研究会テーマ
『幕別分校の魅力再構築』
~今までの10年間を糧にこれからの10年間を見据えて~
多くの御参加ありがとうございました。令和6年度公開研究会が無事に終了したことを御報告させていただきます。
北海道中札内高等養護学校幕別分校では、研究主題に『幕別分校の魅力再構築』を掲げ、3年計画で研究を進めてきました。また、研究と併行してGIGA スクール構想に伴ってICT教育の充実が図るように各授業や業務において実践をしてきました。このたびは、公開研究会を開催する運びとなり、令和5年度までの成果報告と令和6年度の研究経過報告をしたいと考えております。多くの皆様に御参加いただき、御指導、御助言を賜りますようお願い申し上げます。
令和6年8月21日(水)
来校及びオンラインによるハイブリッド開催
9時00分~12時10分
(8時30分受付開始)
9時00分 開会式
9時10分 研究発表
9時35分 実践発表①
9時55分 実践発表②
10時15分 休憩
10時30分 講話
12時00分 閉会式
■研究発表
(更別農業 岡田T)
Q:生徒増加以外に手応えを感じていることはあるか?YouTube、X等でのフォロアー数が増えた、実習先が増えた等があれば教えて欲しい。また、生徒自身が分校の魅力の発信をすることがあるとよいのですが、そういう機会はあるのか?
A:教員同士で分校の魅力を共通理解できたのが良かった。作業学習を通して学ぶということが1番の魅力であることを、改めて感じられたと思われる。生徒が魅力を発信する場面として、作業体験会、学校体験などで生徒が中学生に分校での活動や魅力を説明する場面を意図的に設けている。実習先でも協力していただいている。少しずつ魅力を発信できていると思われる。
(中標津支援 夏川T)
・(感想)本校では義務の養護学校として6年経ったが、元々は単置の高等養護学校だったので、課題がまだたくさんある。幕別分校の生徒が主体的に学習を楽しんでいるように見受けられる。本校でも参考にしたい。
■実践発表
【実践発表①】
「授業や業務におけるICTの活用実践について」
発表者 教務主任 小 林 和 幸
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(釧路鶴野支援 堀T)
Q:生徒が使っているiPadに学籍番号などを振って管理させているのか?
A:この生徒にはこの番号のiPad・・・という様に渡して管理させている。
(釧路鶴野支援 堀T)
Q:生徒も動画を作っているようだが、顔や名前などを出すのを嫌がる生徒に対して、「ボカシ」なども生徒が作っているのか?
A:生徒が作った動画は外部には基本的に出していない。生徒が作った動画は学校行事などで使っている。作る際も生徒に顔や名前を出して良いかどうかを確認している。外部に出す場合は教員が必ずチェックをしている。
【実践発表②】
「職業学科におけるICTを活用した授業実践について」
発表者 産業総合学科長 松 橋 眞
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■講 話
演題
「学校の魅力再構築にICTをどう活かすか~ICT×インクルーシブ教育を手がかりに~」
講師
東京学芸大学附属小金井小学校
鈴 木 秀 樹 教諭
佐 藤 牧 子 教諭
経歴
<鈴木 秀樹 教諭 経歴>
東京学芸大学附属小金井小学校教諭。慶應義塾大学非常勤講師。東京学芸大学ICTセンター所員。慶應義塾大学大学院社会学研究科教育学専攻修士課程修了。私立小勤務を経て2016年より現職。ICTを活用したインクルーシブ教育、学習者用デジタル教科書、生成AIを活用した授業づくり等が主要な研究テーマ。単著に『 ICT×インクルーシブ教育 誰一人取り残さない学びへの挑戦』、編著書に『Face to Faceの教育から、学びのSide by sideへ Microsoft 365 Educationを活用した小学校の学級づくり・授業づくり』等(いずれも明治図書)。
<佐藤 牧子 養護教諭 経歴>
東京学芸大学附属小金井小学校養護教諭(特別支援教育コーディネーターを兼務)。東京学芸大学大学院教育学研究科修了。私立高校勤務を経て2004年より現職。校内ではICTを活用したインクルーシブ教育に取り組む。論文「ビニエットを用いた地震・津波災害の仮想場面における小学校高学年児童の避難行動の選択とその関連要因」(渡邉正樹氏と共著)で一般社団法人日本学校保健学会学会賞受賞。学校外では大日本図書教科書編集委員、NHK「キキとカンリ」番組委員等として活動。
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〇要約1
●ICT×インクルーシブ教育 基本的な考え方
・「公平」な学びは、良いように見えるが、これで全てを解決することはできない。
→例として、合理的配慮が必要なA君に、〇〇を使うことを認めると・・・周囲からの反発「なぜA君だけ許される」の声が挙がる→先生の説明で全員納得する→その流れを見て、A君は納得できなくなる「なぜ僕だけ・・・自分ができないからだ・・・」
・複数の学習方法(選択肢)を集団全体に提示することで「公正」な学びが提供できる。
→「公正」の基本:自分に合った学び方を各自が選択できる環境を構築すること。
・(香川大 坂井先生の言葉)その授業で先生が子供に本当にやらせたいことは何なのかをよく考えて欲しい。
→例として、「この物語の登場人物の心境を書きなさい」という問いに対して、「答えを書く」ことが目的なのか、「答えを表現する」ことが目的なのか。後者なら、書くことが苦手な子供もICTを活用するなど、答えや考えを表現する方法はたくさんある。
・教員の役割は、一方的に教えるのではなく、中心的に寄り添うことの方が重要になってきている。→「face to face」から「side by side」。集団教育の中で教員から一方的に学習を受けるという一択から、学び方の選択肢を増やし、自分に合った学習方法を選べる教育が、現代の理想的な教育である。
・ICT×インクルーシブ教育のポイント
→教師に求められるのは、①子供に寄り添う姿勢、②子供に任せる勇気、③子供の学びを成立に向かわせる構想力。
→学びのポイントとして、①目的の明確化×②環境の調整(ICTの活用)=③目的の達成。これを達成するにはお互いの違いを認め合うことが必要だが、学級内でその雰囲気を作らないと上手くいかない。
→これらを全て一つの学級内だけで達成するのは難しい。そこで「2.5プレイスを生かした個別支援」が重要になる。
〇要約2
●2.5プレイスを生かした個別支援
・「2.5プレイス」の概要
→1stプレイスが家庭などの第一の居場所。2ndプレイスが学校など、自宅以外で長い時間を過ごす場所。2ndの環境が上手く整わないと、不登校の要因になる。3rdプレイスが家庭や学校以外で息抜きできる場所。3rdプレイスは最近注目されているが、自分で探すにはハードルが高い。2.5プレイスは教室以外の居場所(安心できる場所)である。保健室を活用できると良い。近年では「校内教育支援センター」を設け、2.5プレイスとして活用する学校が増えてきている。
・学校などでの「支援の限界提示を明確にする」ことが大切であり、これをしないと教員の負担は増える。「チーム学校」として、どこまでできるかを明確にすることで、上手く分担できる。問題が起きた時に関係者がその場に集まれなくても、ICTを活用して遠隔で打ち合わせをすれば、情報を共有することができ、対応の瞬発力がアップする。
●AIと個別支援の可能性
・例①
→教室で怒っている生徒がいる。→その生徒が何故怒っているのかを聞き、教師がBingに解決方法を質問する。→出てきた答えを要約し、生徒に伝える。→その生徒のリアクションや返答から、またBingに質問する。→これを繰り返し、その生徒が「これでなら解決できる」というまで続けたことで、その問題は解決できた。
・例②
→保健室に泣きながら飛び込んできた生徒がいた→事情を聞くと「教室でみんなにひどいことを言って飛び出してきた。みんな怒っていると思う。もう転校するしかない」と言っていた。→教室にカメラを置き、保健室からクラスの様子を一緒に見て、クラスメイトは誰も怒っていないことを確認する。→教室に戻ってみんなに謝罪し、その後の活動に参加することができた。
・例③
→5年生の生徒になると、思春期からか素直に(特に男女間で)「ありがとう」と言いづらくなる→感謝の気持ちをAIスピーカーに、代わりに言わせた→学級の雰囲気が良くなった。
・AIの存在は、これまでの経験を引きずらない(フラッシュバックのない)助言・伴奏者的役割であり、AIによる新たな支援の可能性がある。
(太田校長T)
Q:ICT、AI教育が進んでいく中で、教員が身につけるべき力を教えて欲しい
(佐藤氏)
A:子供達の力を信じる、この子にどんな力があるのか、失敗しても良いからやってみよう、等の意識が大事なのかなと思います。
(鈴木氏)
A:AIにできることはAIにやらせた方が良いと思うが、教育のプロデュースはまだできない。それについては教員の力が必要である。人の気持ちと気持ちのつながりが大切であり、これもAIにはできないが、これからテクノロジーの進歩に目を光らせておく必要がある。
参加者の方からの感想
特別支援教育の授業にICTを取り入れていく視点としてとても 重要な示唆を頂けたと思います。また、授業だけではなく学 校生活全般や家庭支援等に困難さを持つ子どもへの支援に おいても、AIの活用事例が聞けたことが良かったです。これ から、教育現場にもAIが入ってくる時代に教員としてどのよう な資質が求められるか考えさせられる講話でした。ありがとうございました。
ICTとインクルーシブ教育について大切なポイントをわかりや すく教えていただきました。困り感を抱える子によいことは、 みんなにとってもよいことなんだなと感じます。教室にいるみ んなが、よりよい方法で学ぶためにも、互いを認め合える雰 囲気づくりに努めていきたいと思いました。また、その授業で 何をやらせたいのか、、、授業を作ったり、子どもと関わったり する中で、常に心に留めておきたい言葉です。ありがとうござ いました。
インクルーシブ教育について、改めて考えさせられました。 特に、通常学級を担任されている先生のお話だったからこ そ、強く感じるものがありました。 このような教師の指導観をぜひ共有していきたいです。素晴 らしい実践のご紹介、ありがとうございました。
インクルーシブ教育という目的に向かうために、ICTが具体的 に果たしている役割がよくわかりました。子ども達に寄り添う、 任せるということに私たちの構想力を発揮して手立てを考え る時にICTは選択の幅を広げたり、関係者とのつながりが円 滑になったりという効果があるんだなと理解できました。子ど も達が”お互いの違いを認め合う”土台作り、2.5プレイスという 考え方、大人のマインドチェンジ…大切な視点となるお話もた くさん聞くことができ、とても勉強になりました。
生徒の悩みを、AIに聞いてみると言う、私には、考えられない 発想でした。すぐに試して見たいと思いました。
小学校での具体的な実践例を聴くことができ、大変参考にな りました。外部機関や教室外での連携が必要不可欠で、認め 合う雰囲気作りが根幹にあることに気づかされました。今回 のお話を聴いて、子どもに何を考えさせたいか身につけさせ たいかを明確にして、授業作りや学級経営を行っていこうと改 めて思いました。本日は貴重なお話ありがとうございました。
インクルーシブ教育にこそICTを効果的に活用できる場面が たくさんあるということが良く分かりました。鈴木先生、佐藤先 生の取り組みが子どもたちの学びや、成長に大きな変化を与 えていること、私の担当している現場で今後どのように実践し ていけるか、考えていきたいと思いました。 早速、YouTube拝見しました。今回の講演の内容が深まり、 大変参考になりました。
アンケートの御協力ありがとうございました
公開研究会に御参加いただき、誠にありがとうございました。アンケートの御協力ありがとうございました。次回の研究会の参考とさせていただきます。