2025.9.20
ラテン語接頭辞 ad- の d が後続する l に同化した al- に関連して、<l> が追加挿入された3語を取り上げる。
allot は「(くじで)割り当てる」を意味する動詞で、初出は1474年とされている。中英語期は主に alotte(n) の語形で用いられており、古フランス語の aloter から借用された(OED によるとアングロ・フレンチでは aloter に加えて alloter の綴字も用いられていた)。フランス語の aloter はラテン語の ad- から d が脱落した接頭辞 a- と「くじで分ける」を意味する loter から成る。alleviate (< ラテン語 alleviāre), allocate (< ラテン語 allocāre) などに見られるように、ラテン語接頭辞 ad- は後続する l に同化して al- となることから、フランス語と英語のそれぞれで(あるいは英語は借用元のフランス語の影響を受けて)接頭辞 a- に <l> が加えられて all- の語形になったと考えられる。
allow は「認める」(1325年以前に初出)、「賞賛する、賛同する」(1333年以前に初出)、「割り当てる」(1370年頃に初出)を意味する。中英語では aloue(n), alloue(n) の両方の綴字が見られ、借用元のアングロ・フレンチもまた alouer, allouer が併存していた。アングロ・フレンチに対応する古フランス語は alouer であり、「賞賛する、割り当てる」を意味した。これは、中世ラテン語で「…を割り当てる」を意味し、allocate の語源でもある allocāre と、ラテン語で「賞賛する」を意味する allaudāre (laudāre は laud の語源)の混成である。allocāre と allaudāre のどちらも接頭辞 al- を持つことから、英語やフランス語でもラテン語を参照した all- の語形が定着したと考えられる。
allure は「おびき寄せる」の語義では1402年に、「魅惑する」の語義では1612年に初出したとされている。中英語での語形は alure(n) で、借用元のアングロ・フレンチの alurer、対応する古フランス語の al(e)urer「えさで引きつける」もまた <l> は1つである。これらのフランス語はラテン語の ad- を語源に持つ接頭辞 a- と lurer「…を誘惑する」から成ることから、ラテン語の慣習に近づけた all- の語形になったと考えられる。
allot, allure は直接遡ることができるラテン語語彙が明示されておらず、allow は2つのラテン語語彙がフランス語で混成して英語に借入した語ではあるが、いずれもラテン語接頭辞 al- と語源的に関係があるために、<l> を追加挿入した語源的綴字が定着している。
参考文献
「Allot, V.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
「Allow, V.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
「Allure, V.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
“Allot, V.” Oxford English Dictionary Online, www.oed.com/dictionary/allot_v?tab=etymology#6546090. Accessed 20 September 2025.
キーワード:[etymological spelling] [ad-] [Latin] [French]