慶應義塾大学大学院 文学研究科 英米文学専攻所属の寺澤志帆のホームページです。
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2025.11.15
anon は古英語からある副詞で、古英語期から15世紀までは「†一体となって;同じ方向にずっと」、古英語から17世紀初めまでは「†直ちに、すぐに」、16世紀前半から「ほどなく」、16世紀末から「こんどは」、「[ever and ~で] 時々」を意味する。『英語語源辞典』によるとシェイクスピアは anon を多用しているが、欽定訳聖書(The Authorized Version)では「直ちに、すぐに」の語義で2例しか現れないという。また、現代作家もときに anon を古語法として用いることもあると述べられており、現代英語では限られた用法・使用域でしか用いられていない。
表題にある通り、anon は現代英語で言うところの on と one から成り、古英語の ‘into one’ を意味する on ān (対格) と ‘in one (minute)’ を意味する on āne (与格) が混成(blend)した on ān(e) を語源に持つ。中英語期になると前置詞の on が弱化して an- となり、ān /aːn/ は後舌母音化して on /ɔːn/ になるため、anon の語形となった。なお、数詞の one は /ɔːn/ からさらに円唇化が起こって /wɔːn/ となり、母音が短音化して /wʌn/ となる(『英語語源ハンドブック』p. 385)が、anon の現在の発音は /ənɑn/ や /ənɔn/ で、前置詞/接頭辞が付いていることもあってか円唇化は起こっていない。
また、OED の語形欄によるとおよそ中英語期の間に anon が1語として綴られるようになったが、o-non や a-non のように本来は on の一部であった語頭の母音が別の語として異分析された語形も見られたようだ(ただし、OED に掲載された古英語や中英語における語の区切りは、現代のテクストの編集者による選択を反映させたものが多く、必ずしも写本の慣習を反映したものとは限らない)。
参考文献
「Anon, Adv.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
“Anon, Adv.” Oxford English Dictionary Online, www.oed.com/dictionary/anon_adv?tab=forms. Accessed 15 November 2025.
唐澤 一友・小塚 良孝・堀田 隆一『英語語源ハンドブック』研究社、2025年。
キーワード:[blend] [metanalysis] [Germanic] [Shakespeare] [Authorized Version]
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