関東堆積盆地や南海トラフの付加体など、S波速度の遅い堆積層が厚い地域では、それらの影響で地震動伝播は複雑なものとなる(Takemura et al., 2015b, 2019a)。長周期地震動に関する研究が主であるが、短周期地震動についても複雑である。短周期コーダについて、DONET地震計とOpenSWPCを用いたシミュレーションにより、その性質を詳細に調べた。DONET海底地震計のコーダ波部分は陸域岩盤サイト(F-net)と比べて大きく増幅していて、顕著な地盤増幅効果が期待されたが、実体波についてみるとそのような効果は限定的であった。左の図は紀伊半島沖の現実的な3次元不均質構造を仮定したシミュレーション結果(灰色;Model 0)と堆積層をなくしたモデル(Model 1)、海水をなくしたモデル(Model 2)、堆積層も海水もなくしたモデル(Model 2)の比較である。堆積層の有無がコーダの早い時間から大きな影響を与え、海水の有無でコーダの最後の方に影響を与えていることがわかる。陸域地震計とコーダ波の生成過程がことなるため、コーダ波規格化法によって岩盤点相当に地盤増幅を補正することが難しいことを明らかにしました。詳細は、Takemura, Emoto & Yamana (2023)にまとめられていますが、今後も巨大地震域近傍に敷設された海底地震計の利活用のために、地震波伝播特性の研究を進めていきたい。 3次元不均質構造を考慮したCMT解を用いた長周期地震動シミュレーション
海域の地震に代表されるように、震源域に強い不均質性が存在する場合、長周期であっても1次元構造(深さ方向にのみ地震波速度が変化するモデル)を用いた震源解析では、不正確な震源モデルを推定してしまう(例えば、Takemura et al. 2020a)。不正確な震源モデルは、地震動シミュレーションを用いた地震動評価、地下構造推定などの研究に悪影響を与える可能性がある。首都圏下は関東堆積盆地、2枚の海洋プレートの沈み込みがあり、周辺で発生する地震および地震動評価のために、正確な震源モデル推定は喫緊の課題である。そこで、Takemura et al. 2020aの3次元地下構造モデルを考慮したCMT解析手法を首都圏にも適用し、地震のメカニズム解を推定し、それらを用いた長周期地震動シミュレーションを行い、観測との比較を行った。推定されたメカニズム解(図左)は1次元構造を用いたカタログと大きく違いはないが、特に地震モーメントの値に差が現れた。これは、1次元構造では表現できない、地下の剛性率分布を適切にモデル化できたことによる。3次元構造を考慮したCMT解による長周期地震動シミュレーションでは、首都圏において周期10秒以上の長周期地震動の特徴をよく再現することに成功した。正確な地震動のモデル化のためには、3次元構造を考慮したCMT解析が必要不可欠であり、地震の震源、地下構造、地震動の理解がさらに進むことが期待される。詳細は、Takemura et al. 2021を御覧ください。 海底地震計の高周波数地震動伝播モデリング〜浅部微動の震源パラメータ推定への影響〜
LFT5L__R0S0.xz.mpg近年の海底地震計ネットワークの敷設により、海域で発生する微小な地震現象の発見・解析が進んできた。しかし、海底地震計の周囲は陸域と異なり、複雑な地下構造となっている。微小な地震現象では、短周期の地震波が卓越することから、それらの震源像を正しく得るには地下構造の影響を評価する必要がある。本研究では、DONETの観測記録とOpenSWPCを用いたシミュレーションの比較により、地下構造の影響を評価した。左図は南海トラフのトラフ軸から紀伊半島にかけたシミュレーション結果の断面図を示している。震源は浅部部微動を模しているが、震源時間関数は非常に単純なものを仮定した。それにも関わらず、地震波は海水や海洋堆積物にトラップされ、複雑な伝播の様子を示しており、これらは震源破壊過程を推定する上で大きな問題であることがわかった。詳細は、Takemura, Yabe & Emoto (2020)にまとめられているが、今後は、地下構造の影響を考慮した震源破壊過程の推定へと応用を広げていきたい。 南海トラフの付加体や関東堆積盆地を伝播する長周期地震動のモデル化
関東堆積盆地や南海トラフの付加体など、S波速度の遅い堆積層が厚い地域では、それらの影響で地震動伝播は複雑なものとなる(Takemura et al., 2015b, 2019a)。特に、関東平野では周期5-10秒程度( Yoshimoto & Takemura, 2014a, 2014b)、南海トラフの付加体では周期30秒程度までの地震動伝播に影響がある(Takemura et al., 2019a)。一例として、2016年4月1日に発生した三重県南東沖の地震のシミュレーションの5-50秒の波動場のスナップショットを示す。シミュレーションとモデルの詳細は、Takemura et al. (2019a)に記載されている。上段6枚は付加体を仮定したモデルで、下段6枚は付加体を地殻の物性値に置き換えたモデルによるものである。付加体の有無で、地震動(主に基本モードのRayleigh波;図中のA)の伝播に大きな影響があることがわかる。Takemura et al. (2015b, 2019a)では堆積層構造のモデル化も行っており、構造モデルを利用して地震動伝播を正確に考慮することで、海域の地震活動評価の高度化、プレート境界地震の地震動による被害推定の高度化、海底津波観測への地震動の混入の正確な評価などに資することが期待される。