第5回東海北陸雑草研究会は,2017年10月16日に名古屋市(ウインクあいち)で開催された。最初に総会が行われ平成29年度の事業計画,予算案が示された。今年度から学生・院生を対象にした優秀研究発表賞を設けることが了承された。研究会では以下に示す講演会,研究発表会,地域情報交換会が行われ,参加者は49名であった。
【講演会】
企画者:小林方美(クミアイ化学) ,趣旨説明:吉岡俊人(福井県立大学)
大学の研究室では雑草の生態研究がメインであり除草剤の必要性や仕組みを学ぶ機会が少ない。現実社会では多くのコストをかけて雑草が制御されており,植物保護や植物防疫の観点から若い雑草研究者が除草剤を学ぶ意義について説明が行われた。
1.食料生産の重要性と農薬の役割
清水 力(農薬工業会運営委員会・アカデミア対応チームアドバイザー)
日本の農業における効率的な食料生産への期待が高まるなか,農薬工業会として「食料生産の重要性と農薬の役割」について以下内容で講演が行われた。1:世界の人口増加を支えるための食料増産と安定供給体制の重要性,2:農産物の収量・品質の確保,省力化,カビ毒リスクの軽減を実現するための農薬の役割,3:人への安全性,環境影響評価による農薬登録の仕組み,4:農薬の適正使用と残留性の確認による安全な使用方法について,「JCPA VISION 2025」の動画を交えながら説明があった。
2.ALS阻害剤の変異ALSに対する効果およびALSタンパク質への結合様式
河合 清(クミアイ化学工業株式会社生物科学研究所)
ALSは植物及び微生物に存在する分岐アミノ酸生合成経路の最初の段階の共通酵素で,この酵素を阻害する除草剤は低薬量で高い除草活性を示し,作物−雑草間の高い選択性をもつことから,現在最も普及した除草剤であるが,ALS抵抗性雑草の出現が問題となっている。ここではリコンビナントALSタンパク質を用いたin vitro ALS阻害活性評価の詳細な手法が紹介され,ALSタンパク質と阻害剤の複合体X線結晶構造解析による結合様式の解明について最新の研究成果が紹介された。
【研究発表会】
「雑草の重要特性である生活史可塑性を生じる種子春化遺伝子の探索 」
◯日下部智香・吉岡俊人・青山のぞみ(福井県立大学)
生活史特性の異なるヒメムカシヨモギとオオアレチノギクの種子春化候補遺伝子を単離し,CcILs1とCsILS1のアミノ酸配列の比較が行われた。
「キウイ剪定枝の木質ペレット化による雑草抑制資材の開発」
世登大輝・西川浩二・成瀬和子・◯稲垣栄洋(静岡大・農)・岩本百合香(大阪府立環農水研)・櫻川智史・田中伸佳・藤浪健二郎・前田研司(静岡県工業技術研究所) 岡田峻・加藤尚(香川大・農)・水谷和敬・中村大介(日本オーガニック株式会社)
大量に発生する農産物残渣の有効利用を進めるため,キウイ剪定枝のペレット資材を畑地に処理し,雑草抑制効果の比較が行われた。
「農耕地周辺の雑草植生や植生管理が有用生物多様性に及ぼす影響」
◯猿田悠人・世登大輝・稲垣栄洋(静岡大)
雑草群落は害虫の発生源となることもあるが,農業生態系では多種多様な昆虫類の生息場所となっており,ここでは地表性生物の出現頻度に関する調査が行われた。
「Diversity analysis and antioxidant capacity of endophytic fungi from Salix variegata」
◯蒋 維(名城大)・劉士平(中国三峡大)・汪光熙(名城大)
ヤナギ属植物(Salix variegata)のエンドファイトの多様性評価に関する研究が行われた。
「茶草場に侵入したセイタカアワダチソウの除去方法の検討」 最優秀賞
◯鈴木寛・溝口友也・山下雅幸・澤田均(静岡大)
静岡県の茶草場では茶の品質を上げるためススキ主体の採草地が維持されているが,セイタカアワダチソウの侵入が問題となっており,選択的刈り取りとグリホサート処理による除去効果が比較された。
「ジクワット・パラコート液剤の雑草イネに対する種子発芽後枯殺効果」
◯文 順姫・有澤佳紘・榎吉寿夫・杉山稔(シンジェンタジャパン)
ジクワット・パラコート液剤はイネ科種子の表面に付着すると発芽後生育の抑制効果があるため,ここでは雑草イネ種子に対する枯殺効果の試験が行われた。
「長野県における雑草イネに対する総合防除対策」
◯藤沢喜一(長野県北信農改)・青木政晴(長野県農試・長野県主要農作物難防除雑草対策プロジェクトチーム)
長野県における雑草イネ防除対策として,地域営農組織へのきめ細かい技術支援によって,地域での発生頻度が低下した事例が示された。
研究発表後に参加者による優秀発表の投票を行った結果,「茶草場に侵入したセイタカアワダチソウの除去方法の検討」が選出された。
おめでとう!!鈴木くん!
【地域情報交換会】
企画者:青木政晴(長野県農試)
一発処理除草剤が密苗初期生育に及ぼす影響
今本裕士(石川県農林総合研究センター農業試験場)
石川県では大規模水田の移植技術として,高密度播種(250-300g/箱)によって15〜20日の育苗期間で細くて背の低い苗を作り,「密苗」移植を推奨している。密苗によって箱数を慣行の1/3に減らし育苗にかかるコスト低減を実現できる。ヤンマーと共同で密苗移植専用爪の開発が進んでおり,各社も専用キットを販売し各地に普及しつつある。密苗の稚苗は慣行苗に比べて草丈が低く,水稲除草剤による薬害の影響が懸念されたが,移植29日後の草丈,茎数,乾物重に慣行苗との差はみられず,移植後2ヶ月では慣行とほぼ同等の生育を示し,収量や品質に差がないことが確認された。