ユビキタスジェノタイピング(全個体遺伝子型解析)

生育地に残存する種内の全個体の遺伝子型を決定することをユビキタスジェノタイピング(ubiquitous genotyping) と呼び、この手法に基づいて、絶滅危惧種を適切に保全しようという研究をすすめています。

自然環境に対する人為インパクトの増大に伴って、多くの生態系で生物多様性が低下しつつあります。たとえば、日本には約7000種の維管束植物が知られていますが、そのうちの実に24%が、何らかの形で絶滅のリスクに晒されています。

このような状況から、生物多様性の重要性は近年認識されるようになり、生物多様性条約、生物多様性国家戦略、種の保存法、世界植物保全戦略、モニタリング1000、自然再生事業等々、自然保護や生物多様性保全のために様々な取り組みがなされるようになりました。

しかしながら、実際の保全活動において、詳細な遺伝情報を活用している事例はそれほど多くなく、例えば、

    • 特定の系統を大量増殖して、野生に植え戻す事

    • 種内の遺伝的分化を考慮しない移植

    • 個体間の血縁度を考慮しない人工交配

    • 近縁種や園芸種との交雑による遺伝子汚染

等々、保全活動が逆に遺伝的な問題を生み出している例も少なくありません。そこで、現存する個体が、数十、あるいは数百個体にまで減少した生物種を 対象に、残存するすべての個体を対象に、生育位置、繁殖状況、遺伝子型を決定し、遺伝子型の包括的モニタリングに基づく新たな生物多様性保全のアプローチ をおこなっています。ユビキタスジェノタイピングを行うことで、まず、

    • クローン構造

    • 遺伝的多様性

    • 個体群内の遺伝構造

    • 個体群間の遺伝的分化

    • 繁殖様

    • 交配範囲

    • 遺伝子流動の量とパターン

    • 近交係数

    • 血縁度

等の基礎的遺伝的特性を、絶滅危惧種について得ることができます。更に、これらの情報や各個体の位置情報、繁殖状況を活用することで、

    • 更新個体の遺伝的特徴の評価

    • クローン構造の解明と遺伝的な個体数の検出

    • 盗掘防止策の構築

    • 近交弱勢リスクを防ぐための適切な花粉親・種子親の選定

    • 遺伝的分化を考慮に入れた適切な移植範囲の設定

    • 遺伝的変位の空間的な分布に基づく効果的な保護地域の設定

    • 遺伝子汚染の検出と防止

等を行うことが可能になり、絶滅危惧種の保全上、きわめて有用な情報を得ることができます。