の季節性とその季節予報への影響を調べたり***(留学までの半年間は東大の東塚知己研究室に在籍),気象・気候モードや低層雲と南極海氷の相互作用****の研究もしました(南極海氷域面積は一部ΔSSTによって制御される)。また,副指導教官としてMike Wallaceに研究を見て頂いて,月の引力(潮汐力)が熱帯の雨の量に僅かながら影響を与えているらしいことも発見しました*****。

他にも,何がΔSSTの理解に役立つかはわからないので,たまにはcuriosity-drivenな研究もしてみようと思います。単純に,科学として面白いですので。

FAQ

Q. なぜ海面水温?

A. 我々は,皮膚温度分布をサーモグラフィで知ることで病気を発見できることがあります。空港などで体温をチェックされるのはこのためです。このようなことができるのは,研究医が「ウイルス等の外的刺激に対して人体がどのように応答し,それが皮膚温度分布をどう変えるか」について理解してきたからでしょう。

それと同じように我々は,海面水温分布を衛星観測等で知ることで地球の異常を発見できることがあるので,それを可能にするために「温室効果ガス等の外的刺激に対して地球がどのように応答し,それが地球の海面水温分布をどう変えるか」を理解することが重要です。地球,特に「自転する大気-海洋-陸面系」が海面水温を決定するしくみを解き明かすことは,地球を科学的に理解する営みとして面白いだけでなく,さらに「病気」の早期発見や治療にも役立ちます。

一方で,外界との境である皮膚温度分布の変化に,人体がどう応答するかを知ることも重要です。例えば寒い日の朝,靴下をはくと体全体が温まったと感じることがあります。これは「足の皮膚におけるエネルギー収支の変化を血液の循環が体の内部まで伝え,我々がそれを感覚神経を通して認識する」からです。

これは地球で言うと「特定の海域の海面におけるエネルギー収支が変わると,その水温変化に応答して大気や海洋の循環がエネルギーを再分配し,生態系や極域の雪氷,さらには我々の経済活動をも変えうる」ことと同じです。我々が「地球のお医者さん」として現在の気候を診断し,将来を予想しようとするならば,そのようなしくみを知ることは極めて重要です。

Q. 皮膚科の先生ですか? 「病気」を治してください!

A. どこまでそのアナロジーが適切かはわかりませんが,まぁそんなところでしょう。人体でいう皮膚のように,海面は大気-海洋-陸面系が外部からのエネルギーを受け取る主人公(の1人)であることは間違いないです。大気は太陽光に対して透明で,かつ「海は広いな大きいな」ですので。

お医者さんにも「呼吸器内科」「循環器科」などと色々な種類の方々がいるように,気候の研究者にも色々な種類がいます。雲の専門家,大気・海洋大循環の専門家などもいますし,特定の現象に詳しい専門家もいます。また,iPS細胞の山中先生のように細胞の研究をしているお医者さんもいるように,乱流など(地球規模から見れば)ミクロなスケールの過程を研究している専門家もいます。

「皮膚科」と言っても皮膚のことだけ知っていればいい訳ではないはずで,海面水温の専門家も理解しなければいけないことがたくさんあります。もちろん,これを全部一人でやるのは無理ですので,色々な専門家が協力しあって気候学研究コミュニティを作っています。

さらに,「お医者さん」はあくまでも状況を理解することが第一の仕事であって,実際に「病気」を治すには,お薬を作る人や手術の道具を作る人など,コミュニティ外にもたくさんの協力者が必要です。気候科学に関してこれを担うのは,CO2排出量を抑えようと頑張っている工学系研究者の方々や,コンピューターを開発されている方々などです。当然ながら,それを可能にする事務職や技術職のスタッフさんの存在も忘れてはいけません。

Q. 気象学者ですか? 

A. はい,大気の下部境界条件を調べているのだから,当然気象学者です。

Q. 海洋物理学者ですか? 

A. はい,海洋の上部境界条件を調べているのだから,当然海洋物理学者です。

Q. イソップ童話の「卑怯なコウモリ」みたいですね。

A. それがウリです。ちゃんと理解しないと気象学者と海洋物理学者の両方にいじめられます。 でもきちんと科学すれば,きっと両方に貢献できるでしょう。 

*前者は,エルニーニョ南方振動,マッデン・ジュリアン振動等の変化。後者は,大気大循環やグローバルな降水変化の他,温帯低気圧・前線・台風等,総観規模およびメソスケール現象の変化も将来的には調べてみたい。

**Kohyama, Hartmann, and Battisti, 2017; Kohyama and Hartmann, 2017; Kohyama, Hartmann, and Battisti submitted

***Kohyama and Tozuka, 2016

****Kohyama and Hartmann, 2016; Wall, Kohyama, and Hartmann 2016

*****Kohyama and Wallace 2014, 2016

Photo: Seattle, Washington, USA