慶應義塾大学大学院 文学研究科 英米文学専攻所属の寺澤志帆のホームページです。
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2026.1.8
arrive は1200年以前の初出とされ、『英語語源辞典』によると元は航海用語で、はじめは他動詞として「入港[上陸]させる」の意味で用いられた。その後再帰的用法を経てまもなく自動詞の用法が一般化した。『英語語源ハンドブック』によると14世紀末頃までに「船で岸、港、目的地に到着する」の意味から一般化(generalisation)が起き、移動手段にかかわらず「目的地に到着する」を意味するようになった(pp. 19–20)。
arrive の語源はラテン語の ad rīpam「岸へ」に遡る。ad は「…に、へ」を意味し、rīpam は「岸」を意味する rīpa の対格である。ちなみに『英語語源ハンドブック』は「14世紀初頭頃にフランス語から借用された river(川)もこの語に由来し、元来は「川堤、川岸」を意味したが、やがて「川」そのものを表すようになった」(p. 20)と述べている。ad rīpam から俗ラテン語では *arrīpāre, *adrīpāre「岸に到着する」となり、そこから発達したアングロ・フレンチ、古フランス語の ariver を経由して英語に借用された。
中英語では <r> が1つの arive(n) と、<r> が2つの arrive(n) の両方の語形が見られた。『英語語源辞典』では arr- の語形はラテン語の接頭辞 ad- の d が後続する r に同化した ar- の影響とされている。フランス語でも近代までには ariver から arriver に変化しており、英語・フランス語ともにラテン語に倣った語源的綴字が標準化したことになる。
また、arrive は弱変化動詞(現代で言うところの規則動詞)で、過去形・過去分詞形には -(e)d が付加されたものが用いられている。しかし、OED によると中英語期から -ed 形とともに、過去形では aroue、過去分詞では aryuen などの形が用いられていた(現在も方言形として残っている)。これらの不規則動詞のような形は、OED によると古英語で第1類に分類される強変化動詞(drive など)の過去形・過去分詞形からの類推によるものである。help のように、古英語では強変化動詞だったものが類推によって弱変化動詞の -ed の活用に変化した場合が注目されることが多いように思うが、中英語期のフランス語借用語 arrive は弱変化と強変化で活用が揺れていた点で興味深い。
参考文献
「Arrive, V.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
“Arrive, V.” Oxford English Dictionary Online, www.oed.com/dictionary/arrive_v?tab=etymology. Accessed 8 January 2026.
唐澤 一友・小塚 良孝・堀田 隆一『英語語源ハンドブック』研究社、2025年。
キーワード:[etymological spelling] [ad-] [assimilation] [semantic change] [conjugation] [analogy] [Latin] [French]
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