『わたしたちがさらに見つめる先 ─視線認知をめぐる先端研究(二度見)─』
What our eyes are still aiming for:
Frontiers in the cognitive studies of gaze (a double take)
■企画の趣旨
私たちは視線を用いてさまざまな行動をくり広げる。それは私たちが見つめる先に
他者の心が存在するからだ。社会的認知研究の高まりをうけて,90年代から共同注意
などの他者の視線理解の研究が発達心理学や比較認知科学において進展した。
その流れは90年代後半から2000年代にかけて,視線によりトリガーされる社会的注意の
問題などに代表される形で,認知心理学や神経科学などとも連携しつつ広がっていった。
この流れを総括するため,昨年の第77回大会においてシンポジウム「わたしたちが
見つめる先 ─視線認知をめぐる先端研究─」を開催した。乳幼児や非定形発達者,
社交性不安に関する視線利用,監視状況における課題達成成績,ロボットの視線に
対する反応,共同注意に係る脳神経活動の同時計測など先端研究の紹介が行われた。
本シンポジウムでは,視線認知研究のさらなる発展を概観し,私たちが見つめる先に
ある視線研究の未来を再び展望したい。
■当日スケジュール
前半司会: 奥村優子(NTTコミュニケーション科学基礎研究所 )
15:30-15:35
企画趣旨:松田昌史(NTTコミュニケーション科学基礎研究所 )
15:35-15:55
●小川洋和(関西学院大学文学部総合心理科学科)
『視線はまるでレーザービーム ―視線認知と選好処理の関係―』
我々は他者の顔から様々な情報を読み取ることができるが,その中でも視線の認知は共同注意などの
協調行動を伴う社会的インタラクションの基盤になっていると考えられている。
本話題提供では,ある人物の視線方向の認知がその人物自身あるいは視線を向けた対象への
選好処理に与える影響について検討した研究知見をいくつか報告する。
それらを基に,単純接触効果などとの比較から,視線による選好変化の特殊性について議論する。
15:55-16:15
●佐藤弥(京都大学霊長類研究所白眉プロジェクト)
『意識上・意識下の視線による注意シフトの心理神経メカニズム』
ヒトは他者の視線に釣られつい同じ方向を見る。
この視線による注意シフトについて,視線刺激を閾上・閾下で呈示して調べた一連の研究を紹介する。
心理実験の結果,閾上・閾下の視線ともに注意シフトが示されパタンには差異も示された。
fMRI実験の結果,閾上・ 閾下の視線処理に一部は共通し一部は異なる神経基盤の関与が示された。
こうした知見を まとめ,意識上・意識下の視線による注意シフトの心理神経メカニズムを論じる。
16:15-16:35
●加藤正晴 (NTTコミュニケーション科学基礎研究所)
『視線パタンからわかる顔認知機能の発達,あるいは乳幼児および自閉症者の視線パタン』
「顔」は,私たちにとって特別な刺激である。
本研究では私たちの顔に対する特別な処理機構の存在を視線パタンから明らかにしたい。
最初に,乳幼児を対象として顔画像に対する視線パタンの発達を報告し,
次に,顔認知が不得意とされる自閉症者の顔画像に対する視線パタンの様子を報告する。
以上の報告を通じて,視線パタンという時系列に埋めこまれた情報の有効性について議論する。
16:35-16:55
●中澤篤志(京都大学大学院情報学研究科)
『角膜イメージング法-視線検出を超えた視野計測法』
近年工学分野,とくにコンピュータ画像認識分野では,角膜に写ったシーン像を解析し人の視野を計測する「角膜イメージング法」が開発されている。
これにより,従来の視線検出の問題点が解決できるのみでなく,周辺視野等の計測も可能となる。
本講演では,私が取り組んできた角膜イメージング法技術と共に,新たな視野情報の利用可能性,工学分野での視覚研究や米国での画像認識を利用した自閉症児に関する研究等を紹介したい。
後半司会: 友永雅己(京都大学霊長類研究所)
16:55-17:15
指定討論:本間元康(昭和大学医学部)
17:15-17:30
全体討論