海中音波T波による火山活動監視:2023年10月の孀婦海山の事象
2023年10月9日の朝早く、日本列島から南へ500 km以上離れた孀婦海山周辺を震源とする津波が発生した。津波に同期して、14発の中規模地震が観測されている。中規模地震にも関わらず、本州沿岸部では50 cm程度の津波が観測された。津波が大きく増幅した原因については、Sandanbata, Satake Takemura et al. (2024)にまとめられている。我々は、津波と同期して海中音波T波を解析することで、14個の地震の震源の特徴を調べた。観測されたT波は、P波やS波より10倍以上大きく、継続時間も60秒程度であった。詳細な海底地形を考慮した地震波伝播シミュレーションを実施したところ、そのような観測の特徴を再現するには、海底面下極浅部に震源を仮定する必要があることを明らかにした。そのような、極浅部の事象が、中規模な地震現象にも関わらず大きな地殻変動を生み、観測可能な津波に至った可能性があると考えています。詳細は、Takemura, Kubota & Sandanbata (2024)にまとめられています。T波を使った津波予測の可能性から、AGU Editor's Highlightsを受賞しました。 高周波数エンベロープを用いた地震活動解析〜2015年6月23日 小笠原諸島西方沖で連続して発生した深発地震〜
MovieS1.mpg2015年6月23日の21時18分から高周波数地震動のエネルギーの時空間分布を描いた動画を見ると、日本海側で1つ、小笠原諸島西方沖で3つの地震が立て続けに発生したことがわかる。立て続けに発生したことで、気象庁やUSGSなどのカタログではいくつかのイベントが未検知あるいは規模の誤推定が発生した。詳細はTakemura et al. (2017a)にあるが、我々の研究グループでは、高周波数地震動の伝播特性に着目し、小笠原諸島西方沖で発生した3つの地震が、ほぼ同じ位置で発生し、同じメカニズム解を持つことを明らかにした。また、最大振幅分布の振幅比を活用することで規模を正確に推定し、地震活動の詳細を明らかにした。このような高周波数地震動の波動場を用いたモニタリングは、強震モニタなどで力を発揮しているが、より洗練化することで震源域(活動域)の広がりや輻射エネルギーの推定にも応用できることがわかった。 高周波数地震動を用いた2015年小笠原諸島西方沖の地震(Mw 7.9)の震源位置の拘束
2015年5月30日に小笠原諸島西方沖の深さ660 km付近でMw 7.9の巨大深発地震が発生しました。この地震は、これまで同地域で観測されていた地震の発生域から100 km以上深く、孤立して発生したもので、発生原因や発生位置周辺の不均質構造に大きな注目が集まっていました。日本列島の地震計で観測された1 Hz以上の高周波数P波をよく見ると、スラブ上面付近で発生した通常の深発地震では最大振幅が数秒以上遅れる紡錘形のエンベロープ形状(図下段)を示すが、今回の深発地震とその余震では初動付近に大きなエネルギーが集まっている(図上段)。太平洋スラブ形状を模擬した地震動シミュレーションにより、初動付近に大きなエネルギーを持つパルス型の波形を再現するには、660 km不連続面よりやや深い位置のスラブ下端に震源を置く必要があり、この地震の発生位置が沈み込む太平洋スラブ下端で発生した地震であることを示しました(Takemura et a., 2016a)。スラブ下端で発生したことを考慮することで、660 km不連続面付近の太平洋スラブの形状など沈み込んだスラブに関する研究が進むと期待される。