【生分解性高分子】
プラスチックによる環境汚染問題は,海洋へのプラスチック流出による海洋汚染やプラスチック製農業資材による土壌汚染などを引き起こし,長年にわたり社会の関心を集めています。この問題への対策として,環境中の微生物によって水と二酸化炭素に分解される生分解性高分子が注目されています。現在,ポリ-3-ヒドロキシブチレート(P3HB)やポリカプロラクトン(PCL),ポリブチレンサクシネート(PBSu),ポリ(ブチレンアジペート-co-ブチレンテレフタレート)(PBAT),ポリ乳酸(PLA)などのポリエステルが,生分解性高分子として市場で流通しています。これらの高分子は,非生分解性の汎用高分子に代わる材料として,日用品,容器包装,農業・漁業資材などへの利用が進められていますが,年間のプラスチック生産量が約4億トンに達するのに対し,生分解性プラスチックの生産量は約100万トン,全プラスチック生産量のわずか0.3%に過ぎません。この主な原因は,生産設備の不足に加え,全ての環境で分解しないという生分解性という特性そのものや,力学的・熱的特性が従来のプラスチックと異なることが,利用拡大を妨げる一因となっています。
【化学構造と生分解性】
生分解性高分子の力学的・熱的特性を制御するには、その化学構造を適切に調整することが有効な手段の一つです。しかし、既存の生分解性高分子に用いられているビルディングブロックは限定的で、汎用高分子に比べて多様性に乏しいのが現状です。また、どのビルディングブロックを組み合わせることで生分解性を維持できるかについての知見がまだまだ不足しています。たとえば、脂肪族ポリエステルやその共重合体は一般的に生分解性であると認識されています。ですが、直鎖脂肪族鎖を長くし続けると、最終的には生分解性を有しないポリエチレンとなり、ある一定の長さ以上では生分解性を示さなくなることが予想されますが,その長さは未解明でした。
私たちはAA-BB型直鎖脂肪族ポリエステル(PBAD)とA-B型直鎖脂肪族ポリエステル(PωHA)を合成し,その環境分解性について微生物学的観点から詳細な評価を実施しました。その結果,nが10を超える長鎖の場合には環境中での生分解性を示さないこと,PωHAでもn=14では環境中での生分解性を示さないことを明らかにした。一方で,調査したPBADとPωHAのいずれも加水分解をする酵素を産生する微生物が環境中に存在し,その加水分解物は生分解することを明らかにしました。このことは,これらのポリエステルは,特定の条件下では分解する可能性を秘めた潜在的生分解性高分子であるいえます。また,脂環式ポリエステルも同様に加水分解をする微生物の存在とその加水分解物の生分解性を明らかにしました。
【還元刺激応答性生分解性高分子】