1. 胃癌
1-1. 治療方針の決定
当科では、胃がんを専門とするスタッフが治療を担当し、多様化した治療法の中から、患者さまに最も適している治療法を行います。また、現在の“標準的な治療方法”(図1)のみだけでなく、先進的で今後発展する可能性を含んだ治療法などについても説明し、十分な理解をいただいた上で治療方法を決定するように心がけています。
1-2. 治療方法
最も適した治療法の選択には、胃がんの正確な進行度(ステージ)の診断が不可欠です。当科では、消化器内科と連携し、胃内視鏡、超音波内視鏡、MDCT(多列検出器コンピュータ断層撮影)、PET(陽電子放射断層診断)などの最新機器を用いて全身の検索を行い、より正確な手術前の診断を心がけております。これらの正確な診断のもとで、1)胃内視鏡による治療、2)外科手術(胃切除)による治療、3)抗がん剤による治療(免疫治療も含む)、4)外科手術と抗がん剤治療などを組み合わせた集学的治療、の中から最も適した治療方法を提案しています。
1-3. 外科手術(胃切除)による治療
胃がんに対する手術は、胃切除、周囲リンパ節の切除、再建の3つから構成されます。胃切除に関しては、がんを取り残すことのないよう、一方で大きく切除し過ぎて手術後の機能を失うことのないよう、過不足ない切除を心がけています。幽門保存胃切除や噴門側胃切除などの機能温存(縮小)手術も積極的に行っており、特にQOL(生活の質)の悪い胃全摘をできるだけ避けるようにしています。
最近では、腹腔鏡手術やロボット支援下手術も積極的に取り入れております。保険診療で行うことができ、内視鏡外科技術認定医が担当します。これらの手術方法は傷が小さいので痛みも少なく、手術後の回復が早いことから“低侵襲手術”と言われており、こちらの手術を希望される方も増えています(図2)。
図2-1 胃切除症例数の推移
図2-2 腹腔鏡・ロボット支援下胃切除症例数の割合
実際に手術を行うロボット
術者がロボットを操縦するコックピット
インテュイティブサージカル社HPより引用
近年は内視鏡切除の増加、ヘリコバクターピロリ菌の除菌に伴い、全国的に胃癌そのものは減少しているとはいえ、まだまだ胃癌に罹患する人は年間約13万人(男性9万人、[部位別第2位];女性4万人[第4位])と多く、その予後は決して良いとはいえません(国立がん研究センター「がん登録・統計」)。早期発見のために検診が推奨されていますが、その受診率も男性48%、女性37%(国立がん研究センター「がん登録・統計」)と、先進国日本においても決して高いとはいえない数字です。当院では社会活動として“がん検診啓発活動”にも取り組んでいます(図3)。
図3. 「胃がん・大腸がん検診受けましょう」Tシャツを着て都大路を疾走(京都マラソン2019)
1-4. 当院の手術成績
当院のステージ別5年生存率(全生存率)です。ステージIAでは98.8%、ステージIBでは95.2%と全国的にも遜色ない数字です。一方でステージII, III, IVでは、手術だけでは決して満足できる成績とはいえず、集学的治療が必要になってきます。患者さまとよく相談した上で、術後に抗がん剤治療を考慮します(図3)。
図4: 胃癌患者ステージ別生存曲線(他病死除く、胃癌取扱い規約第15版)
1-5. 抗癌剤による治療
上記のようにステージII、IIIの胃がん症例に対しては、再発予防として“術後補助抗がん剤治療”が必要なことがあります。抗がん剤治療はまさに「継続は力なり」で、副作用対策を十分行ったうえで、決められた期間続けることが大切です。ステージIIでは内服薬を1年間、ステージIIIでは内服+点滴の抗がん剤を半年間が基準となりますので、できるだけ患者さまの生活に支障のないよう、外来通院で行えるようなシステムを整えております。
上記のような胃がん以外にも、従来の外科手術だけでは満足できない成績の高度進行胃がんに対しては、最初に抗がん剤治療を行い、がんの悪性度を落とした後に外科手術を行う“手術前抗がん剤治療”を行っています。
1-6. 手術後の経過
手術後は、特に大きな基礎疾患がない限り、クリニカルパスに従って管理を致します(参考資料)。手術翌日には歩いていただき、朝から水分摂取を、そして昼からは流動食を開始していただきます。その後、少しずつ食事内容をアップし、7日目には米飯が食べられるようになります。退院前には、今後の患者さまの生活を支援する目的で、食事・栄養・服薬に関する指導を行っております。退院までの期間は、およそ12日間程度です。
当院では特に胃切除後症候群(後遺症)対策や栄養療法に力を入れており、個々の患者さまのきめ細かな問診結果をもとに、外来での栄養指導を継続していきます。急激な体重減少は手術後抗がん剤治療の継続性に影響を及ぼします。それらをできるだけ防ぐ取り組みをしています。
外来通院に関しては、ご自宅近くの“かかりつけ医”の先生方と密に連携を取りながら、手術後の患者さまの管理を行っていくよう努力をしております。治療経過についての詳細なデーターを共有し、”かかりつけ医“の先生方にも定期的な術後管理をしていただくことで、大学病院での長い待ち時間によるご不便も解消され、患者さまにご好評をいただいております。
2. 胃粘膜下腫瘍、十二指腸腫瘍(GIST、カルチノイドなど)
GISTやカルチノイドなどの良悪性境界疾患に対しては更なる低侵襲を心がけ、腹腔鏡内視鏡合同手術(LECS)による胃や十二指腸の部分切除なども行なっております。内視鏡専門医と内視鏡外科技術認定医がコラボした新しい手術で、胃の切除範囲を最小限にすることで術後も変わらず食事が取れるよう工夫をしています(図5)。