2025.9.12
allay は古英語由来の強意の接頭辞 a- と lay 「横たえる」から成る語で、現在は廃義になっているが当初は「(物)を置く」を意味した。「軽減する;静める」の語義は後期古英語から見られるが、『英語語源辞典』によるとラテン語の alleviāre から発達した古フランス語の alegier の影響を受けたものである。
古英語期の語形は āleċġan であり、音法則的に発達すれば近代・現代英語では *aledge のようになるはずであった。しかし、中英語期に alegge(n), alege(n) から aleie(n) の語形が発達した。この /-ʤ-/ から /j/ への変化は、古英語の直説法現在二・三人称単数 leġ- が発達したもので、『英語語源辞典』の lay (1), V. の項によると leġ- の語形は初めは北部方言で用いられていた。中英語期には alegge(n) と aleie(n) の両方が共存し、近代英語期に向けて北部方言由来の aleie(n) の語形が普及していったと考えられる。allay, lay と同じように /-ʤ-/ から /j/ への変化が起きた語には、buy (< OE byċġan ), lie「横たわる」(< OE liċġan ), say (< OE seċġan ) などがある。
また、古英語の āleċġan、中英語の alegge(n), aleie(n) では <l> が1つであるのに対し、現代英語の allay では <l> が2つになっている。これは、接頭辞 a- を、ラテン語接頭辞 ad- が後続する l に同化した異形 al- と混同したことによるもので、『英語語源辞典』によると16世紀末から見られる。「34. <c>か<cc>か、それが問題だ!」などでは ac- からの類推、「75. afford ―二重の<f>と、<th>と<d>の交替―」では af- からの類推を取り上げたが、ラテン語接頭辞 al- からの類推で語源にはない <l> を追加挿入し、二重の <l> を持った語も確認された。
参考文献
「Allay, V.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
「Lay (1), V. & N.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
キーワード:[analogy] [folk etymology] [etymological spelling] [ad-] [Germanic] [French]