平成28年9月16日に名城大学天白キャンパスで第4回東海北陸雑草研究会が開催され,31名(うち学生13名)の参加者がありました。吉岡俊人会長の司会による総会が行われ,平成27年度事業報告,収支報告,小林方美会計監査の報告が行われました。
引き続き以下の内容で講演会,研究発表会,地域情報交換会が行われました。
講演要旨は こちら (PDFをダウンロードできます。) プログラムは こちら
【講演】
「水湿地性希少植物のハビタットとしての海跡湖」 藤井伸二(人間環境大学)
海跡湖は雑草研究者に馴染みのない言葉であるが,もともとは海が湖になった場所で日本各地に見られる。その中で紀伊半島の東側(三重県)では平野部が少なく複雑なリアス式海外地形が卓越し多数の海跡湖が存在する。海跡湖は流入河川がない,小規模水系,水位変動が大きい,大型抽水植物が発達しない,陸域からの隔離性が高い,ことなどから,アズマツメクサ,シログワイ,ヒメキカシグサ,クロハリイ,トダスゲなど希少な水生植物の生育地となっている。海跡湖はアプローチが極めて悪く,調査には漁船などをチャーターする必要があり,研究者がほとんど入っていないこと,水位が高いときには調査できないなど,フィールド調査が難しい。アズマツメクサやヒメキカシグサは,かつて水田に生育していた水湿地性希少植物であるが,三重県の海跡湖に遺存的に個体群が残っていることが示され,保全植物学的に貴重である。もし,学会員が他地域の水田等でアズマツメクサやヒメキカシグサを見つけたときには,藤井伸二先生にご一報いただければ幸いである。
【研究発表会】 6課題の発表がありました。
「三重県河川で確認されたアゼオトギリの生態調査と保全手法の検討 」
石井正人((株)建設環境研究所)・松島 宏(三重河川国道事務所)
全国でわずか25地点,約800個体程度しか確認されていないアゼオトギリが平成25年に櫛田川水系で再発見された。自生地における消失を避けるための「回避措置」および移植等による「リスク低減措置」の検討が行われ,平成26年~28年にかけて自生地における個体群動態調査の結果が紹介され,28年度に個体数が67,開花率が23.2%〜35.8%であることが示された。
「三重県における地域と協働したアゼオトギリの保全 」
松島 宏(三重河川国道事務所)・石井正人((株)建設環境研究所)
櫛田川水系で再発見されたアゼオトギリの保全活動を進めるため,河川管理者,学識経験者,地域農業団体,地域環境保全団体,教育機関,関係行政機関から構成されるアゼオトギリ保全勉強会の活動の紹介が行われた。ここではアゼオトギリの増殖,移植,種子採取等の体験型の勉強会が実施され,栽培試験の成果を盛り込んだ生育マニュアルの紹介が行われた。
「メッシュ被覆資材を用いたアレチウリ埋土種子の消費と出芽に関する研究 」
河嵜 望・渡邉 修(信州大学農学部)
アレチウリが多発する非農耕地エリアにメッシュ型の被覆資材を設置し,光や水が通る資材下部でアレチウリを出芽させ,埋土種子消費を促す生態的防除の効果に関する研究紹介が行われた。現地ではアレチウリの実生が7〜9個体/m2の密度で確認され,被覆資材設置区では防除率が85%であった。前年に採種した種子100粒を土壌表面とリター下部に設置し,出芽数をカウントしたのち,死亡数,休眠種子数の観察を現在継続している。
「静岡県中西部の半自然草地における外来および在来植物の分布に影響を及ぼす要因 」
丹野夕輝(静岡大、岐阜大)・山下雅幸・澤田 均(静岡大)
静岡県中西部は良質の日本茶の産地で,現地ではススキを主体とする半自然草地から敷草を採取するための「茶草場」が利用されているが,近年,一部の茶草場でセイタカアワダチソウなどの外来植物の侵入が確認されている。外来種の出現と立地環境条件との関連を調べた結果,土壌pH,カルシウム含量,マグネシウム含量と外来種の出現頻度に正の相関関係がみられた。
「イタドリの表層施用がナス栽培に及ぼす影響 」
長谷川佳菜・西川浩二・成瀬和子・稲垣栄洋(静岡大・農)
徳島県剣山系の傾斜地農業では伝統的にナス栽培においてイタドリをマルチとして利用しており,現地では品質の高い生産が行われている。イタドリの表層施用によるナス栽培への影響を明らかにするため,エンドファイト感染イタドリと非感染イタドリで処理効果を比較した。エンドファイト感染イタドリ施用区ではナスの果実硬度が有意に低くなり,施用効果が確認された。
「長野県松本地域のコムギ圃場における難防除雑草に対する生育期茎葉処理剤の防除効果および防除対策」
平出有道(長野県松本農政)・青木政晴(長野農試・長野難防除雑草PT)
長野県では冬作においてオオムギ495ha,コムギ2250haが作付けされ,連作圃場ではカラスムギ,ヤグルマギク,ナガミヒナゲシ,カミツレ,カラスノエンドウなどが発生している。ヤグルマギク防除にはアイオキシニル乳剤とベンタゾン液剤の体系処理が,また,ナガミヒナゲシ防除ではチフェンスルフロンメチル水和剤の効果が確認された。畑の難防除対策には市町村やJA,農業改良普及センターが連携し,地域農業再生協議会として農家全戸に雑草拡散防止のチラシを配布し,県の対策プロジェクトチームの協力を進めながら効果的な取り組みを実施中である。
【地域情報交換会】
「三重県における雑草発生実態」 大西順平(三重県伊賀農業改良普及センター)
三重県の大豆栽培面積は4490haで年々増加しており,20ha作付け農家が半数以上,100ha超えの農家もあるが,大豆栽培に関するアンケートでは実に70%以上の農家が,「雑草が一番問題」と回答している。大豆畑における難防除の発生実態を明らかにするため,県域全体を対象に152地域を選定し,1地域10圃場程度,合計1403圃場で調査を実施した。発生圃場が確認された地域の割合を算出した結果,マルバルコウ18%,アメリカアサガオ15%,マメアサガオ14%,ホシアサガオ6%であり,上記4種が一つでも確認された地域は県全体の35%であり,三重県では約4割近くの大豆作付け地域に蔓延している実態が示された。調査ではGPSカメラの利用がなされ,発生情報の地図化,情報の共有方法についての情報交換がなされた。