新しい研究が上に来るようになっています。
南海トラフ沿いの浅部スロー地震の分布
Takemura Hamada et al. (2023)による南海トラフ沿いの浅部スロー地震の概要図
2000年代前半にスロー地震が発見されてから、世界中の沈み込み帯でスロー地震に関する研究が盛んに進められてきました。私達は、南海トラフの深さ10 kmより浅い場所で発生する「浅部スロー地震」に注目し、その活動様式や発生場所の特徴について、地震学、測地学、地質学および室内実験のこれまで研究成果を多面的にまとめ、浅部スロー地震発生に関する共通理解を樹立した英語論文(レビュー)を執筆しました。
南海トラフの浅部スロー地震は日向灘、室戸岬沖〜紀伊水道沖、紀伊半島南東沖の3つの地域で活発に活動します(左上図)。これらの浅部スロー地震域は、フィリピン海プレートの固着域と安定すべり域の間の遷移領域に対応しています(解説記事)。このことから、浅部スロー地震域の摩擦特性に何か特徴があるのではないかと考えられます。一方で、地質学的に見てみると、プレート境界に沿って沈み込む堆積物は火山灰や粘土鉱物で主に構成され、走行方向(東北東―西南西)に南海トラフの広い領域で共通して見られます。浅部スロー地震が発生する深さ(温度150ºC以下)で、火山灰や粘土鉱物を含む堆積物の摩擦係数のすべり速度依存性は、ほとんどの場合、正となります(解説記事、左下図)。これは、浅部スロー地震域を含む深さ10 km以浅では自発的に地震のようなすべり現象を引き起こすことが難しいことを意味します。つまり、浅部スロー地震の発生には何か特別な後押しが必要だと言えます。
浅部スロー地震発生域のプレート境界周辺は、地震波速度の低速度層がイメージングされており、周囲と比べて間隙流体圧が高いと考えられています(解説記事)。さらに、浅部スロー地震活動中にプレート境界断層付近で地下構造の時間変化が確認されていて、浅部スロー地震活動中に流体がプレート境界断層付近を移動したと解釈されています。流体圧の過渡的な変化があることで、摩擦係数のすべり速度依存性が正であっても多様なすべり現象を発生させることが室内実験で確認されていることと併せて考えると、浅部スロー地震は流体移動現象と密接に関係していると解釈できます。つまり、浅部スロー地震が日向灘、室戸岬沖〜紀伊水道沖、紀伊半島南東沖の限られた地域で発生するのは、南海トラフの走行方向に不均質に分布した間隙流体とその流体圧の過渡的な変動が繰り返し起こることで発生していると結論づけることできるのではないかと考えています 。
詳細はTakemura, Hamada et al. (2023) から読むことができます。観測浅部スロー地震、浅部スロー地震域の地震学的構造、浅部スロー地震域の地質・摩擦特性についても、「地震 第2輯」へ和文解説が掲載される予定です。