研究内容
気候変動予測の研究は、70年以上のコンピュータの発展の歴史とほぼ等しい期間、その観測・解析がなされ続けて来ました。現在では人類の活動により排出されるCO2が地球温暖化に繋がることを示す高精度なモデルの構築に至っています。これを受けて、COP21(第21回気候変動枠組条約締約国会議,2015年12月12日、パリ)で採択されたパリ協定では、政策転換を迫る国際的なCO2削減が求められており、日本も2013年比で2030年までに46%のCO2排出量を削減する目標を打ち立てています。しかし、その実現のための環境に配慮した安全で安定なエネルギー供給の在り方には、原子力利用を含め、未だ大きな議論があるところです。一つだけ明らかなのは、多様なエネルギー源を活用し、低環境負荷で、高効率なエネルギー変換や貯蔵の技術は必ず必要になるということです。橋本研究室では、「固体イオニクス材料」を通じて、価値ある新しい高効率なエネルギー変換・貯蔵技術の確立に尽力しています。研究方針には、(1)新規材料合成と設計、(2)新機能材料の発現する反応機構の解明、(3)新機能電気化学デバイスの作動と高効率化、の三つの柱があり、これらは独立せずに、お互いリンクしながら推進しています。
固体イオニクス材料と燃料電池などの電気化学デバイス
「固体イオニクス材料」とは、固体内をイオンが導電する材料を指します。橋本研究室では、プロトン(H+)や酸素イオン(O2-)が固体内を導電する固体イオニクス材料を主に扱っています。これらの固体イオニクス材料は、燃料電池などの電気化学デバイスに応用可能です。以下にこれら各種固体イオニクス材料を電解質に用いた固体酸化物形燃料電池(Solid Oxide Fuel Cells, SOFC)の発電時における物質移動を示します。
固体酸化物形燃料電池(SOFC)の作動原理 (a)酸素イオン導電体を用いた場合 (b)プロトン導電体を用いた場合 (c)プロトン-酸素イオン混合イオン導電体を用いた場合
既にエネファーム等で実用化されているSOFCの電解質は、(a)の酸素イオン導電体を用いたもので、発電効率の良いものでは60%以上になり、燃料電池の中で、もっとも効率がよく、長寿命でもあると言われています。しかし、燃料極側に水(水蒸気)が湧き、燃料を薄める要因になります。燃料電池の効率は(理論起電力に対する発電時の電圧の比)×(燃料利用率)で決まるため、より高い効率を求めるためには、高い燃料利用率が維持できる(燃料が薄まらない)、(b)のプロトン導電体を用いたSOFCが注目されています。また、(c)のようにプロトン(H+)と酸素イオン(O2-)の両方のイオンが同時に導電するプロトン酸素イオン混合イオン導電体を用いたSOFCもあります。(b)や(c)のプロトン導電性を発現する酸化物の固体イオニクス材料には、①ホール導電の抑制、②水和膨張の抑制、③耐CO2性など熱力学的安定性、といった課題があります。
また、「固体イオニクス材料」は、燃料電池以外にも様々な電気化学デバイスにも応用されています。ガスセンサーはその応用の重要な分野で、酸素イオン導電体を用いた酸素センサーは、自動車の排ガスの空燃比制御に用いられ、プロトン導電体はAlなどの溶融金属炉中の水素濃度を管理するために使われています。さらに、酸素イオン導電体を用いて、酸素NOX(窒素酸化物)から酸素を引き抜き、除害することも検討されています。
パリ協定批准以降、さらに注目されるようになった分野が、再生利用エネルギーと廃熱を利用した水蒸気電解による水素製造です(Power to gas:P2G)。水の電気分解は、吸熱反応ですが、作動温度を上げ、廃熱を利用することで、水の電気分解に要する電気エネルギーを抑制できます。また、さらにCO2も活用し、燃料(e-fuel)などを合成するP2C(Power to Chemicals)も検討されています。
固体イオニクス材料を用いた電気化学デバイスの応用例 (a)酸素センサー 、(b)NOx分解、 (c)水素と酸素の併産
橋本研究室の取り組んでいる研究テーマ
橋本研究室では、上記のような背景のもと、SDGsに貢献できる固体イオニクス材料および、電気化学デバイスに関連する研究を行っています。
研究業績
researchmap 会員ID: R000061088
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