主要論文説明

論文を加えました。数が増えて「主要」とするには多くなってしまいましたが、以前書いたものはそのままにしてあります。

あるトピックの最初の論文には★をつけました。

pdf版

★ Energy of a knot, Topology 30 (1991), 241-247

この論文で、結び目のエネルギーの概念を導入し、最初の例Eを定義した。この研究の動機は、結び目全体のなす空間上に「エネルギー」を定義し、各結び目型の「最良な形」を、その中でエネルギーを最小とする元として与えることができるか、という問題(福原、作間)である。

この結び目のエネルギーEは、荷電した結び目の静電エネルギーの一般化として得られる。このとき、そのままでは積分が発散するので、超関数論の Hadamard 正則化の手法を用いた。但し、結び目が自己交叉しようとすると汎関数が発散するようにするため、クーロン斥力は距離の3乗に反比例する、という仮定を置いた。

後に、Freedman - He - Wang (Ann. of Math. 139 (1994))が E はメビウス変換で不変であることを示し、それを用いて、素な結び目型には$E$-最小元が存在することを示した。一方 Kusner と Sullivan は数値実験により、素でない結び目型の場合は、エネルギーを減らそうとすると、タングルが1点に縮んでしまい結び目型が変わってしまい、$E$-最小元が存在しない、と予想している。

この論文以降、Auckly, Sadun, Kusner, Sullivan, Lin, Brylinski などにより、結び目のエネルギー$E$の様々な一般化が研究された。

また、数値実験もDNAの研究グループなどによりなされている。 その意味でこの論文は、幾何学的結び目理論という、結び目不変量を研究するのではなく、個々の結び目の埋め込み写像としての幾何学的な複雑さ(を測る汎関数)を研究する分野の発端であると言える。

Family of energy functionals of knots, Topology Appl. 48 (1992), 147-161

Energy funcitonals of knots II, Topology Appl. 56 (1994), 45-61

上の論文で定義したエネルギーを含むような、結び目のエネルギーの2パラメータ族を定義した。エネルギーの指数が2を超えるとスケール不変ではなく、結び目への制限が強くなり、より強い主張、例えば全ての結び目型にエネルギー最小元が存在する、が成立する。

近年エネルギーの解析的研究が盛んになされるようになって、引用が増えてきた。

★ (with R. Langevin) Conformally invariant energies of knots, J. Institut Math. Jussieu 4 (2005), 219-280

Langevin 氏が積分幾何学の手法で定義した汎関数が、メビウス変換で不変な結び目のエネルギー汎関数になることから、同じようにメビウス変換で不変な結び目のエネルギーである $E$ と関係があるのではないかと考え、1999年から共同研究を始めた。

結び目$K$の上の$4$点 $x$, $x+dx$, $y$, $y+dy$を通る球面を複素球面とみなすことにより、その$4$点を$4$つの複素数とみなす。それらの非調和比をとると、それは、$K\times K\setminus \triangle$ (但し、$\triangle$は対角成分)上の複素値$2$次微分形式と捉えるこ

とができる。これを結び目の無限小非調和比と呼ぶ。これは、第$1$階の微分迄を考慮に入れた場合の結び目の$2$点の対の唯一のメビウス不変量である。

この無限小非調和比の実部は、$S^3\times S^3\setminus \triangle$を、球面の余接束$T^{\ast}S^3$の全空間と同一視して、余接束の標準的なシンプレクティック形式を、包含写像$K\times K\setminus \triangle\hookrightarrow S^3\times S^3\setminus \triangle$により引き戻したものとなる。従って特に完全形式になる。(虚部は余次元2の球面全体のなすグラスマン多様体のケーラー形式になる)

結び目のメビウス不変なエネルギーの幾つかを無限小非調和比を用いて表すことが出来る。

(a) 文献[1]で与えた結び目のエネルギー$E$は、無限小非調和比の絶対値と実部の差を$K\times K\setminus \triangle$上積分したものになる。

(b) $S^3$ の中の向き付けられた$2$次元球面全体の集合にはメビウス不変な測度が入る。与えられた結び目と$4$点以上で交わる球面全体のなす空間の、重複度込みの体積を考える。これが、結び目のエネルギー汎関数になることを示し、さらに、無限小非調和比を用いて $K\times K\setminus\triangle$上の積分として表す公式を得た。この量は自明な結び目と非自明な結び目を区別できる、という Fary-Fenchel-Milnor タイプの定理をが成立する。

(with Remi Langevin) Conformal arc-length as 1/2-dimensional length of the set of osculating circles, Comm. Math. Helv. 85 (2010) 273-312

擬リーマン多様体の中の零的曲線の1/2-次元的弧長要素を定義し、以下の応用を与えた。

$C$を$\mathbb R^3$の曲線とし、$\varGamma_C$を$C$の接触円全体の集合とする。このとき、

(a) $\varGamma_C$は$\mathcal{S}(1,3)$($\mathbb R^3$の有向円全体の集合)の零的曲線となる。

(b) $\mathcal{S}(1,3)$の零的曲線が、$\mathbb R^3$のある曲線の接触円全体の集合となるための必要十分条件を与えた。

(c) $C$の頂点は$\varGamma_C$の$\frac12$-次元的弧長要素が消える点に対応する。

(d) $\RR^3$の曲線はメビウス変換を除いて、共形的弧長、共形的曲率、及び共形的れい率の3つで決まることがFialkowにより示されている(1942)。$C$の共形的弧長は$\varGamma_C$の$\frac12$-次元的弧長要素の引き戻しのある定数倍と等しい。

★ Renormalization of potentials and generalized centers, Adv. Appl. Math. 48 (2012), 365-392

ポテンシャル論では、Rieszポテンシャルと呼ばれるものが、M. Riesz とFrostmanにより前世紀前半に研究された。これは、$\mathbb R^m$の領域$\Omega$が与えられた時、$0<\alpha<m$に対し、距離$r$の$\alpha-m$乗の$\Omega$上の広義積分$\displaystyle V^{(\alpha)}_\Omega(x)=\int_\Omega|x-y|^{\alpha-m}dvol(y)$として定義される。

$\a\le0$で$x\in\Omega$の場合は積分が発散するが、ここに結び目のエネルギーを定義するときに用いた Hadamard 正則化を適用すると、$\vect{r^{\alpha-m}}$-ポテンシャルの正則化を$\mathbb R^m\setminus\partial\Omega$上で定義することができる。$\alpha\ge m$の場合は、(広義積分でない)通常の積分で定義できるので、結局$\alpha$をパラメータとして、ポテンシャルの$1$-パラメータ族$V^{(\alpha)}_\Omega$ができる(ただし$\alpha=m$の場合は$r^0\equiv 1$の代わりに$-\log r$をとる)。特に領域が凸体の場合には、Lutwakによる双対体積になることが分かり、凸幾何学・積分幾何学との関連が生じた。

次に、$\mathbb R^m$で($\alpha\le0$の場合は$\Omega$の内部で)このポテンシャルの最大($\alpha\le m$)または最小($\alpha> m$)を与える点を、領域$\Omega$の$r^{\alpha-m}$-中心と呼ぶことにする。

$\alpha=m+2$の場合は、領域$\Omega$の$r^{2}$-中心は唯一つ存在し、重心になる。また、$m=2$, $\alpha=0$で$\Omega$が三角形のときは、福岡大学の柴田先生が最近提唱した灯心になる。特に領域が凸体で$\alpha\ne0$の場合には、Moszy\'nskaによる輻射中心になる。

$\alpha\ge m+1$の場合は任意のコンパクト領域に対してその$r^{\alpha-m}$-中心は唯一つ存在するが、一般には、唯一性は成立しない。

領域が凸ならば$\alpha\le 1$のときに$r^{\alpha-m}$-中心の唯一性が成立することを示した。さらに$r^{\alpha-m}$-中心のとりうる範囲を、解析の moving plane method を用いて特徴付けし、 minimal unfolded 領域と名付けた。同じものがPDEを研究しているイタリアのMagnanini達のグループによって、凸体に対してほぼ同時に独立に得られている(ハートと呼ばれている)。

(with Gil Solanes) Mobius invariant energies and average linking with circles, Tohoku Math. J. 67 (2015), 51-82

平面領域に対し、上ので記した$r^{-4}$-ポテンシャルの正則化を考え、これをその領域上で積分すると、境界で発散する。そこでもう一度繰り込みを行うと、その領域のエネルギーを得る。これはメビウス変換で不変になる。このエネルギーは、この領域$\Omega$の境界を平行に$\delta$だけ内側にずらして得られる領域を$\Omega_\delta$とおくと、$\Omega_\delta\times\Omega^c$ ($\Omega^c$は$\Omega$ の補集合)上で、無限小非調和比の実部(虚部でもよい)二つの外積を積分し、$\delta$を$0$にする極限で Hadamard 正則化を行うことによっても得られる。

この手続きをまず2成分絡み目のザイフェルト面に適用し、次にその二つの成分を一致させる極限で再び繰り込みを施すことにより、結び目に対するメビウス不変な量が得られる。この量は、空間内の円全体を考え、円と結び目の絡み数の二乗を、円全体のなす空間に自然に定まる測度に関して積分したもの(これも発散する)を繰り込んだものと等しいことが分かる。これらの研究には積分幾何学や双曲空間でのガウス・ボンネなどを用いる。

★ (with Gil Solanes) Regularized Riesz energies of submanifolds, Math. Nachr. 291 (2018), 1356-1373

ユークリッド空間の中のコンパクトな多様体(閉部分多様体または余次元0のコンパクトボディ)のエネルギーを、Rieszエネルギーの拡張として、Hadamard 正則化を用いる方法と解析接続を用いる方法で、発散積分から有限の値を取り出すことにより定義した。

奇数次元閉部分多様体、および偶数次元コンパクトボディについて、指数が多様体の次元の(-2)倍のエネルギーはメビウス変換で不変であることを示した。