今から四十年ほど前、安濃川の上流部を安濃ダムによって堰き止め、人工的に作られた湖が錫杖湖です。
安濃ダムは梅ヶ畑集落上流部の花崗閃緑岩の強固な岩盤上を200m以上に渡って70mほどの堰堤で堰き止め、河内谷に東西約2km 南北300mほどの幅で貯水を行います。
嘗てこのダムの在った場所には誠に美しい渓谷美を持った河内谷が存在したのですが、今は湖底に沈んでしまい見る影もありません。
安濃ダム建設計画当初の目的は洪水調節と水資源の確保にありましたが、建設当時には既に工業用水の需要の多くは失われ、予定された土建利権を実現することが主眼となっていましたから、自然が何百万年の歳月をかけて刻んだ谷を湖底に沈めてしまう暴挙には腹立たしさを覚えたものです。
ダム湖は周囲5km以上の広がりをもつ湖だけに四季折々に場所を選べば美しい風景を見せる (2018.4.4 )
現在ダム湖の周囲にいくつかの観光スポットが作られていますが、本来ダム湖の宿命で、必要に応じて水量調整行う人工的な湖は、時期による湖面の水位変化が著しくて環境も生態系も安定せず、減水時には醜い湖岸や湖底が剥き出しになります。
そのような時期には湖底の堆積土砂の削除も行われて、およそ観光とは縁遠いような環境となります。
2015年、築後何十年も湖底に埋まっていた笹子川下流の砂防堰堤を突如掘り返すほとんど意味のない工事が行われていた。この谷の上流ではもう30年以上美里へ抜ける林道工事が実施されているが、架橋したコンクリート製の橋を放棄するなど怖ろしい無駄金が注ぎ込まれている。納税者にとって山中に保全もできない道をつける意味は何もない
2015.9月の渇水時の湖水荘前の写真 ダム湖には上流河川より年々おびただしい量の土砂が運び込まれて堆積する。適時土砂を取り除いていかないと湖が埋まって貯水能力が減少してゆく。
上三枚は2013.6月の渇水。貯水能力の20~30%に減水しているだろう
観光を目的で訪れる者にとって幸いなことに渇水期は行楽シーズンを外れることが多く、普段は水位の差こそあれある程度の湖水を湛えているのが救いです。
湖の周囲には駐車場や遊園地、レストハウスなどが作られていますから、小さい子供を持った地元の家族連れにとっては手軽に楽しむ事のできる身近な観光スポットとして利用されています。
湖岸周回道路北側よりのダム堰堤側の眺め(2014.11.27 )
多くの人に最もよく利用されるのは湖の西の 「ふれあい公園」で、湖に突き出た195mの三角点を持つ小山に登れば湖を一望できます。
高台にあるふれあい公園は良く目立つ。下にある駐車場も広い (2018.4.1 )
ふれあい公園の遊園地 (2017.11.13 )
この公園は駐車場も広く、山上に遊具の有る小さな遊園地やテニスコートもあり、トイレは二箇所にあります。またレストハウスの湖水荘も隣接しています。
湖水荘から前の道路を南へ400m程歩いてゆくと笹子トンネルの手前に、上の地図上で私が「岬の公園」と名付けた小高い丘の上の公園へ通じる入り口があります。
ふれあい公園より見た「岬の公園」中央左手、湖面に突き出た岬の手前にある
右手の丘の上の施設が「岬の公園」左の橋は笹子橋。その右にトンネルがあり、そこを抜けると右手に「岬の公園」へと通じる入り口がある
この公園は湖に突き出た小高い丘の上にあって敷地も広く、周囲の見晴らしも良かったのですが、駐車場がないためか殆ど利用する者もなく、周囲の木立も伸び茂って年々寂れてゆく様子は残念なところです。
岬の公園よりの湖水荘。背後の円錐形の山は錫杖ヶ岳 (2013.4.25 )
岬の公園よりの錫杖ヶ岳・ふれあい公園・杖立橋。橋は湖岸道路の北岸と南岸を結んでいる (2013.11.30 )
岬の公園より湖北岸の展望。中央左手は湖岸道路沿いに有る展望台 (2013.11.30 )
岬の公園より東方の眺望。谷筋の先に安濃ダムの堰堤が見えている (2013.4.25 )
ダム堰堤のある湖の東岸には堰堤の手前に錫杖湖エントランス園地があります。四阿風の見晴らし台なども有りダム湖東岸から錫杖ヶ岳の聳える西方を眺望するのに良い場所です。
ダム湖東岸、堰堤の西に造られた展望台。遊園地のある西岸に比べてこの辺りを訪れる人は少ない
エントランス公園展望台 ( 2006.11.18 )
エントランス公園 ( 2014.4.25 )
錫杖湖エントランス園地より、錫杖湖の背後に聳える錫杖ヶ岳。700mに満たない低山だが、花崗岩の露出した山頂部は思いの外険しい
エントランス公園へと通じる道路は堰堤へと通じており、堰堤上部を通ってダム湖の北岸と南岸を行き来することができます。。
これらの公園以外にも、湖の周囲を巡る道路脇には、所々に駐車場を備えた小さな休憩スペースが設けられています。
ただ南岸道路の休憩場所では湖面側に木立が生い茂って湖の見晴らしが得られませんが、駐車場を離れて歩き回れば色々見晴らしの良い場所がみつかります。
一方、湖の北側では割合木立が少なく、対岸の風景を楽しめる場所が何箇所もあります。
湖岸道路北側の展望台よりみた湖水荘・ふれあい公園・錫杖ヶ岳
湖岸道路北側より対岸の笹子橋を望む。背後左の尖頭は北笠岳
湖岸道路北側よりの笹子橋と岬の小島 ( 2008.11.29 )
逆光の錫杖湖 (2006.11.16 )
湖岸道路北側よりのエントランス公園の展望台
晩秋の湖岸周回道路北側 ( 2006.12.2 )
晩秋の湖岸道路南側より。右の建物は旧津高艇庫 ( 2006.11.18 )
晩秋の湖岸周回道路南側 ( 2006.11.21 )
晩秋の湖岸周回道路南側駐車場より ( 2006.11.16 )
湖岸には公園の周囲を中心にして多くの桜があり、あちこちで花を楽しむことができます。中でも私が好きなのは笹子橋から笹子谷への入り口で、桜花と湖面の対比が美しい場所です。
この谷の上流からは南に聳える経ヶ峰への登山道があります。これは現在芸濃町側からのルートのはっきりとした唯一の経ヶ峰登山コースとなっています。
芸濃側からの経ヶ峰登山にはこの他にも黒曽川から登るルートや宝並川沿いのルートがありますが、黒曽川からは尾根へ抜ける道が分かりづらく、宝並川からは稲子山までほぼ道は失われていますから道はないものとして歩かなければならず、山歩きに慣れていないとまず無理です。
笹子川林道・経ヶ峰登山道口 右端鉄橋は笹子橋(2014.4.10 )
笹子橋より笹子川河口部 ( 2018.4.9 )
笹子川河口より見た笹子橋 2013.11.30
錫杖湖と錫杖ヶ岳
錫杖湖は安濃川上流の河内谷に10年以上の歳月をかけて造られた安濃ダムによる人工湖です。その湖の北西にはダムの由来となった錫杖ヶ岳の尖頭が望まれます。
錫杖湖東岸より眺めた錫杖ヶ岳。錫杖ヶ岳は鎌ヶ岳や釈迦ヶ岳など鈴鹿山脈の多くの山と同様に隆起した花崗岩からなり、雨水の浸食に弱いため岩盤の崩落によって先端の尖った鋭い山容をみせる
錫杖ヶ岳は676mと標高は低いのですが山頂部分はかなり傾斜がきつくなります。錫杖湖の周辺からも割りと良く整備された登山道がありますから簡単に錫杖ヶ岳へ登ることができます。
北畑集落の先から安濃川を渡渉して柚木峠経由で登る道、下ノ垣内橋より本法寺裏から登る道、下ノ垣内橋から安濃川を少し東に下って谷沿いに登る道があります。
よく利用されるのは下ノ垣内・本法寺脇の登山口から登るもので他の道は慣れないと道を謝ることがあります。登山口標高は180m程ですから500m程度の登りです。
駐車場も方々にありますからふれあい公園駐車場からでも1時間半ほどで手軽に登って楽しむことができます。