パラバサリア類におけるATG8-ATG12 結合系の多様性
オートファジーは真核生物に広く保存された細胞内品質保持機構であり、オートファゴソームを介して損傷オルガネラを分解する。オートファゴソーム形成にはATG8 およびATG12 結合系が必須だが、ヒト病原性原生生物Trichomonas vaginalis では⻑らくATG12結合系が欠損していると考えられてきた。Lin et al. (2025) によりその存在が示されたため、本研究ではT. vaginalis のATG12 結合系が独自に獲得されたものか、パラバサリア類に普遍的かを検討した。複数のパラバサリア類を用いたトランスクリプトーム解析により、T. vaginalis 近縁群のみならずシロアリ共生性原生生物からもATG12 結合系因子を検出した。さらに分子系統解析からこれらの因子は単系統を形成しパラバサリア類の共通祖先に由来すると示された。
食品由来寄生性原生生物感染症における海生二枚貝類のリスク
トキソプラズマをはじめとする食品由来寄生性原生生物感染症の感染源として貝類の生食に大きなリスクがあることが最近明らかになりつつあり、実際世界各地で分離された二枚貝類からトキソプラズマやクリプトスポリジウム、ジアルジア等の寄生性原生生物が検出されている。しかしながら、魚介類を含む多くの食材の生食を好む特徴的な文化を持つ本における実態はまったく不明である。そこで我々は日本における海生二枚貝類の原虫汚染度の調査を開始することとし、まずはカキと鶏コクシジウム(Eimeria necatrix)オーシストをモデルとした実験室内感染系の開発およびカキを標的としたトキソプラズマの汚染率調査を試みている。
真核生物におけるDNA ポリメラーゼθ の多様性とユーグレノゾア特異的ミトコンドリアDNA ポリメラーゼPolIA の起源
PolIA は,ユーグレノゾアに特有のミトコンドリア局在ファミリーA DNA ポリメラーゼ(DNAP)であり,汎真核的分布をもつ核局在性DNAP(Polθ)とPolIA 間に近縁性があると提唱されている.しかし,汎真核的分布DNAP から系統特異的PolIA がどう出現したか,今のところ未解明である.本研究ではPolIA 起源の解明を目指し,どんな生物由来のPolθ がPolIA と近縁性を示すかを検討した.本研究で⾏った解析結果に基づき,祖先ユーグレノゾアは2 つの異なるPolθ 遺伝子をもち,PolIA は片方のPolθ 遺伝子の重複とその後の機能分化により成立したと提唱する.
非光合成性ストラメノパイル類の⻘色光受容タンパク質とその進化
ストラメノパイル類は多様な生態学的特性および形態を有する真核生物からなる巨大分類群であり、不等毛藻類と呼ばれる光合成性単系統群を含む。不等毛藻類には光合成に適した光馴化や形態形成に関与するAureochrome と呼ばれるLOV およびbZIP ドメインを有する⻘色光受容転写因子が知られている。本タンパク質は不等毛藻類特異的タンパク質であり光合成能進化との関連が指摘されてきた。しかし、不等毛藻類がどのような進化を経てAureochrome を獲得したのか詳細は不明である。本研究では、RNAseq と細胞内局在解析から琵琶湖由来新規ストラメノパイル類非光合成性種などにもAureochrome 様遺伝子が存在することを報告し、ストラメノパイル内におけるAureochrome と光利用能の進化過程を考察する。
腟トリコモナスのATG8-ATG12結合系因子の起源の推定
オートファジーは真核生物の誕生初期に獲得された細胞内品質保持機構であり、損傷や老化したオルガネラやタンパク質をオートファゴソームを介して分解する仕組みである。動物や酵母ではその分子機構が詳細に解明されてきた一方、他の真核生物系統ではオートファジー関連因子(ATG)の有無すら未解明な種が多い。
腟トリコモナス(Trichomonas vaginalis)は、ヒトに感染する代表的な寄生性単細胞真核生物であり、それが所属するパラバサリア類は、シロアリ共生種などを含み、多くの構成メンバーが共生/寄生性を示す嫌気性の真核生物の一系統である。これまで腟トリコモナスでは、オートファゴソーム形成に必須なATG8結合系因子は同定されていたものの、ATG12結合系因子は確認されず、パラバサリア類全体でATG12結合系因子群が欠損していると考えられてきた。しかしLin et al. (2025) により、腟トリコモナスにおけるATG12結合系の存在が実験的に証明された。
本研究では、このATG12結合系因子群が腟トリコモナス特有のものか、あるいはパラバサリア類全体に保存されているのかを明らかにすることを目的とした。複数のパラバサリア類トランスクリプトームデータを解析した結果、腟トリコモナス近縁群のみならず、シロアリと共生する系統からもATG12結合系因子群が検出された。これらの分子系統解析の結果、これらの因子はパラバサリア類内で単系統を形成し、共通祖先に由来することが示された。
我々は、初めてパラバサリア類から大規模にATG8およびATG12結合系因子を検出し、これらが共通祖先から保持されてきたことを明らかにした。従来、腟トリコモナスでATG12結合系が検出されなかったのは、パラバサリア類においてこれらの因子が独自に高度な進化を遂げていたためと考えられる。
食品由来寄生性原生生物感染症における海生二枚貝類のリスクの検討
トキソプラズマをはじめとする食品由来寄生性原生生物感染症の感染源として貝類の生食に大きなリスクがあることが最近明らかになりつつあり,実際アメリカおよび台湾においてトキソプラズマ感染と貝類の生食に統計学的な相関があることが示され,また世界各地で分離された魚介類,特に二枚貝類からトキソプラズマやクリプトスポリジウム,ジアルジア等の寄生性原生生物が検出されている.しかしながらこれらの調査は数的にいまだ充分ではなく,魚介類を含む多くの食材の生食を好む特徴的な文化を持つ日本における実態はまったく不明である.そこで我々は日本における海生二枚貝類の原虫汚染度を調査するための前段階として,寄生性原生生物の二枚貝類への取り込みおよび濃縮機序の解明を目的として,カキと鶏コクシジウム(Eimeria necatrix)オーシストをモデルとした実験室内感染系および定量PCRを用いた検査系の開発を試みている
Glissandra oviformis, a previously overlooked CRuMs member, provides the first insight into the character evolution of this “supergroup-compatible” clade in eukaryotes.
Prior to this study, Glissandra was one of many protists with uncertain phylogenetic affiliations. In 2013, we established the laboratory culture of a new species of Glissandra, G. oviformis n. sp., from a single cell isolated from a seaweed sample collected in the Republic of Palau. Our study based on the laboratory culture of G. oviformis successfully provided high-quality RNA-seq data and detailed microscopic observations. The phylogenetic analyses using 340 protein-coding genes retrieved from the RNA-seq data placed G. oviformis within the CRuMs clade. Electron microscopy observations revealed that G. oviformis shares the ultrastructural characteristics with previously known CRuMs members, such as the pellicle underlying the plasma membrane and an internal sleeve surrounding the central pair of the axoneme at the flagellar transitional region. This study clarified the precise phylogenetic affiliation of Glissandra and provided the first insights into the morphological characteristics inherited from the ancestral CRuMs cell.
Morphology, ultrastructure, and molecular phylogeny of a novel CRuMs amoeboflagellate
CRuMs represent a major eukaryotic lineage comprising morphologically diverse heterotrophic amoebae and flagellates. However, their morphological and phylogenetic diversity remains poorly understood, and no clear synapomorphies have been identified to date. In this study, we present a culture of novel marine amoeboflagellate, strain SRT605. This strain exhibits two distinct morphologies: a spherical amoeboid form (~5 μm in diameter) with well-developed branching filose pseudopodia, and an oval, biflagellated cell (~3.7 μm in length) that moves by gliding. Transmission electron microscopy revealed mitochondria with flat cristae and small, electron-dense granules-containing vesicles located just beneath the cell surface. Basal bodies were retained in the amoeboid cell. A phylogenomic analysis based on 328 protein-coding genes placed SRT605 within the CRuMs clade, with a specific affinity to Mantamonas. Combined, we will discuss diversity and character evolution within CRuMs.
コムギの土壌病害感染評価のためのVirome解析
土壌病害発症の評価は達観やELIZAによる評価が主流となっているが、圃場における土壌病害発症は必ずしも一様ではないことから、評価結果と一致しない場合がある。また土壌病害研究を圃場で行う際には、病害汚染圃場を用いているが、病害発生が突然生じなくなるケースもあり、その動態については不明な点が多い。我々は、土壌病害研究に用いている植物が実際に土壌病害ウイルスに感染しているのか評価するため、次世代シーケンス(NGS)技術を用いた病害感染評価法の構築と検証を行った。Kraken2を用いた解析プロトコールを構築し、3か所の縞萎縮病汚染圃場で感受性コムギを栽培し、根及び葉から取得したRNA-Seq情報を解析した結果、2か所の汚染圃場由来のサンプルではそれぞれ3反復実験のうち、2個体のサンプルから縞萎縮病ウイルスが検出できたが、達観による評価で病徴が確認されなかった圃場由来のサンプルからは、病害ウイルスが検出されなかった。