* = Equally contributed authors, † = corresponding author(s)
Exceptional stabilization of charge-transfer complexes in Schistosoma mansoni sulfide: quinone oxidoreductas
Kabongo A. T. et al., 2026, Free Radic. Biol. Med., DOI: 10.1016/j.freeradbiomed.2026.01.063
本研究では腸管静脈という高濃度硫化水素(H₂S)環境に適応した寄生性吸虫 Schistosoma mansoni において、硫化物キノン酸化還元酵素(SQOR)の反応機構を生化学的・分子レベルで解析した。解析の結果、寄生虫型SQORはヒトや細菌のSQORとは異なり、硫化物、キノン、硫黄受容体を同時に必要とする四者複合体依存的な触媒機構を有することが明らかとなった。本研究は、宿主とは異なる寄生虫特異的な硫黄代謝戦略を分子機構レベルで示すとともに、硫化物耐性やエネルギー代謝適応の理解を深め、新規抗寄生虫薬開発に向けた基盤的知見を提供するものである。
矢崎はSQORの分子系統解析などの分子進化的な解析に関与しました。
Protists with Uncertain Phylogenetic Affiliations for Resolving the Deep Tree of Eukaryotes
Yazaki E. et al., 2025, Microorganisms, DOI: 10.3390/microorganisms13081926
special issue: Exploring Microbial Evolution: From Cellular Dynamics to Phylogenetic Branching
本論文では、これまで orphan protist や incertae sedis などとして曖昧に扱われてきた、系統的帰属が不明確な原生生物群を Protists with Uncertain Phylogenetic Affiliations(PUPA) と定義し、その概念を整理した。PUPA の発見史および分類学的取り扱いの変遷を整理するとともに、大規模配列データ解析の進展によって PUPA が系統的位置づけられることで更新されてきた真核生物生命系統樹(eukaryotic Tree of Life: eToL)の現状を概観した。さらに、今後の PUPA 研究における課題と、深部真核生物系統の理解を深化させる上での意義について議論した総説論文である。
矢﨑は責任著者として全体の草稿の作成からまとめまでをおこなった。
Experimental Evidence for Conservation of the Ubiquitin‐Like Autophagy‐Related ATG12 Conjugation System in Trichomonas vaginalis
Lin X. X. et al., 2025, J. Euk. Microbiol., DOI: 10.1111/jeu.70028
本研究では、原生生物Trichomonas vaginalis におけるオートファジー関連因子 ATG12 結合系 の保存性を実験的に示した。従来、ATG12 系は T. vaginalis で失われていると考えられていたが、AlphaFold による構造予測と異種系細胞での機能解析により、候補遺伝子がユビキチン様共役反応を媒介することを実証した。この結果は、培養・遺伝子操作が困難な系統でも ATG 因子の機能を解析する一つのアプローチを示すとともに、進化的に多様な原生生物におけるオートファジーメカニズムの理解を深めるものである。
矢﨑は配列解析などで貢献した。
Glissandra oviformis n. sp.: a novel predatory flagellate illuminates the character evolution within the eukaryotic clade CRuMs
Yazaki E., et al., 2025, Open Biol., DOI: 10.1098/rsob.250057
本研究では、真核生物主要系統 CRuMs に属する新種原生生物 Glissandra oviformis n. sp. を海水湖サンプルから培養し記載した。SSU rDNA では系統位置が不明であったが、340 個タンパク質を用いた分子系統解析により CRuMs 内の独立系統として位置づけられた。また電子顕微鏡観察により、細胞膜下のペリクル構造や鞭毛基部構造など、CRuMs 共通の形態的特徴が明らかとなった。本成果は、系統位置不確定原生生物の培養・解析が真核生物進化理解に重要な道を開くことを示す。
矢﨑は配列解析・分子系統解析などを主体的に行い、本論文の根幹部分において貢献した。
Barthelona sp. に続くパラオ共和国で見つかった原生生物の話。
An expanded phylogenomic analysis of Heterolobosea reveals the deep relationships, non-canonical genetic codes, and cryptic flagellate stages in the group
Pánek T. et al., 2025, Mol. Phylogenet. Evol., DOI: 10.1016/j.ympev.2025.108289
本研究では、真核生物の Heteroloboseaの系統進化史を、16 系統から得られたトランスクリプトームデータを含む大規模ゲノム規模系統解析により再構築した。その結果、Heterolobosea の主要な分岐関係を高い支持で復元し、分類体系の再編を提案するとともに、二種の非定型遺伝コード(UAG → グルタミン、UGA → トリプトファン) を初めて同系統内で確認した。また、鞭毛形成に関わる遺伝子の広範な存在と系統特異的な喪失事例の検出により、鞭毛の進化的消失・保持のパターンが明らかになった。本成果は、Heterolobosea の深部系統関係理解を大きく進めるものであり、非標準遺伝コードや形態進化に関する新たな知見を提供する。
Massive RNA editing in ascetosporean mitochondria
Yabuki A et al., 2025, M & E, DOI: 10.1264/jsme2.ME24070
本研究では、Ascetosporea原生生物のミトコンドリアにおける大規模な RNA 編集現象を解析した。これまで未解析であった Paradinida 2 株を培養し、DNA および RNA シーケンシングからミトコンドリア機能とゲノムの存在を明らかにした。解析の結果、Paradinida のミトコンドリアでは機能低下は認められなかったが、A→I および C→U の両型 RNA 編集が大量に生じ、タンパク質コーディング遺伝子ではすべて非同義置換編集であった。また、PPR-DYW タンパク質および ADAR様酵素が関連遺伝子として検出され、ADAR様蛋白がミトコンドリアに局在する可能性が示された。本成果は、原生生物オルガネラにおける RNA 編集の多様性と複雑性を拡張的に理解する基盤情報を提供する。
Dinotoms possess two evolutionary distinct autophagy-related ubiquitin-like conjugation systems.
Yazaki E., 2024, Protist, DOI: 10.1016/j.protis.2024.126067
本研究では、渦鞭毛藻に属し独立した珪藻共生体を有する系統(いわゆる “dinotoms”)において、オートファジー関連ユビキチン様共役システム(ATG システム)の進化的多様性を解析した。RNA-seq データを基に、オートファゴソーム形成に関与する主要 ATG タンパク質(ATG3、4、5、7、8、10、12)を探索した結果、 2 種類の ATG コンポーネントセットが Dinotom 中に共存することを明らかにした。系統解析により、これらはそれぞれ宿主藻類と珪藻共生体に由来することが示され、共生体内でオートファジー関連システムが機能している可能性が示唆された。本成果は、真核生物のオートファジー機構の進化的多様性の理解を深めるとともに、共生関係が細胞内分解経路に与える影響について新たな視座を提供するものである。
Identification and characterization of archaeal-type FAD synthase as a novel tractable drug target from the parasitic protozoa Entamoeba histolytica.
Wulansari D., 2024, mSphere, DOI: 10.1128/msphere.00347-24
本研究では、アメーバ赤痢の病原体である寄生性原生生物 Entamoeba histolytica が必須補因子フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)を合成するために用いる酵素として、古細菌型フラビンアデニンジヌクレオチド合成酵素(FAD synthase;FADS) を同定・機能解析した。系統解析によりこの遺伝子は古細菌由来の水平伝播で獲得された可能性が示された。組換えタンパク質の酵素動態は古細菌由来酵素に類似し、ヒト型とは明確に異なる特性を示した。遺伝子サイレンシングによる発現抑制は細胞内 FAD 低下と増殖抑制を引き起こし、FAD 補因子を必要とするチオレドキシン還元酵素活性の低下を介してメトロニダゾールに対する感受性を高めた。本成果は、E. histolytica に特異的な FAD 合成経路を標的とした新規抗原虫薬開発の基盤的知見を提供する。
Encyclopaedia of family A DNA polymerases localized in organelles: Evolutionary contribution of bacteria including the proto-mitochondrion.
Harada R., 2024, Mol. Biol. Evol., DOI: 10.1093/molbev/msae014
プレスリリース
本研究は、真核生物の細胞内オルガネラ(ミトコンドリア・葉緑体・核様体)に局在する Family A DNA ポリメラーゼ(famA DNAP) の広範な分布と起源を系統的に解析したものである。大規模データを基に構築した DNAP 系統樹により、複数の新規 famA DNAP 型を同定し、それらが細胞内共生イベントや遺伝子水平伝播に由来することを示した。さらに、これらの DNAP タイプの系統分布と細胞内局在の予測から、原核細菌(特に α-プロテオバクテリアやその他の細菌群)が初期真核生物のオルガネラ DNA 複製装置形成に関与した進化的寄与を明らかにした。本成果は、ミトコンドリア・葉緑体の進化とその DNA 複製機構の多様性を包括的に理解する基盤情報を提供する。
Transcriptome data sets of free-living diplomonads, Trepomonas sp. and Hexamita sp.
Kume K., 2023, Microbiol. Resour. Announc., DOI: 10.1128/MRA.00506-23
本論文では、寄生性祖先から自由生活性へ二次的に適応したと考えられているディプロモナド類(Diplomonadida)のうち、Trepomonas sp. NIES-1444 および Hexamita sp. NIES-1440 について、RNA-seq に基づく注釈付きトランスクリプトームデータセットを構築・公開した。これらの配列資源は、ディプロモナド類における生活史(寄生↔自由生活)転換に伴う遺伝子レパートリー変化の検討を可能にし、寄生性の成立・可逆性を含む進化的議論の基盤情報を提供する。
Genome sequencing reveals the genetic architecture of heterostyly and domestication history of common buckwheat
Fawcett J. A. et al., 2023, Nat. Plants, DOI: 10.1038/s41477-023-01474-1
プレスリリース
孤児作物としての価値が高い蕎麦 (Fagopyrum esculentum) の 染色体レベル高精度ゲノム配列を構築し、近縁種 Fagopyrum homotropicum との比較解析を行った。104 個体の野生・栽培系統の再シーケンスデータを統合した系統解析により、転写因子やトランスポゾン、全ゲノム重複が蕎麦の進化史に寄与していることを示した。また、異形花(heterostyly)の崩壊に関与する半接合遺伝子や、チベット東南部集団が栽培蕎麦の起源に関与した証拠を得た。さらに、世界で初めて もち性蕎麦(waxy phenotype) を得る変異体も取得し、ゲノム情報を育種・改良に活用する可能性を示した。本研究は、ソバの進化的遺伝構造の解明と孤児作物における育種戦略の展開に貢献する。
Recent expansion of metabolic versatility in Diplonema papillatum, the model species of a highly speciose group of marine eukaryotes
Valach M., 2023, BMC Biol., DOI: 10.1186/s12915-023-01563-9
本研究は、海洋に広く分布し高い種数を持つDiplonemidsのモデル種 Diplonema papillatum の 全ゲノムおよびトランスクリプトーム配列 を初めて報告するとともに、その遺伝子レパートリーと進化を解析した。280 Mbp 以上の高品質核ゲノムアセンブリと約 32,000 個のタンパク質コード遺伝子を基に、遺伝子ファミリー進化解析を実施し、他のユーグレノゾアと比較して炭水化物分解・アミノ酸代謝関連遺伝子の大規模な拡張がみられることを示した。また、栄養摂取戦略の多様性を支持する分子基盤が明らかとなり、海洋微小真核生物としての代謝柔軟性の進化と生態機能に関する新たな知見を提供した。本成果は、海洋原生生物群集の機能的多様性理解と巨大な未記載多様性の解明に寄与する基盤データを提示する。
Microheliella maris possesses the most gene-rich mitochondrial genome in diaphoretickes
Yazaki E., 2022 Front. Ecol. Evol., DOI: 10.3389/fevo.2022.1030570
本研究では、真核生物大系統群 Diaphoretickes(一次植物、Cryptista、Haptista、SAR などを含む)の系統進化を理解するために、Microheliella maris の完全ミトコンドリアゲノム配列を決定した。61.2 kbp の円環構造を有し、53 のタンパク質コード遺伝子を保持するなど、これまで報告されている Diaphoretickes のミトコンドリアゲノムの中で最も遺伝子数が豊富なゲノムであることを明らかにした。このゲノム情報を基に、ミトコンドリアゲノムの進化と、Cytochrome c 成熟システムの系統分布について議論し、Diaphoretickes を含む主要真核系統のオルガネラ進化理解の深化に寄与する基盤データを提供する。
Comparative plastid genomics of green-colored dinoflagellates unveils parallel genome compaction and RNA editing
Matsuo E., 2022, Front. Plant Sci., DOI: 10.3389/fpls.2022.918543
本研究では、緑色色素体を持つ渦鞭毛藻 3 種(Lepidodinium chlorophorum、MGD 株、TGD 株)の 色素体ゲノム を完全またはほぼ完全に配列決定し、ペディノ藻類由来色素体ゲノムとの比較ゲノム解析を行った。比較の結果、これら 3 種はペディノ藻由来色素体に共通しない複数のゲノム構造的特徴(反転繰返し、欠失、遺伝子重複・融合、遺伝コードの変異、偽遺伝子の存在)を独立に獲得していることが明らかとなった。また、RNA-seq データに基づく配列マッピングにより、3 種全ての色素体遺伝子転写産物に RNA 編集(塩基変換編集)が広く存在することが示され、色素体遺伝子発現後修飾の普遍性が明らかになった。本成果は、緑色渦鞭毛藻における色素体ゲノムの並行的収縮進化と転写後修飾機構の獲得という進化パターンを示し、二次共生色素体の進化理解に重要な知見を提供する。
矢崎は主に各遺伝子の分子系統解析を担当しました。
Evolutionary diversification of the autophagy-related ubiquitin-like conjugation systems
Zhang S., 2022, Autophagy, DOI: 10.1080/15548627.2022.2059168
本研究では、真核生物に保存されたオートファジー関連ユビキチン様結合系(ATG8–ATG12 系)の進化史を明らかにするため、94 種の真核生物由来トランスクリプトームデータを用いた比較解析を行った。その結果、ATG 結合系は真核生物共通祖先において成立していた一方で、ATG10 の喪失や ATG12 の非共有結合型相互作用への移行が複数系統で独立に生じていることを示した。本研究は、オートファジー機構が進化的に高度に可塑的であり、原生生物を含む多様な真核生物で改変されてきたことを示すものである。
The closest lineage of Archaeplastida is revealed by phylogenomics analyses that include Microheliella maris
Yazaki E., 2022, Open Biol., DOI: 10.1098/rsob.21.0376
本研究では、これまで孤立系として位置付けられていた原生生物 Microheliella maris を含む 319 遺伝子配列データに基づく大規模系統解析を行い、M. maris が真核生物の主要系統の一つである Cryptista の基底位置を占めることを示した。また、M. maris と Cryptista を合わせた新規クレード “Pancryptista” を提案し、Pancryptista が 一次植物と姉妹群関係を持つことを示した。この結果、一次植物とPancryptistaからなる “CAM clade(Cryptista, Archaeplastida, Microheliella)” の存在を裏付け、真核生物の深部系統樹再構築に重要な示唆を与えるものである。さらに本研究は、M. maris や Rhodelphis のような 進化的に鍵となる未記載・希少系統を適切にタクソンサンプリングに含めることで、従来の解析では不明瞭であった深部系統関係が解像度高く再構築されることを示した点に特徴がある。本成果は、Archaeplastida 起源の理解を進めるとともに、深部真核生物系統解析における タクソンサンプリングの質そのものが結論を左右しうることを示す代表的事例である。
Signs of the plastid: enzymes involved in plastid-localized metabolic pathways in a eugregarine species
Yazaki E. 2021, Parasitol. Int., DOI: 10.1016/j.parint.2021.102364
本研究では、新規に多足類(ヤスデ・ムカデ)から採取・同定したユーグレガリン類(Eugregarinorida)の原生生物を対象に、トランスクリプトーム解析を実施し、色素体進化の痕跡を検討した。解析の結果、脂肪酸合成やイソプレノイド合成など、通常は色素体局在とされる代謝経路に関与する酵素群が核ゲノム由来遺伝子として保持されていることを明らかにした。これらの酵素は明確な色素体移行シグナルを欠いており、機能的な色素体の存在は示唆されない一方で、色素体喪失後もその代謝系の一部が残存している可能性を示している。本研究は、寄生性原生生物における色素体喪失が一挙ではなく段階的に進行したことを示すとともに、未探索宿主からの新規タクソンサンプリングがオルガネラ進化理解に重要であることを明確に示した研究である。
Yazaki E., 2020. Proc. Biol. Sci., DOI: 10.1098/rspb.2020.1538
本研究では、これまでほとんど情報のなかった原生生物群 Barthelonids について、新規トランスクリプトームデータを用いた分子系統解析を行い、Barthelonids が Fornicata の基部で分岐する独立した系統群であることを示した。さらに、ミトコンドリア関連オルガネラ(mitochondrion-related organelle; MRO)に対応する遺伝子群を解析した結果、電子伝達系や酸化的リン酸化経路を欠き、ATP 産生に寄与しない MRO を有することが強く示唆された。これらの結果は、Metamonada におけるミトコンドリア機能の退縮が単一の経路ではなく、ATP 産生能を完全に失ったオルガネラが初期段階から存在し得たことを示している。本研究は、ミトコンドリア機能の最小化・多様化が真核生物進化の初期段階で起きていた可能性を示すとともに、深部系統に位置する未探索原生生物のタクソンサンプリングがオルガネラ進化理解に不可欠であることを明確にした。
Dinoflagellates with relic endosymbiont nuclei as models for elucidating organellogenesis
Sarai C. et al., 2020, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, DOI: 10.1073/pnas.1911884117
本研究では、日本沿岸から新たに分離・培養した 2 系統の渦鞭毛藻(MGD および TGD)を対象に、形態観察および大規模トランスクリプトーム解析を行い、緑藻由来の色素体および共生体核の名残である nucleomorph を保持していることを明らかにした。両系統では、共生体由来核 DNA の存在が顕微鏡観察および転写産物解析により確認され、さらに 共生体由来遺伝子が宿主核ゲノムへ転移しつつある過渡的状態(進行中の EGT) が実証された。また、18S rRNA および色素体 16S rRNA に基づく系統解析により、これらの緑藻エンドシンビオントが Pedinophyceae(Pedinomonas 近縁)に由来することを属レベルで特定することに成功した。これは、既知の nucleomorph 保持系統(クリプト藻・クロララクニオ藻)では達成されていなかった解像度であり、本研究が示した MGD/TGD 系は、二次共生藻類がオルガネラ化していく過程(organellogenesis)を遺伝子レベルで解析可能な新規モデル系であることを示している
矢崎は主にTGDとMGDの系統的位置を推定する大規模分子系統解析を担当しました。
Záhonová K. et al., 2018, Sci. Rep., DOI: 10.1038/s41598-018-23575-0
本研究では、mTOR シグナル伝達経路の鍵因子である Rheb GTPase に着目し、その膜局在機構の進化的多様性を、原生生物を含む幅広い真核生物系統を対象に比較解析した。Rheb は一般に C 末端の CAAX モチーフに基づくファルネシル化によって膜結合すると考えられてきたが、本研究により、CAAX モチーフの喪失、脂質修飾様式の変化、塩基性アミノ酸クラスターの獲得など、多様な分子的改変が独立に進化していることが明らかになった。これらの結果は、Rheb の膜結合様式が単一の保存的機構に依存しているのではなく、系統ごとに異なる分子戦略によって機能が維持されてきたことを示している。本研究は、**シグナル伝達分子における進化的可塑性(molecular tinkering)**の実例を示すとともに、非モデル原生生物を含めた広範なタクソンサンプリングが、細胞内制御機構の進化理解に不可欠であることを示した。
Kamikawa R. et al., 2018, J. Euk. Microbiol., DOI: 10.1111/jeu.12512
本研究では、三次共生由来のハプト藻色素体を持つカレニア属渦鞭毛藻(Karenia brevis および K. mikimotoi)を対象に、色素体型グリセルアルデヒド-3-リン酸脱水素酵素(plastid-type GAPDH; GapC1)遺伝子の進化的運命を解析した。これらの渦鞭毛藻は、宿主由来の gapC1p と、共生体由来の gapC1h という 進化的に異なるが機能的に重複する 2 系統の遺伝子を核ゲノム内に保持している。トランスクリプト解析および発現量解析の結果、両種において 共生体由来の gapC1h が主要な色素体型 GAPDH として機能している一方、宿主由来の gapC1p は転写抑制もしくは偽遺伝子化していることが示された。さらに、gapC1h 産物は最適化された N 末端色素体移行シグナルを獲得しており、機能的な選択が働いてきた過程が示唆された。本研究は、三次共生後に生じた遺伝子重複が、転写制御・偽遺伝子化・局在シグナルの最適化といった段階的プロセスを経て解消されることを実証的に示したものであり、渦鞭毛藻における色素体置換と endosymbiotic gene transfer(EGT)後の核ゲノム進化を理解する上で重要なモデルケースを提示している。
Yazaki E. et al., 2017, Genes Genet. Syst., DOI: 10.1266/ggs.16-00056
本研究では、Kinetoplastea における 自由生活型から寄生性への進化的転換を理解するため、新規に取得した 2 種の寄生性キネトプラスト類(Azumiobodo hoyamushi および Trypanoplasma borreli)のトランスクリプトームデータを含む **大規模マルチ遺伝子系統解析(43 遺伝子)**を行った。これにより、Kinetoplastea を構成する 5 つの主要系統(Trypanosomatida、Eubodonida、Parabodonida、Neobodonida、Prokinetoplastida)の系統関係を高い支持値で再構築した。その結果、寄生性は Kinetoplastea の進化過程において 単一の起源ではなく、複数回独立に成立したことが示唆され、特に Parabodonida および Neobodonida における寄生性獲得が、自由生活型近縁種との比較によって追跡可能であることを示した。本研究は、タクソンサンプリングを拡充した系統ゲノミクス解析が、生活様式進化の再構築に不可欠であることを明確に示すとともに、病原性トリパノソーマ類の進化的起源を広い系統的文脈で捉えるための基盤を提供するものである。
Noguchi F., 2015, Protist, DOI: 10.1016/j.protis.2015.08.002
自由生活性の嫌気性ストラメノパイル Cantina marsupialis がもつミトコンドリア由来オルガネラ(MRO)の代謝能力を、RNA-seq に基づいて推定した研究。水素産生型MRO(ヒドロゲノソーム)で典型的な PFO・[Fe]-hydrogenase・ASCT・SCS などの転写産物に加え、ADP-forming ACS もMTS付きで検出され、MRO内での嫌気的ピルビン酸代謝を介した “二系統のATP生成(dual ATP generation)” が示唆された。一方で、アミノ酸代謝や“不完全なTCA回路”など 通常のミトコンドリア様の特徴 も保持しており、電子伝達系は 複合体IIのみ(I/III/IVやF1Fo ATPaseは見当たらない) というモザイク状の構成だった。このように Cantina のMROは、既存の「ミトコンドリア/MRO分類(例:ヒドロゲノソーム等)」を単純に当てはめにくい独自性を示し、低酸素環境への適応の過程で生じたオルガネラ機能進化の多様性を再考する材料を提供した。
矢崎は主に分子系統解析による各MROタンパク質の起源の推定を担当。