2025.9.21
alloy は名詞としては1325年以前から「(金・銀などの)品位、純度」の語義で現れ、1596年から「†性質」(1674年までで廃義)、1625年から「(価値を下げる)混合」、1656年から「合金」の語義で用いられている。動詞としては1378年頃から「卑金属と混ぜる」、1661年から「和らげる」、1822年から「合金にする」の語義で用いられている。一方、ally は動詞としては1300年頃から「同盟[縁組]させる[する]」の語義で用いられ、名詞としては1385年頃から「同盟国;連合国」、?1375年頃から「†縁組、縁者」(1592年までで廃義)、?1400年以前から「同類」の語義で用いられている。
語義を眺める限り関連がなさそうに見える alloy とally であるが、どちらもラテン語の alligāre(接頭辞 al- と「縛る」を意味する ligāre から成る)を語源に持つ二重語(doublet)である。ally(動詞)の中英語期の語形は al(l)ie(n) で、古フランス語の alier から借用され、alier はラテン語の alligāre から借用されたものであるが、古フランス語での語義はラテン語の ligāre の意味を保持した「…に縛り付ける、結びつける」であった。なお、名詞としての ally は動詞から派生したものである。alloy は名詞としてはアングロ・フレンチ、古フランス語の alei から借用され、alei はラテン語の alligāre から借用された aleier「…を組み合わせる」から派生したものである。動詞としては先述のアングロ・フレンチの aleier から借用されたもので、アングロ・フレンチの aleier に対応する古フランス語は aloiier である。『英語語源辞典』の注釈によると、名詞、動詞ともそれぞれ古フランス語の alei, aleier から中英語に借用された alai, al(l)aie(n) に alloy が取って代わったとのことである。一方、OED では名詞としての alloy は中フランス語の alloy, aloy から借用され、動詞は名詞の alloy にならって allay(OED では alloy と allay は別の見出しとして立てられている)から語形が変化したものだと説明されている。
『英語語源辞典』に掲載されている語形を見る限り、alloy と ally の借用元であるアングロ・フレンチや古フランス語では <l> は1つしかなく、中英語期には <l> が1つの場合と <l> が2つの場合があった。前回の「118. allot, allow, allure ―al-に関する語源的綴字―」と同様に、語源であるラテン語の alligāre では <l> が二重になっていることから、それを参照した all- の語形が定着したと考えられる。また、これまでの記事の中で、語源に沿って all- の綴字になったものとして「114. allege ―複雑な語源―」を、ラテン語接頭辞 al- を語源に持たないにもかかわらず all- の綴字になったものとして「113. allay ―/j/への変化と二重の<l>―」を挙げておく。
参考文献
「Alloy, N. & V.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
「Ally (1), V. & N.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
“Alloy, N.” Oxford English Dictionary Online, www.oed.com/dictionary/alloy_n?tab=etymology#6593857. Accessed 21 September 2025.
“Alloy, V.” Oxford English Dictionary Online, www.oed.com/dictionary/alloy_v?tab=etymology#6595411. Accessed 21 September 2025.
キーワード:[doublet] [etymological spelling] [ad-] [Latin] [French]