2025.6.17
「3. 8種類もある接頭辞a-」で取り上げた a- や「34. <c>か<cc>か、それが問題だ!」で取り上げた ac- に関わる語を説明する上で度々登場した接頭辞 ad- の語源と語形変化について、『英語語源辞典』をもとにまとめておく。
ad- は移動・方向・変化・完成・近似・固着・付加・増加・開始などを示し、あるいは単に強意を表す接頭辞で、(古)フランス語あるいはラテン語の ad- から借用され、ラテン語の前置詞 ad を起源に持つ。そして ad は印欧祖語で ‘to, near, at’ の意味を表す *ad- として再建されている。
ad- の語形変化は大きく①同化と② <d> の脱落(と復活)に分類される。1つ目の同化については、ad- は b, c, f, g, k, l, n, p, q, r, s, t の前ではそれぞれ ab-, ac-, af-, ag-, ac- ( k の前), al-, an-, ap-, ac- ( q の前), ar-, as-, at- となる。例えば ac- に同化した例としては accent, accept, access, accident, accurate, accuse などが挙げられる。ただし、「近似、付加」などの意味を表すときには通例後続する子音には同化せず ad- のままであり、 adrectal(「直腸 (rectum) に隣接する」の意味)や adscription(「書き加えること」などの意味)などに見られる。
2つ目の <d> の脱落については、特に sc-, sp-, st-, gn- の前では a- となっており、ascend, aspect, astringent, agnate などが挙げられる。これらはラテン語の時点で既に <d> が脱落していたものである。一方で、フランス語では後続する子音(群)に関係なく <d> が脱落し、フランス語から借用されることで中英語では a- となっていることが多いが、後に語源的綴字によってラテン語式に ad- に改められたものも少なくない。ここからしばらくの記事では、この <d> を挿入した語源的綴字を取り上げる機会が多くなるだろう。
参考文献
「Ad-, Pref.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
「A- (8), Pref.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
キーワード:[ad-] [prefix] [assimilation] [Latin] [French]