慶應義塾大学大学院 文学研究科 英米文学専攻所属の寺澤志帆のホームページです。
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2025.11.16
『英語語源辞典』によると、another は「もう一つの;別の」を意味する形容詞としては1121年頃に、「もう一つのもの[人]」を意味する代名詞としては1150年以前に初出したとされている。another は不定冠詞の an と other から成る語で、古英語では ān を伴わずに ōþer だけで another の意味を表した。初期中英語では an other のように2語として書かれ、1語として一般化したのは14世紀以降とされている。また、異分析(metanalysis)による a nother のような表記も近代英語期まで見られ、現在でも一部の地域で other の異形態としての nother が残っている(『英語語源ハンドブック』p. 15)。
other の古英語での語形は ōþer で、ゲルマン祖語の *anþeraz、印欧祖語の *antero-「(2つのもののうちの)他方の」(「交替」などの意味を表す指示詞幹 *an + 比較級を表す接尾辞 *-teros)に遡る。『英語語源辞典』によると、英語ではゲルマン祖語の -n- が摩擦音(ここでは þ )の前で規則的に消失し、前の母音を長音化した。印欧祖語の語義が示すように、other は古英語では「2つのうちの残りの1つの」の意味を表し、his other leg や his other hand のように用いられたが、初期近代英語期頃に廃れた(『英語語源ハンドブック』p. 15–16)。現在は each other((特に2人または2つのものの間で)互いに)など一部の表現にこの意味が残っている。また、古英語・中英語では「2番目の、次の」の意味も表し、『英語語源辞典』には古フランス語の autre と同様であることが触れられている。したがって、the other day (night, etc.) は ‘the previous day (night, etc)’ と ‘the second day, the next day (night, etc)’ の両方の意味を表したが、この用法は16世紀頃までで廃れた(『英語語源辞典』「Other, Pron., Adj.」)。『英語語源ハンドブック』によるとこの「2番目の、次の」の語義はフランス語から second が借用されると使われなくなったが、現在 every other day「1日おきに」(ある日を起点として「2番目の日」と数えていくことから)に残っている(『英語語源ハンドブック』p. 16)。
参考文献
「Another, Adj. & Pron.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
「Other, Pron. & Adj.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
唐澤 一友・小塚 良孝・堀田 隆一『英語語源ハンドブック』研究社、2025年。
キーワード:[metanalysis] [Germanic] [Indo-European]
2025.11.16 『英語語源辞典』でたどる英語綴字史「175. anotherとother ―otherからanotherへ―」を公開しました。
2025.11.15 『英語語源辞典』でたどる英語綴字史「174. anon ―onとoneから成る語―」を公開しました。
2025.11.14 『英語語源辞典』でたどる英語綴字史「173. annoy, anoint ―i- > e- > a- への変化―」を公開しました。
2025.11.13 『英語語源辞典』でたどる英語綴字史「172. annual ―-elから-alへ―」を公開しました。
2025.11.12 『英語語源辞典』でたどる英語綴字史「171. annihilate ―中英語の<ch>の異綴りはどこから?―」を公開しました。
2025.11.11 『英語語源辞典』でたどる英語綴字史「170. anneal, annoy ―<an->か<ann->か、はたまた<adn->か、それが問題だ!(2)―」を公開しました。
2025.11.10 『英語語源辞典』でたどる英語綴字史「169. annex, annihilate, announce, annul ―<an->か<ann->か、はたまた<adn->か、それが問題だ!(1)―」を公開しました。
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2025.11.8 『英語語源辞典』でたどる英語綴字史「167. ankle, ancle ―古ノルド語借用語と古英語での合成語―」を公開しました。
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2025.10.17 Voicy 「英語の語源が身につくラジオ(heldio)」#1601. 英仏語のアルコール漬けの語源的綴字 --- 「英語史ライヴ2025」より camin さん,寺澤志帆さん,川上さんのラリーに出演させていただきました。
2025.10.14 Voicy 「英語の語源が身につくラジオ(heldio)」#1598. khelf 寺澤志帆さんと allay を語る --- 「『英語語源辞典』でたどる英語綴字史」よりに出演させていただきました。
2025.10.10 Voicy 「英語の語源が身につくラジオ(heldio)」#1594. 続・コーパスとは何か? --- khelf メンバー3名で議論していますに出演させていただきました。
2025.10.9 Voicy 「英語の語源が身につくラジオ(heldio)」#1593. khelf メンバー4人でコーパスを語る --- 「英語史ライヴ20205」よりに出演させていただきました。
2025.10.7 Voicy 「英語の語源が身につくラジオ(heldio)」#1591. 声の書評 by khelf 寺澤志帆さん --- 寺澤芳雄(著)『聖書の英語の研究』(研究社,2009年)に出演させていただきました。
2025.9.29 Voicy 「英語の語源が身につくラジオ(heldio)」#1583. alligator でワニワニパニック --- khelf 寺澤志帆さんと語るに出演させていただきました。
2025.7.7 本日発行のKeio History of the English Language Forum (khelf) 『英語史新聞』第12号 第1面に拙著「星を見ながら語源をめぐろう」が掲載されています。
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