慶應義塾大学大学院 文学研究科 英米文学専攻所属の寺澤志帆のホームページです。
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2026.5.8
balk, baulk は名詞で「†土饅頭、塚」(古英語期から15世紀まで)、「畝、畔」(後期古英語から)、「梁、角材」(14世紀から)、「妨害、失敗;見落とし」(15世紀から)を意味する。また、動詞で「†畝を作る」(14世紀から17世紀まで)、「逸する;避ける、無視する;立ち往生する」(15世紀から)、「邪魔する;失望させる、くじく」(16世紀から)を意味し、これらの動詞用法は名詞から派生した。
『英語語源辞典』によると古英語の語形は balk(e)「畝、塚」で、古ノルド語の bǫlkr「梁、横木」からの借用としている。bǫlkr はゲルマン祖語の *balkuz, *balkōn「梁」から発達したもので、さらに印欧祖語の *bhelg-「厚板、梁」にさかのぼる(印欧祖語の /bh/ からゲルマン祖語の /b/ への変化はグリムの法則(Grimm’s law)による)。一方、OED は古ノルド語からの借用ではなくゲルマン祖語からの発達としている。ゲルマン祖語は語幹によって意味が部分的に異なるとしており、ゲルマン祖語の *balkon- から発達した古英語の balca などは「畝、盛り土」を意味し、*balku-z から発達した古ノルド語の bǫlkr などは「梁」を意味した。古英語の balca (balc) と古ノルド語の bǫlkr は中英語期に結び付けられるようになったと OED は考えている。
『英語語源辞典』と OED は balk と baulk の両方を見出しの語形として挙げている。balk(e) と baulk(e) はともに中英語期から使用されている。OED によると balk は stalk, talk, walk などとの類推による綴字であるという。そして、baulk はビリヤードの用語(OED, balk | baulk, n. (1), III.9.a ‘In billiards and snooker: the area behind a line near one end of the table, which contains the D or semicircle in which a player must position a ball to begin a turn, and within which in some circumstances a ball is protected from a direct stroke. Often as a modifier, esp. in baulk line.’)として通例用いられる綴字とされている。OED によるとビリヤード用語としての初例は1800年で、比較的新しい用法であることが関係しているのかもしれないが、語義によってどの綴字がより一般的かが異なる点で興味深い。
最後に、balk, baulk の発音について、OED にはイギリス英語の発音として /bɔːk/ が掲載されている一方、『英語語源辞典』には /bɔː(l)k/ の発音が記されている。l の発音の有無には(変種によって)揺れが見られることになる。
参考文献
「Balk, Baulk, N. & V.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
“Balk | Baulk, N. (1)” Oxford English Dictionary Online, www.oed.com/dictionary/balk_n1?tab=etymology. Accessed 8 May 2026.
キーワード:[analogy] [silent letter] [Grimm’s law] [Old Norse] [Germanic] [Indo-European]
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