その他の研究について.
last update: 201xxxxx
タナイスを採っていると,タナイス以外の動物も採れるのです.そういう非タナイスたちはやれる範囲でそれぞれの専門家に送るようにしています.餅は餅屋,タナイスはタナイス屋,それ以外はそれ以外屋です.
以下に,論文執筆に参加させていただいた分類学的研究について軽く紹介します.
また,研究活動を進めていると,色々な縁からメインがタナイスでも分類でもない研究にお誘い頂くこともあります.そのような共同研究について軽く紹介します.
1-1. 端脚目甲殻類 (Amphipoda)
ヨコエビと呼ばれる甲殻類の仲間です.なお,エビではありません.概要はWikipediaに書いてありますので割愛します(以下等脚目,センチュウ類同様です).浜辺に打ちあがった海藻などをひっぺがすとピンピン跳ねるやつらに会ったことがあるでしょうか.あいつらです.最近水族館での展示が増えてきた,タルマワシというやつもこのグループです.
私は富川光さん,下村通誉さん,楢原有紀子さんと以下の新種について論文を書かせてもらいました.
Psammogammarus mawatarii
マワタリスキマヨコエビという和名がつけられています.我々の所属研究室のボスだった,馬渡峻輔先生に献名した種名です.本種は口永良部島(くちのえらぶじま)の潮だまりから採集されました.体長3ミリメートルちょっと,小さな動物ですが歩いて行ける潮だまりにも新種がいるというよい例ですね.
Ingolfiella ogasawarensis
インゴルフィエラ亜目という比較的レアなグループに属します.本種は2009年に研究船淡青丸(たんせいまる)という調査船により,小笠原沖の水深172-165mから採集されました.体長2ミリメートル弱,小さいですね.本種が採れた航海の船長は鈴木祥市さん,主席研究員は松本亜沙子さんでした.初めての淡青丸航海,朝から晩までドレッジを曳いたのが思い出されます...
論文:Tomikawa et al. (2010); Shimomura & Kakui (2011); Narahara-Nakano et al. (2016)
ヨコエビの一種(固定前).
1-2. 等脚目甲殻類 (Isopoda)
ワラジムシやフナムシなどが含まれる,比較的メジャーな甲殻類です.長期間の絶食で有名になったダイオウグソクムシも等脚類です.
私は下村通誉さんと以下の種について論文を書かせてもらいました.
Stegidotea takedai
著名なカニ研究者の武田正倫先生に献名した種名です.本種は2009年に練習船長崎丸という調査船により,甑島沖の水深約500mから採集されました.体長4ミリメートル.ここまで書いて全部小さいんじゃないかと思ってきました...本種が採れた航海の船長は吉村浩さん,主席研究員は橋本惇先生でした.橋本先生の航海は変なエビとか魚とかがたくさん採れて,タナイス以外もとても面白い航海でした.先生が退官されるまで計9回40日間参加,たくさん経験を積ませていただいた船です.
論文:Shimomura & Kakui (2012); Kakui et al. (2019)
Stegidotea takedai (固定前).
1-3. 線形動物類 (Nematoda)
センチュウと呼ばれる生き物です.魚の寄生虫(アニサキス)や発生学でよく用いられる陸生のC. elegansなどで有名でしょうか.私もCo〇pというスーパーでチカという魚を買った時に中から出てきて遭遇したことがあります.そんなセンチュウですが,寄生をせずに暮らしている種類(自由生活種)もたくさんいます.私が出会うのは,採集道具の関係から大体海の底に住む自由生活種です.
私は嶋田大輔さんと以下の種について論文を書かせてもらいました.
Micoletzkyia mawatarii
上述の馬渡峻輔先生に献名した種名です.属名もセンチュウ研究者のDr. Heinrich Micoletzkyに献名されています.本種は2009年に研究船蒼鷹丸(そうようまる)という調査船により,日本海の水深約530mおよびオホーツク海の水深1150mから採集されました.体長11ミリメートル!ついに1センチ超えが!笑 本種が採れた航海の船長は寺田靖さん,主席研究員は森田貴己さん,藤本賢さんでした.初の小型甲殻類屋トップとしての乗船,小型網の付け方やロープワークなど,不慣れなことが多すぎて,当時の甲板長の小泉さんによく怒られた記憶が...しかしあれがあったからこそ今があると言える,とても勉強になった航海です.蒼鷹丸は船員さんとの距離が特に近い,楽しい船でした.
Deontostoma magnificum
アラスカで記載された4センチを超える大型の自由生活センチュウです.日本産の個体はこれまでに相模湾のみから確認しています.2012年に三崎臨海実験所を利用して行ったドレッジ調査中に採集されました.本当に大きく,ドレッジで採集した砂の山に紛れていたのを,髪の毛を引き抜くように指でつまんで採ったのを覚えています.これは未記載種に違いない,と当時嶋田君と大いに盛り上がりました(が,残念ながら(?)既知種と同定されました).いやー,でかい動物はいいですね.笑
論文:Shimada et al. (2012, 2017); Shimada & Kakui (2015, 2019)
センチュウ類の一種(固定前).
1-4. カイアシ類甲殻類 (Copepoda)
説明が難しいな...概要はWikipediaをご覧ください!英語をそのまま読んでコペポーダ,短くコペと呼ぶことも多いです.カイアシ類には子供の頃は浮遊生活者(プランクトン)で,親が寄生虫という種がかなりたくさん存在しています.寄生性コペポーダを寄コペと通っぽく呼んでもいいです! 寄コペには甲殻類とは思えない形をしているものが多くとてもステキです(参考:図A).寄コペの寄生相手(宿主)は魚に限らず甲殻類,イソギンチャク,ホヤ,ウミウシなどもうめちゃくちゃ多様で,可能性を感じます!(何の?!)
私は上野大輔さん,本間理子さんと以下の種について論文を書かせてもらいました(タナイス寄生性種は別の項目にて)
Cardiodectes medusaeus
メドゥーサノカンザシという和名を提唱しました.この和名は種小名(2単語からなる種名の後ろ側のこと:ここではmedusaeus)と寄生状態に因んだものですが,メドゥーサがかんざしをするのは大変でしょうね.だって髪,ヘビだし...研究標本は,浜比嘉島の砂浜で拾ったススキハダカというハダカイワシの一種から採集されました.(スナホリガニというキュートなカニを探しに同島に行った時に偶然見つけたものです.)得られた個体が琉球列島初報告であったため,再記載を行い報告しました.ハダカイワシは深い海に住んでいるので,打ち上がるのは珍しいのではないかと思います.カピカピだった標本を海水で戻して観察するという,なんか可能性を感じる(何の?)過程を経ています.
Oshoroclausia shibazakii
小樽市忍路(おしょろ)湾より新属新種として報告した種類です.なお,本種が含まれるゴカイミジンコ科(Clausiidae)の日本初報告でもありました.属名は産地の忍路(Oshoro)を含めて名付けました.また,種小名は忍路臨海実験所での調査で長年大変お世話になっている柴崎康二さんに献名しました.和名はゴカイミジンコとしました.体長5ミリ程度,他の同科の種における知見から,時折ゴカイ(環形動物)に近づいては体表をかじるという,「ゆるい寄生生活」をしているのではないかと考えていますが,私がここ15年近く忍路で調査を行ってきた中でたった1個体採れただけの珍しい種であるため,本種の生態はよくわからないのが正直なところです.
忍路は日本で2番目の臨海実験所が設立された地であることから長い生物研究の歴史がありますが,2000年代以降もたくさんの新種・希種が報告される豊かな海域です.きっと小さな動物を中心にまだまだ見つかっていない種が生息しているに違いありません.そのような貴重な環境が将来にわたって守られていくことが強く望まれます.
論文:Uyeno et al. (2013), Uyeno & Kakui (2015), Homma et al. (2020)
寄コペの一種(右は魚肉片;固定前).
ゴカイミジンコOshoroclausia shibazakii (固定前).
1-5. ウミシダ類 (Comatulida)
ウミシダは,植物のシダが名前に入っているように,ぱっと見たところ海藻かなにかにも見えますが,れっきとした動物で,ヒトデやウニ,ナマコの属する棘皮動物門の一員になります.英語では「feather star」,羽毛のあるヒトデ(starfish;そのまま星ではないはず...)と呼ばれています.普段は下の写真で見られるくるりと丸まった「巻枝」で岩などにしがみついて生きていますが,時にふさふさの「羽枝」(写真の上方部分)をくねくねとはためかせ(?),遊泳も行うようです.(参考:Youtube)
私は幸塚久典さんと以下の種について論文を書かせてもらいました.
Antedon serrata
トゲバネウミシダという和名の付いた小型のウミシダになります.本種は南シナ海から本州北端の浅海域に分布するとされていましたが,北海道の忍路湾(小樽と余市の間くらいにあります)で潜水調査を行ったところ,あれれ採れたよ,最北記録だよ,ということで形態の補完的再記載と共に新分布情報として報告しました.
身近な場所にすら,まだまだ人間に知られぬまま日々を送る動物がたくさんいます.種がどこまで分布しているのか,という情報は,素朴に生態的に興味深いと同時に,環境変動の影響などを考える上で,欠かせないものです.
論文:Kohtsuka et al. (2014)
ウミシダの一種(固定前).
1-5. 内肛動物門 (Entoprocta)
おいおいなんだよ内肛動物って,内側に肛門って何が起きてんだよ,・・・ってその通りの動物なのです.どこの内側か,というと触手冠と呼ばれる,環状に触手が並んだ部分の内側になります.触手冠の内側の領域に肛門が開口しています.ちなみに口も近くに開口しています.ミラクル.(参考:LINK1, LINK2; anusと書いてあるのが肛門です)見た目はなんでしょう,シャボン玉吹くやつみたいな感じといえばいいでしょうか・・・.ワイングラス?ちなみに触手冠の外側に肛門が開口する,外肛動物類Bryozoaという別の動物門も存在します.(なおBryozoaは苔虫動物門とも訳されます.)
私は柁原宏さんと以下の種について論文を書かせてもらいました.
Loxosoma axisadversum
ウシロマエロクソソマという和名の付いた内肛動物です.みんな大好き忍路湾(好きになってください,おしょろ)で採集したゴカイの仲間の体表に住んでいるのを見つけました.ウシロマエの示す通り,他の内肛動物とは肛門と口の開口位置が前後逆になっているという不思議な形をしています.論文中では本種の生時の形態観察と,分子系統解析を行いました.また,これまで報告されていた宿主(付着先)とは異なる種のゴカイ類に付着していたので,新しい宿主情報も併せて報告しました.
皆さん,忍路ですよ!今,忍路がアツい!笑
論文:Kajihara et al. (2015a)
ウシロマエロクソソマLoxosoma axisadversum (固定前).スケールは0.1 mm.
1-6. 紐形動物門 (Nemertea)
作成中.
私は柁原宏さんと以下の新種について論文を書かせてもらいました.
1. Tubulanus tamias Kajihara et al., 2015
作成中.
論文:Kajihara et al. (2015b)
1-7. 貝形虫類 (Ostracoda)
作成中.
私は蛭田眞平さんと以下の新種について論文を書かせてもらいました.
作成中.
論文:Hiruta & Kakui (2016)
1-8. 環形動物門 (Annelida)
作成中.
私は冨岡森理さん,自見直人さんと以下の種について論文を書かせてもらいました.
作成中.
論文:Tomioka et al. (2016); Jimi et al. (2017)
1-9. ダニ類 (Acari)
作成中.
私はBayartogtokhさんと以下の種について論文を書かせてもらいました.
1. Eremaeozetes octomaculatus Hammer, 1973 (in Bayartogtokh et al. 2017)
作成中.
論文:Bayartogtokh et al. (2017)
1-10. 十脚目 (Decapoda)
作成中.
私は駒井智幸さんと以下の種について論文を書かせてもらいました.
1. Munidopsis petalorhyncha Baba, 2005 (in Komai et al. 2017)
作成中.
論文:Komai et al. (2017)
1-11. 珍無腸形動物門 (Xenacoelomorpha)
作成中.
私は中野裕昭さんと以下の新種について論文を書かせてもらいました.
1. Xenoturbella japonica Nakano et al., 2018 (see also Nakano et al. 2017)
作成中.
論文:Nakano et al. (2017, 2018)
1-12. ウミグモ類 (Pycnogonida)
作成中.
私は細田悠史さんと以下の種について論文を書かせてもらいました.
1. Hemichela nanhaiensis Wang et al., 2015 (in Hosoda et al. 2018)
作成中.
論文:Hosoda et al. (2018)
番外.角井サンプルを活かして頂けた論文リスト
私が把握しているもののみになりますが,以下の論文で使っていただけました.(利用の確証を得られなかったものは除いています)
2-1. 合同調査報告
多数の研究者が参加する合同調査は,一人で行う調査より,大きな効果(標本を無駄にしないなど)が見込まれます.
また,色々な動物群間で共通した傾向などを見出すことが時に可能であるため,総括した論文が出版されることがあります.
2-1-1. JAMBIO合同沿岸調査
JAMBIO合同沿岸調査は,東京大学の幸塚久典技術職員と筑波大学の中野裕昭博士が中心となって,
三崎臨海実験所(東京大学)と下田臨海実験所(筑波大学)周辺の浅海域(相模湾・相模灘)の
生物相解明を目的に実施されている一連の合同調査プロジェクトになります.
私も何度か参加させていただきました.
そのJAMBIO合同調査プロジェクトが折り返し(終盤?)に差し掛かったということで,
得られた成果のまとめ論文として発表されたのが,Nakano et al. (2015) になります.
本研究により,日本で最も動物相調査の進んだ相模湾・相模灘にも
未だ数十種に上る未記載種が存在することが明らかになりました.
このことからは,研究の進んでいない地域の研究はもとより,
十分研究が進んだと考えられてきた地域についても,生物多様性の再評価が必要であると言えます.
論文:Nakano et al. (2015)