多様性の森
森林は、自然界でもっとも複雑な立体構造と高い生物多様性を示す生態系のひとつです。その骨組みをなしている樹木は、光・水・栄養塩(ミネラル)といった同じ資源を利用しながら、多種が共存しています。ゾウリムシのような生物を使った実験では、同じ資源をめぐって2種が競争すると、ふつう1種だけが生き残り、もう1種は絶滅してしまいます。森林の樹木は、この「競争排除」法則に反しているように思えます。特に熱帯雨林では素人目には区別のつかない多くの樹種が共存しています。なぜ森林ではたくさんの樹種が共存できるのでしょうか?
森の多様性
また、緯度・標高・土壌条件などの環境傾度にそって、森林の樹種多様性と種組成は大きく変化します。温帯よりは熱帯のほうが多様性が高く、山を上に登るほど多様性が低くなります。つまり、気温が高いほど多様性が高いことになります。気温が低い場所や土壌が痩せた場所では、しばしば球果類樹木(いわゆる「針葉樹」)が優占します。これらはなぜでしょうか?
森は動く
以上のような興味を持って、日本から東南アジアにかけての森林で野外調査をおこない、そのデータにもとづいて環境条件・植物多様性・生態系機能(動態・生産力など)の間の関係を研究しています。おもな調査地は、日本の針広混交林や照葉樹林、ボルネオ島の熱帯林です。特に、屋久島の針広混交林(「ヤクスギ林」)と照葉樹林、マレーシア・キナバル山の熱帯雨林では、20年以上にわたる長期観測を継続中です。北海道でも、北限地域のブナ林、苫小牧や野幌の冷温帯林(「汎針広混交林」)、雄阿寒岳・大雪山の亜寒帯針葉樹林などで、共同研究者とともに森林の長期観測を行なっています。長期観測によって、一度きりの調査では見えない森の動きに迫ります。