八海の国風土記ができるまで

本研究の目的

私たちは研究対象を南魚沼市八海山麓地域と決め、地域特有の文化資産の利活用をもって地域の課題を解決することを目標に研究を進めてきました。その研究の各プロセスにおいてデザイン思考を活用し、従来の学問の領域を超えたアプローチ(学際デザイン)を行なっています。

私たちの研究の流れ

調査から見えてきた地域の特徴

この地域の風土を強く規定するのは雪と山です。地勢的に東西を山々に囲まれた盆地となっている八海の国。特に東側には、霊峰八海山を含む越後三山など険しい山々が連なります。それによってもたらされる豪雪は、厳しいながらも豊富な雪解け水で地域を潤してきました。南北を貫く三国街道や魚野川といった交通網はこの地域に人々の往来を生み、交通の要所であることから、江戸時代には宿場町として栄え独自の文化が形成されました。

この地域特有の課題とは

調査を進めるにつれ、私たちは、この地域の豊かな文化資産に気づくことになりました。いつ見ても美しく豊かな自然、古代から紡いできた歴史や文化。しかしその一方で、それらがうまく外の人に伝わっていないばかりか、地域の人もあまり知らないことが分かってきました。

もともと雪国独特の「しょうしい(はずかしい、引っ込み思案)」な性格に加え、克雪技術が発達し、冬でも交通の便が良くなったことによって外の地域へ目が向きやすくなったこと。さらに合併の影響により小中学校が統廃合され校区が広域化してしまったこと。それらが郷土への無関心を生んでしまったのではないだろうかということに気づいたのです。

この地域の歴史を踏まえて分析すると、次の4つの時層に分類されるということがわかってきました。

これらの時層の積み重ねから見えてきたのが八海の国の人々の感情表出の特性です。

外の人と出会ったことで、新たなフィルターも形成されたと言えます。これらの表出レベルには心理的、物理的な距離が関係していると考えます。


「しょうしいフィルター」これは新潟の県民性とも言われますが、表立って主張しない、恥ずかしがりで控え目な気質です。


「引け目感情」次が引け目感情で、これは先ほどの時層で言うと、貧しい農村時代〜列島改造時代に育まれたものと考えられます。主に都会との比較により生じる劣等感であり、地元に対する少し否定的な、卑下する感情です。


「お国自慢意識」:主に隣村に対しては「あそこには負けらんねぇ」という意地や見栄が発揮され、対抗意識を燃やします。この2つは現在でも年が上の人ほど感じられます。


「しねばなんねぇ」:「ウチ」と「ヨソ」の境界がはっきりしていた時代、ウチに対して発揮されるのがこの精神性でした。雪深いからこその助け合いは、血縁・地縁内である「ウチ」に発揮されるものであって、その地域のために「しょうがねぇっけ、オラが一肌脱ぐか」という覚悟を感じることができます。つまり、心理的、物理的距離に応じて、表出レベルが異なっているといえます。

レペゼン八海

自らが根ざす地域について「なんもねぇ」と言いながら、内に秘めた郷土愛を持ち、多少の見栄を張ってでもムラを背負い、見知ったライバルには負けないぞという意識。

文化資産の価値を後世に伝えるには

以上より、私たちは地域の人に使ってもらえる風土記をつくり、次のようなきっかけを作れないかと考えました。

    1. この地域に暮らす人々が、自身の郷土である八海の国の風土に対する理解を深める

    2. 地域の人が「しょうしさ」を超え、自らの言葉で地域のことを話せるようになる

    3. 自分と地域を接続することで、八海の国への愛着を育む

「八海の国風土記」のビジョン

外の人間である私たちがつくれるのは、地域の人が郷土に目を向けるきっかけだけです。しかし、これだけの素晴らしい文化があり、それが継承の危機におちいっていることを一人でも多くの人に知っていただくことが第一歩だと考えます。これを機に、地域の人が自分たちの風土記として発展させていってくださることをビジョンとしています。