慶應義塾大学大学院 文学研究科 英米文学専攻所属の寺澤志帆のホームページです。
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2026.1.11
「矢」を意味する arrow は古英語期から用いられている。印欧祖語の *arku-「弓矢」に遡るとされ、同じ印欧祖語に遡るものには arc「孤」などがある。印欧祖語からゲルマン祖語の *arχwō に派生し、古英語の ar(e)wan (単数・複数与格), earh (単数主格) に発達した。ちなみに『英語語源辞典』によると、古英語では「矢」を表すのに strǣl や flā(n) が普通であったが、1000年以後では arrow が一般化した。
『英語語源辞典』では上記のように古英語の語形として ar(e)wan と earh が挙げられているが、OED によると earh は強変化名詞、arwe は弱変化名詞としての語形である。earh は h が示すように、ゲルマン祖語に含まれる /xw/ における軟口蓋音を保持している。そして、ゲルマン祖語の a から æ へと母音が前寄りになり(fronting)、さらに æ から ea へと割れ(breaking)が起きた。一方、arwe は11世紀以前の現存する写本では例証されていない語形のようで、半母音の w を語幹に含み、rw の前での æ から a への変化、r と w の間の h の消失を経ている。なお、OED は中英語の -w- を含む語形について、earh- の異形である earg- に由来する可能性と、arw- に由来する可能性の両方があるとしている。
『英語語源辞典』には主な中英語の語形として arwe, (e)arewe, aruwe が挙げられており、古英語と同様に、現代の arrow に含まれる二重母音 -ow (/oʊ/) が見られないことが分かる。『英語語源辞典』には arrow の語形変化について tomorrow を参照するようにと記されているため、『英語語源辞典』における tomorrow の語形変化の記述を arrow に当てはめて説明すると次のようになる:まず、一般の名詞や動詞と同様に、古英語の ar(e)wan に見られる語尾の -n が、ついで -e が消失した。その結果 w が語尾の位置に置かれ、-w が母音化して -ow となった。OED によるとこの変化とそれに続く -ow の二重母音化は後期中英語期に起こり、他に narrow, sparrow, follow, borrow, morrow, yellow などの語に見られる。
また、古英語の ar(e)wan や中英語の arwe, (e)arewe, aruwe には <r> は1つしかないが、現代英語の arrow では <r> が2つ重ねられている。OED によると <rr> の綴りは中英語から見られるようだが、『英語語源辞典』や OED には <r> の数については述べられていない。Upward and Davidson には “A double R in English may or may not be a reflection of a double R in the source or carrier language; in some cases, a double R in English may be taken as indicating a preceding short vowel.” (p. 274) との記述があり、arrow も短母音 a を示すことが <rr> が定着した一つの要因なのかもしれない。
参考文
「Arrow, N.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
「Tomorrow, Adv. & N.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
“Arrow, N.” Oxford English Dictionary Online, www.oed.com/dictionary/arrow_n?tab=etymology. Accessed 10 January 2026.
キーワード:[Germanic] [Indo-European]
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