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『ImageJではじめる生物画像解析』のねらい

ImageJはウェイン・ラズバンドが開発しているパブリック・ドメインの画像処理・解析ソフトである。多くの生物学研究者が研究に使用しているため、生物学において画像を扱う際の事実上の標準的なソフトとなっている。

ImageJがこのようにポピュラーになったことにはいくつかの理由があるだろう。一つには、ImageJの開発が、生物学で使われる顕微鏡技術のデジタル化と並行して起きたことにある。広く知られているように、デジタル化した顕微鏡システムはこの20年の間に目覚ましい発展を遂げた。これはより小さくより安価なっていったコンピューター、ノイズの少ないデジタルカメラの登場と、GFPを細胞に発現させ、生きたままの状態でラベルする技術が発達したことによる。これらの技術的な展開は定量的な画像解析の飛躍的な発展を可能にした。近代に科学が登場して以来、生物学者たちは数を数え、形を測定し、分布の比較を行なってきたが、さらにデジタル画像技術は時空間に展開する生物システムの複雑なダイナミクスをそのまま測定することを可能にしつつある。ImageJは生物学のこの大きな転換期に発展してきたのである。

ポピュラーになったことのさらなる理由は、その柔軟な設計思想にあるだろう。マウスによる容易な画像処理を可能にしたGUIが多くのユーザーにとって直感的で親しみやすかったこととや、あらたな機能をプラグインとして付け加えることができる柔軟な設計といったソフトのデザインにあったといえる。この柔軟性は、それがJava言語でかかれたオープンソースのソフトであることがベースになっている。

オープンソースであるということは、誰でもそのソースコードにアクセスすることができるということである。したがって誰もがそのプラグインの開発を行うことが可能である、ということを意味する。Java言語で書かれているということは、OS依存性が低いということである。ウィンドウズ、OSX、Linux、といったいずれのOS環境でもほぼシームレスに同じように作動する。さらにJava言語を学ぶのはちょっと、というユーザーのためには、ImageJが搭載しているマクロ言語機能によって、作業を自動化したり、それぞれの目的のために画像処理・解析のプロトコールをカスタマイズすることが可能である。

科学研究に使われるツールの柔軟性はとても重要なことである。科学におけるあらゆるプロジェクトは独自であり、オリジナルである(というよりも科学ならばそうであるべきだろう)。したがって、それらの研究で使われる画像解析もまた、なんらかのオリジナリティが要請されることになる。画像解析の過程でつかわれる基本的な画像処理アルゴリズムや操作は共通である。しかしプロジェクトの目的を達成するためにはこれらの基本的な部分を組み合わせ、なんらかのチューニングとそれぞれの研究者による工夫が必要になるのであり、柔軟性は不可避の要件となるのである。

『ImageJではじめる生物画像解析』は以上のような背景のもとに、生物学者がImageJで画像解析を行うために必要な知識とテクニックを紹介したいと考えている。